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防衛戦(1)

 村の入り口につくと、自警団と思われる若者が数人、手に武器を持って集まっていた。

 しかし、昨日盗賊に襲われたばかりでろくに睡眠もとっていない彼らに、百を越える魔物の相手は難しいだろう。

 状況を見る限りでは、まだ魔物は到達していないようなのがせめてもの救いか。

 

 「時間がない、手短に状況を話すのじゃ」

 

 さすがに私といえども、村の中に流れ込まれてからでは手を出すのが難しい。

 なんとか村にたどり着く前に抑え込みたかった。


 「魔物の群れはまっすぐこの村を目指しています。もう間もなく最初の一波が到達するかと」

 

 自警団の一人がそういいながら、手に持った一つの地図を見せてくる。 

 そこには周辺の詳しい地形とおおまかな魔物の通り道が記されていた。

 おそらく、自警団の者たちが長い時間をかけて培ってきた知識の結晶なのだろう。


 「なかなかやるではないか。これは少し評価を改めなければいけないな」

 

 ありがたく地図を受け取り、現在魔物が進行しているルートを確認する。

 すぐさま、網目状に広がる魔物の通り道が、村から続く街道に向かって合流する場所を見つけた。


 「迎撃するならここか」

 

 「ですね。我々もそこを防衛拠点と考えて、残りの自警団は全員そこに待機しています」

 

 迎撃地点を自警団と確認して、急いでそこに向かう。

 さすがに無手では厳しいので、自警団から身の丈ほどの剣を貸してもらった。

 村の入り口にいた者には魔物を漏らした時のために待機してもらい、一人で迎撃地点へと駆け抜ける。

 

 「……騒がしいの」


 迎撃地点に近づくにつれ、木々のざわめきに混じって獣の唸り声や無数の足跡、巨大な羽音などが聞こえてきた。

 どうやら群れは相当近くまできており、すでに戦闘がはじまっているようだ。

 

 「ギリギリ間に合ったか」

 

 先頭を走っていたと思われる狼型の魔物の群れと、自警団の者が交戦しているのを目で確認する。 

 負傷者は出ているようだが、幸いまだ死者はいない。

 

 「頭を下げろ若いの!」

 

 駆ける速度は落とさずに、強化した脚力で砕くように地面を踏みつける。

 その反動で宙高く舞い上がり、私の声に反応して頭を下げた自警団の者の頭上を通って、前線へと躍り出た。

 着地と同時に体をひねって剣を横に薙ぎ、目の前にいた狼型の魔物を切り捨てる。

 

 「前線は私が維持する! ぬしらは逃げた魔物を頼んだぞ!」 


 魔物は恐慌状態に陥っており、目の前の相手を無作為に襲うようだ。

 何かに追われているらしいというのはこういうことかと納得する。

 

 「さて、何が出るか楽しみじゃ。とりあえず主菜がくるまでは、お主らを食い散らかすとしよう」

 

 借り受けた剣に魔力を流し込んで私が振るっても壊れないよう強化し、敵意をむき出しにする魔物と向かい合う。

 念のため背後に自警団を待機させていたが、撃ち漏らす気は全くなかった。

 

 「昨日の盗賊では消化不足なのでな。すこし運動に付き合ってもらうぞ」

  

 私が不敵な笑みを浮かべると同時に、仲間を殺された狼が怒りをあらわにして襲いかかってきた。

 頭に向かって噛みつこうと飛びついてきたところをかわし、隙だらけの体を全力で殴りつける。

 強化された拳で殴られた狼は、後ろで控えていた魔物を巻き込んで吹き飛んでいった。

 

 「す、すげえ……」

 

 後ろの方で自警団があっけにとられているのをちらりと横目でみつつ、悪い気分はしないなと小さく唇の端をあげた。

 

 「魔王軍の連中は力を見せると嫉妬するからのぉ。こうして憧れがこもった目でみられるのは久しぶりじゃ」

 

