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その日、玉はお昼休みの時間に友人と話していた。
「あら、また懐かしいものを持ってきていますね……」
*
「蜻蛉さん、見てください」
いつもの通りに呉服屋へと足を運んだ蜻蛉を迎えたのは、珍しく意気揚々としている玉だった。その様子を見た蜻蛉は一言。
「きもい」
「出会い頭に失礼ですねぇ」
しかし、玉はそんな言葉で落ち込む女では無い。
「それはそうと、見てください。今日学校で見て懐かしくなって買ってしまったんですよ」
彼女の手に握られているのは、兎やらシャボン玉、虹などのイラストが描かれたファンシーな紙__プロフィール帳だった。何事にも動じない、ある意味で鉄の女な玉と、小学生女児が好むこの紙は、あまりにもミスマッチだ。
「お前……そういうの絶望的に似合わねェな」
「ふふ、言われるとは思ってました」
でも、本当に言われるとショックですね。
全く動じずに告げた彼女を、慣れたようにスルーすると、彼はそのファンシーな紙を半ば奪い取るようにして見る。
「名前・生年月日・血液型……。なんだよ、こんなに個人情報搾り取るとか、占いでもする気か。長所と短所、チャームポイント?そんなの知ってどうすんだよ」
「そういうのは、書くのが楽しいのであって、情報そのものはどうでもいいのでは」
そう言って、玉は鞄からもう一枚、同じデザインの紙を取り出す。
「では、蜻蛉さん」
彼は嫌な予感がした。しかし、もう逃げるには遅すぎた。
「一緒に、プロフィール交換と致しましょう」
*
「呉凪 玉。誕生日、一年のうちのどこか。血液型、AかBかABかO。長所は笑顔で、短所は思いつかない。チャームポイント、笑顔」
「神咲 蜻蛉。誕生日、どっか。血液型、どれか。長所、顔。短所、特に無し。チャームポイント、ご想像にお任せします」
お互いのを読み合った二人は、一つ息を吐いてから、顔を見合わせる。
「蜻蛉さん、そもそもお名前は偽名でしょう。それに、『どっか』とか『どれか』って……。『ご想像にお任せします』は少しいいと思いましたよ」
苦笑いの玉。
「そういうお前こそ、答える気が全然無いじゃねェかよ。それと、長所とチャームポイントって違うもんじゃねェの」
机に頬杖をつく蜻蛉。
二人は再び視線をお互いのプロフ帳へと落とす。
玉の文字は、整っていた。止め・跳ね・払い。どれをとっても、美しい文字だった。文字の大きさも、女子特有と言われつつある極小な感じのものではなく、程よい大きさでとても見やすい。
対して蜻蛉のは、決して玉の物を超えるほど美しいとは言えないが、それでも男性にしてはとても読みやすい文字だった。若干右肩上がりな文字が、彼の個性を表してもいる。
「結局、あれですね」
「そうだな、あれだな」
再度顔を上げて、方や笑顔で、方や無表情で向き合った二人は納得したように言った。
「個人情報なんて、こんな安全性の低い紙に書くのが間違いですね」
「全くもってその通りだ」