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盗賊団首領

 「さて、仲間の人数と親玉の居場所を吐いてもらおうか」

 

 拘束魔法で縛り上げた盗賊の前に立ち、首筋に剣をあてて尋問をする。

 

 「けっ、仲間を売れるわけないだろ」

 

 「ふむ、見上げた心意気じゃな。ま、無駄な覚悟ではあるが」

 

 剣を持っていない手で男の頭をがしりと掴み、強引に記憶を読み解く。

 魔族でも上位の者にしかできない芸当だが、こいつらには何をされているかはわからないだろう。

 

 「……なるほど、残り約二十人、首領と村人達は中央の広場か」

 

 私の呟きに、男はなんでと驚愕の声を上げる。

 

 「おぬしが知る必要はないよ。さて娘よ、大事な家族も無事なようじゃ。さっさとケリをつけにいこうか」

 

 その言葉をきいて、娘はほっと安堵のため息をつく。

 とはいえ、もたもたしていてはいつ彼女の家族に危害が加わるかわからない。

 

 「ありがとうございますエリーゼ様。……本当にお強いんですね」

 

 広場へと急ぎながら、娘が畏怖と感謝の念をこめてそう口にする。

 全力には程遠い力しか使っていないので、あの程度でそこまで賞賛されるとどうもむず痒い。

 

 「いやあれはあの者達が弱すぎるだけだと思うのじゃが……。っと、ついたようだぞ」

 

 焼け残った建物の物陰に隠れ、人だかりができている広場へと目を向ける。

 村人達は全員手を後ろで縛られ、その周りの囲むように盗賊達が立っていた。

 

 「さて、投降を選択した賢明な諸君。君たちの英断を評して、これから俺たちの奴隷として生きる道をくれてやる」

 

 杖をもった男が仰々しい動作でそう村人の集団に告げる。

 同時に、村人を囲っている盗賊達がゲラゲラと笑い声をあげた。

 対照的に村人達はうつむいて押し黙っており、暗い空気が支配している。

 

 「ずいぶんと腹が立つ物言いな男じゃの」

 

 かつて部下にいた偉そうな魔族を思いだし、すこしげんなりとした気持ちになる。

 ちなみにそいつは調子に乗って勇者に挑んだあげく、焼き達磨にされて畑の肥料と化した。

 

 「ほら喜べよお前ら!」

  

 盗賊の一人がそう叫んで、近くにいた村人を蹴りあげる。

 それをみた他の村人達は、ぼそぼそと小さな声でありがとうございますと呟く。

 

 「ひどい……。なんてことを」 


 「悪趣味な、見ていて気分のいいものではないな」

 

 これ以上様子を伺っていても価値ある情報は入ってこないと判断し、足元にあった小石を拾って思いっきり振りかぶった。

 

 「因果応報、自分のしたことの報いを受けるといい」

 

 全力で投げつけられた小石は、今村人を蹴り上げた男にむかって一直線に飛んでいく。

 直撃した石に肩を砕かれた男は、暗闇に響き渡るような叫び声をあげた。

 

 「何事だ!」

 

 急に叫び出した仲間の方に向かって、盗賊達は揃って視線を集める。

 その間抜けさに笑いがこみあげそうになりつつも、彼らの背後から名乗りを上げた。

 

 「こっちじゃよ間抜けども」

 

 私の声につられるように、盗賊達の視線は私に移動し、そしてまるで石にでもなったかのように動きを止めた。

 

 「カースバインド」

 

 私の背後に、眼球のような模様をかたどった魔法陣が展開されていく。

 それを目にした盗賊達は、まるで体が石にでもなったかのように身動きを封じられ、指一本動かすことすらできなくなった。

 これは陣を目にした者全てに効果を発揮するので、大人数を一度に相手を無力化するにはもってこいの魔法だ。

 この程度の連中は相手にもならないが、ヤケになって村人に手を出されては困るので、先手を打って無力化を施しておく。

 

 「挨拶もする間も無く勝負がおわってしまったが、相手が悪かったと思って諦めるのじゃな」

 「エリーゼ様、まだです!」

 

 もはやこいつらに抵抗する術はない。

 さっさと盗賊どもを拘束して村人を助けようとした時、背後から娘の声が聞こえ、同時に私に向かって火球が襲い掛かった。

 その炎を片手で払いのけつつ、術者の方へと目を向ける。

 

 「ほう、魔力を抑えているとはいえ、私の魔法をレジストするか」

 「何者だ貴様……!」

 

 先ほど偉そうに演説をしていた男が、髪を振り乱し、血走った目でこちらを睨みつけていた。

 どうやら杖を持っていることからも魔法を主な攻撃手段にしているようで、その甲斐もあってか盗賊団でただ一人私の魔法から逃れたらしい。

 

 「おぬしがこの盗賊団の首領じゃな」

 

 さきほど別の盗賊の記憶から読み取った男の顔と照らしあわせ、目の前の魔法使いが盗賊団の首領であることを確認する。

 

 「何者といったか。なに、しがない通りすがりの冒険者じゃよ」


 さすがに元魔王とは名乗れないので、適当に嘘をでっち上げて男の質問に答える。

 最も、首領の方は私の回答などほとんど聞いておらず、次の魔法の構築に忙しいようだが。

 

 「そうか、じゃあ死ね!」

 

 私が喋り終わると同時に、男は大きく杖を振るった。

 同時に、私の足元に紅く輝く魔法陣が浮かび上がり、そこから昇った火柱が私の全身を包み込む。

 

 「ひゃっはっはっ!! 誰だかしらんが俺様に楯突くからこういうことになるんだよ!」

 

 勝利を確信したように狂笑をあげる男を、炎の中から心底興味を失った目で眺める。

 私の魔法に抵抗したのだから、少しはやりがいがあるかとおもったけれどどうやら期待はずれらしい。

 

 「……ぬるいのぉ」

 

 一歩、また一歩、私は歩みを進めて炎の柱の中から出る。

 体には焼き跡一つつかず、身にまとった衣にも一つのほころびもない。

 業火をものともしない私を見て、首領は目の前の光景を理解できないとでもいうように表情を引きつらせた。

 

 「な……直撃したはず……」

 「直撃はしたがの、この程度の魔力では私の肌に触れることなど叶わぬわ」

 

 首領を名乗る男のレベルでもこの程度。

 どうやら私が思っている人間像とここにいる盗賊達との間には、だいぶ大きな壁が隔たっているようだ。

 魔法の構成も、込められた魔力も、立てる戦略も、幼稚だとしか言いようがない。

 

 「つまらんな、そろそろ終わりにさせてもらおうか」

 

 改めて私と自分自身との実力の差を思い知ったのか、さきほどまで自信に満ちていたその表情を恐怖に歪ませ、男は地面に尻餅をついた。

 嫌だ嫌だとつぶやきながら、そのまま後ずさる男を追うように、一歩、また一歩と距離を詰める。

 

 「死ぬ前に一つ教えてやろう」

  

 パチンと私が指を鳴らすと、さきほど男が使った魔法のように地面に紅い魔法陣が浮かび上がった。

 

 「魔法とは、こう使うのじゃ」

 

 男が陣の中から逃げる隙を与えず、魔法の発動と共に燃え上がった紅蓮の炎は、まるで大蛇のように瞬く間に男を呑み込んだ。

 炎の蛇はそのまま空へと登るように消えていき、あたりは一瞬ののちに静寂を取り戻す。

 私の魔法に呑まれた男は、骨すらのこらず灰となって夜空に散っていった。 

 


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