表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 鷹弘
カップ麺
10/26

久々投稿です!感想とか、ぜひ下さい!めっちゃ待ってます!笑

 その日、蜻蛉(とんぼ)はスーパーに来ていた。


「…ん、安い」


 その場に居た全員は思った。

 彼ほど、スーパーが似合わない男は居ないんじゃないだろうか。




   *




「おい処女、湯沸かせ」

「突然ですね、蜻蛉さん」


 居間で興味さなそうに、薄い笑みを浮かべながらテレビを見ていた(ぎょく)は、ツッコミを入れながらも、立ち上がって台所へと向かう。


「どうしたんですか、本当に急に」

「ん」


 玉の問いに、蜻蛉はレジ袋を差し出すだけで答える。無言で受け取り、中を確認した玉は苦笑いで一言。


「……蜻蛉さん、カップ麺って似合いませんね」

「うっせェ。いいから作れ」

「分かりました。ところで、そんなにカップ麺お好きでしたっけ」

「別に。安かったから」


 コンロの火を着ける行為を何度も失敗する玉は尋ね、そんな彼女を横に追いやってさっさと火を着けた蜻蛉は答える。


「お前、不器用かよ」

「おかしいですね。嫌われてるんでしょうか」

「コンロにか」

「コンロにです」

「アホらし」


 鼻で笑う蜻蛉に、玉はいつもの笑みで対応する。


「処女。ストップウォッチ用意しておけ」

「え、大体で良くないですか」

「本物のアホかよ。こういうのはきっちりやるべきだろ」


 真顔で返してきた蜻蛉の整った横顔を、少し意外そうに玉は見つめる。


「……なんだよ」


 視線が煩わしいのか、不機嫌そうに横目で見てきた彼に、玉は慌てたようにいつもの笑顔で答える。


「いえ、少し意外だなと思いまして。蜻蛉さんとは、とてもじゃないですが短くはない時間を共に過ごしてきました。でも、そこまできっちりしてるとは思いませんでした」

「奇遇だな。俺もお前がそんなに適当だとは思わなかった」


 そして、無言になる。

 先に口を開いたのは蜻蛉だった。


「……本に付いてる帯。俺はつけっぱなし」

「さっさと取ります。

 では、プリント類の整理。私は折った際に、ある程度曲がっていても気にしません」

「きっちり角と角を合わせて折った後に、爪でより念入りに折る。

 これで最後だ。カップ麺の時間。俺はきっちりお湯を一滴でも入れた瞬間から、ストップウォッチを押す」

「私は、お湯を全て入れてから、体内時計でおよその時間ですね」


 そして、また無言になる。

 お湯が沸いた。


「……意外と、人は見かけによりませんね」

「そうだな」


 そして、玉はヤカンを持ち上げる。蜻蛉は、彼女から受け取ったストップウォッチと、携帯のストップウォッチを用意する。

 玉が、片方にお湯を注ぐ。同時に、ストップウォッチが押される。

 もう片方にもお湯が注がれる。携帯のストップウォッチがスタートする。


「……机に持ってくぞ」

「はい」


 そこから、三分後にアラーム音が鳴るまで、二人は無言でカップ麺を眺め続けた。




   *




「私は思います。別に測らなくても、適当なところで食べ始めても味は変わらないと」

「製造した側が三分後に食えって言ってんだから、その通りにした方がいいに決まってんだろ」


 一口啜る。


「そうですか」

「そうだ」


 また一口。


「蜻蛉さん、実は言いたいことがあったんです」

「今日は、偶然が重なるな。俺も言いたいことがあった」


 更に一口。

 二人は目線を、麺が食べ尽くされたスープに落としながら口を開く。


「蜻蛉さんって、カップ麺似合いませんね」

「処女。その言葉、そのまま返す」


 そして、二人同時にスープを飲み干した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