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久々投稿です!感想とか、ぜひ下さい!めっちゃ待ってます!笑
その日、蜻蛉はスーパーに来ていた。
「…ん、安い」
その場に居た全員は思った。
彼ほど、スーパーが似合わない男は居ないんじゃないだろうか。
*
「おい処女、湯沸かせ」
「突然ですね、蜻蛉さん」
居間で興味さなそうに、薄い笑みを浮かべながらテレビを見ていた玉は、ツッコミを入れながらも、立ち上がって台所へと向かう。
「どうしたんですか、本当に急に」
「ん」
玉の問いに、蜻蛉はレジ袋を差し出すだけで答える。無言で受け取り、中を確認した玉は苦笑いで一言。
「……蜻蛉さん、カップ麺って似合いませんね」
「うっせェ。いいから作れ」
「分かりました。ところで、そんなにカップ麺お好きでしたっけ」
「別に。安かったから」
コンロの火を着ける行為を何度も失敗する玉は尋ね、そんな彼女を横に追いやってさっさと火を着けた蜻蛉は答える。
「お前、不器用かよ」
「おかしいですね。嫌われてるんでしょうか」
「コンロにか」
「コンロにです」
「アホらし」
鼻で笑う蜻蛉に、玉はいつもの笑みで対応する。
「処女。ストップウォッチ用意しておけ」
「え、大体で良くないですか」
「本物のアホかよ。こういうのはきっちりやるべきだろ」
真顔で返してきた蜻蛉の整った横顔を、少し意外そうに玉は見つめる。
「……なんだよ」
視線が煩わしいのか、不機嫌そうに横目で見てきた彼に、玉は慌てたようにいつもの笑顔で答える。
「いえ、少し意外だなと思いまして。蜻蛉さんとは、とてもじゃないですが短くはない時間を共に過ごしてきました。でも、そこまできっちりしてるとは思いませんでした」
「奇遇だな。俺もお前がそんなに適当だとは思わなかった」
そして、無言になる。
先に口を開いたのは蜻蛉だった。
「……本に付いてる帯。俺はつけっぱなし」
「さっさと取ります。
では、プリント類の整理。私は折った際に、ある程度曲がっていても気にしません」
「きっちり角と角を合わせて折った後に、爪でより念入りに折る。
これで最後だ。カップ麺の時間。俺はきっちりお湯を一滴でも入れた瞬間から、ストップウォッチを押す」
「私は、お湯を全て入れてから、体内時計でおよその時間ですね」
そして、また無言になる。
お湯が沸いた。
「……意外と、人は見かけによりませんね」
「そうだな」
そして、玉はヤカンを持ち上げる。蜻蛉は、彼女から受け取ったストップウォッチと、携帯のストップウォッチを用意する。
玉が、片方にお湯を注ぐ。同時に、ストップウォッチが押される。
もう片方にもお湯が注がれる。携帯のストップウォッチがスタートする。
「……机に持ってくぞ」
「はい」
そこから、三分後にアラーム音が鳴るまで、二人は無言でカップ麺を眺め続けた。
*
「私は思います。別に測らなくても、適当なところで食べ始めても味は変わらないと」
「製造した側が三分後に食えって言ってんだから、その通りにした方がいいに決まってんだろ」
一口啜る。
「そうですか」
「そうだ」
また一口。
「蜻蛉さん、実は言いたいことがあったんです」
「今日は、偶然が重なるな。俺も言いたいことがあった」
更に一口。
二人は目線を、麺が食べ尽くされたスープに落としながら口を開く。
「蜻蛉さんって、カップ麺似合いませんね」
「処女。その言葉、そのまま返す」
そして、二人同時にスープを飲み干した。