 自分が一番でないと気が済まないという問題児が多かったのも、あの頃は頭痛のタネの一つだった。

 これだから脳筋は! と何度叫んだか数える気にもならない。 


 なんて考えているうちに、後続の魔物も続々と到着する。

 人の半身ほどもある羽虫、地を這う毒々しい色の蛇、頭が二つある牙だらけのネズミなど、その種類は多岐に渡っていた。

 

 「本当に森中の魔物が集まってきているようじゃな。悪く思うなよ、これも依頼なのでな」

 

 理性をった魔物達は、私から逃げるという選択すら思い浮かばないようで、本能の赴くままに道を塞ぐ私へと襲いかかってくる。

 魔物達を右手で握った剣で撃ち落とし、その間に左の手で集めた魔力がバチバチと音を鳴らして雷撃を形成していく。

 

 「チェーンライトニング」

 

 完成した魔法を、目の前の魔物に向かって打ち出す。

 手から放たれた雷の矢は正確に魔物に着弾し、同時に近くの魔物へと連鎖するように網目状に広がっていった。

 一瞬にして焼け焦げた魔物の死体が目の前につみあがる。

 今の一撃だけでも、集まっている魔物の四分の一程度は倒しただろう。

 

 「……のじゃが、一切ひるむ気配はないな」

 

 目の前で広がる惨状など物ともせず、焼け焦げた死体をのりこえ次々と後ろの魔物が襲い来る。

 

 「ぬしらの背後にいる何かは、そんなに恐ろしいのか?」

 

 いまだこの魔物の群れが何から逃げているかはわからないが、尋常でない力をもったものだというのはこの魔物達の反応からもわかる。

 この時代の魔物は軒並み弱体化してしまったかと思ったが、すこしは骨がある相手と戦えるかもしれない。 


 「心置きなくそやつと戦うためにも、邪魔者は排除せねばな」

 

 この数を剣で相手するのはまどろっこしい。

 私が大きく左手を振るうのと同時に、背後に無数の紅い魔法陣が展開される。

 パチンと指を鳴らしたのを合図に、陣は輝きを放って炎の弾を吐き出した。

 

 「燃やし尽くせ」

 

 炎の弾による絨毯爆撃によって、一切の抵抗を許さずに魔物を灰に変えていく。

 

 「っと、木に火がつくと危ないの」

 

 撃ち終わった後に森に火がついてなかくてよかったとそっと胸をなでおろす。

 魔法を使い始めると頭に血が昇って周りが見えなくなってしまうのは、魔族の性というものだろう。

 炎の熱でかいた汗を拭うように髪をかきわけ、剣についた魔物の血を振り払った。

 

 視界に映るのは、積み重なる焦げた魔物達だけ。

 

 ごくり、と後ろで唾を飲み込む音がした。

 村の人が見ている前でやりすぎたかと今更ながらすこし後悔する。

 この世界の標準的な冒険者の力がわからないというのは、なかなかに不便だ。

 

 「ま、過ぎたことはしょうがない。それに、ここから先はさらに激しい戦いになるじゃろうしの」

 

 ずしん、ずしんと体の奥を揺らすような音が、森の中に響き渡る。

 地面は揺れ、他の生き物は決して気配を悟られぬよう息を潜めているのか、辺りはシンと静まり返っていた。

 

 「冗談だろ……。あれってまさか、旧種……」 

 

 背後で控えている自警団の一人が、震える声でそう呟く。

 気になる言葉がでてきたが、それを問いただすのはこいつをどうにかしてからだろう。

 

 「確か種族名はランページボア、だったか。こんな巨大な個体がいるなんて話は聞いたことがないが」


 体中に苔を生やし、美しさすら感じさせる刃物のような牙を携えた、神々しい雰囲気をまとう猪。

 木々を押し倒し私の前に現れたソレは、見上げるほどの巨体を揺らしながら威圧するように私を睨みつけた。

 その眼圧に対抗するように、私も剣を構えて巨大な猪を睨み返す。 

 

 「楽しませてもらうぞ、老猪よ」

  

 私の言葉に反応するかのように、この騒動の元凶は大きく不敵に鼻を鳴らした。


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