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夜の始まり


 「ほれみろ、ばれっばれじゃぞ」

 

 「いやほんと、まんまとはめられたみたいだ」

 

 私が軽く言い放った文句に、ユーリはやれやれと首を振って答える。

 その顔には全く焦りの色はなく、飄々とした態度はこの窮地に陥っても崩れることはない。

 

 「随分と余裕だな勇者殿。それとももう諦めきったのかな?」

 

 白装束達のまとめ役らしい男が、自分たちの勝利を確信しているようにユーリにそう言い放つ。


 「言われてるぞユーリ」

 

 「まぁ実際余裕だからね」

  

 白装束達を挑発するような言葉を口にしながら腰の剣にユーリが手をかけ、その動きにならうように私も背負っている大剣の柄を握った。


 「これだけの人数相手にたった三人で勝負になるとでも」

 

 「隣のもやし勇者はともかく、この人数なら私の敵ではないな」

 

 敵の数は部屋の中に30人ほど、普通の人間相手ならならいざ知れず、私の前では塵芥ちりあくたに等しい。 

 

 「言ってくれるね、勇者名乗っている以上僕もこれくらいの人数楽勝さ」

 

 「おぬしこないだ三人相手に苦戦しとったじゃろうが」

 

 お互い軽口を叩きながら、白装束達の様子を伺って攻撃に出るタイミングを計る。

 

 「勇者抹殺の許可は出ている、仲間もろとも生きて返すな!」

 

 そしてついに私たちのバカにしたようなやりとりに業を煮やしたのか、リーダー格の男が攻撃の合図を出した。

 男の指示に従い、一斉に白装束たちは用意していた魔法を放ち、武器を手に襲いかかってくる。

 

 「イオネ、ここはユーリと私に任せて退路の維持を頼んじゃぞ!」

 

 「……了解」

 

 イオネが一歩下がったのと同時に、私とユーリも前に出た。

 抜きはなった大剣で飛んできた魔法をたたき落とし、返す刀で武器を構えた白装束たちの頭を落とす。

 

 「まずは三人」

 

 警戒すべきは勇者だけではないということを見せつけられ、一瞬白装束たちに動揺が広がった。

 腐っても勇者なだけあり、ユーリもその隙を見逃さずに近くの敵を切り倒していく。

 

 「甘いわ」

 

 さすがに前に戦った盗賊たちよりは練度が高いが、私が生きた時代の人間たちほどではない。

 圧倒的な力の差を前に、白装束たちはなすすべもなく力尽きていく。

 

 「また一人追加。ほれユーリ、大口叩いた割にその程度か」

 

 「いえいえ、まだこれからですよ!」

 

 私の一撃を防ぐため構えられた剣ごと白装束を叩き斬りながら、おちょくるようにユーリを挑発する。

 挑発に乗ったユーリは、街道で白装束と戦っていた時とは比べものにならないほど洗練された動きで、敵を狩るペースを上げていった。


 「な……! バカな、情報では今代の勇者の戦力はもっと低いはず……! いや、それよりなんだこの女の馬鹿げた強さは!」

 

 リーダー格の男は倒れていく部下達を見ながら、恐怖と驚きで顔を歪めることしかできない。

 その間にも私とユーリの剣は向かいくる白装束達をほふっていった。

 

 「ほれほれどうした! 私たちを抹殺するのではなかったのかっ?」


 その問いに答える暇もなく、また一人私の眼の前で白装束が一人崩れ落ちる。

 振り下ろした大剣の切っ先が肉を裂き、骨を叩き割る感触が手に伝わってきた。

 返り血で頬が紅く濡れるがそんなことは気にもせず、もはや逃げることしかできない白装束の命を躊躇なく摘み取っていく。

 床や壁は白装束たちの流した血で赤い花を咲かせ、部屋の中には錆びた鉄のような匂いが充満していた。

 

 「勝負あったな」

 

 「そのようだね」 


 そう呟きながら、大剣を薙いで血を払う。

 ユーリの宣言通り余裕で三十人全員を圧倒した私たちは、リーダー格の男を除き白装束達が一人残らず沈黙した部屋で、ニヤリと勝利の笑みを浮かべた。

 

 

 

 「さて、ゲニウスの遺骨はどこにあるのか、さっさと吐いてもらおうか」 

 

 縛り上げたリーダー格の男に対し、形式上とはいえ一応そうたずねる。

 だが男は黙りこくって俯いたまま、何も答えようとはしない。

 

 「答える気がないなら無理にとは言わん。その代わり頭を直接覗かせてもらうがな」

 

 そう告げてもなお喋る気がないようだったので、盗賊達にやったように記憶を読み取ろうと頭の上に手を置いた。

 と、同時に男はがばっと顔を上げ、焦点のあっていない目で私の顔を睨みつける。

 その口角は異常なほど吊り上り、まさに凶相といった面持ちをしていた。

 

 「教皇の望む未来に幸いを!」

 

 そう男が叫ぶと同時に、男の体内の魔力が爆発的に増加し始める。

 

 「まずい……!」

 

 とっさに男から手を離して距離を取ろうとするが間に合わず、魔力の膨張と共に物理的にふくれあがっていく男の姿が目にはいった。

 次の瞬間、爆音が耳をつんざき、私の視界を爆煙が覆う。

 

 「エリーゼさん!」

 

 「大丈夫じゃ。……しかしこれは」 

 

 爆音に混じってユーリの悲痛な声が聞こえるが、男の命を張った最後の攻撃も私の魔力障壁を貫くには足りなかったようで、体には傷一つ負わされてはいない。

 けれど、貴重な情報源である男はもはや物言わぬ肉片になってしまい、これでは頭の中を覗くこともできなくなってしまった。

 

 「奴らの狂信ぶりからいって自爆くらいはやりかねないと考えておくべきじゃったの」


 「怪我がないだけよかったです。しかしこれでは、ゲニウスの遺骨の在り処がわかりませんね」

 

 ユーリの言葉に私も小さくうなずき返す。


 「ここが襲撃された以上、連中もすぐに行動をはじめるじゃろう。奴らが目的を果たす前に何としてもみつけなくては」

 

 まだまだ日は落ちたばかりで、夜の本番はこれからだ。

 今日の夜は長くなりそうだと思いながら、もはや肉片が散らばるのみとなった部屋を後にした。


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