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頼るという事

 「それで、おぬしはこれからどうするんじゃ」

 

 「……あの、そろそろ手を離してもらいたいんですけど」

 

 ギリギリとユーリの手を握りつぶしながら話しているせいか、心なしか彼の額には冷や汗のようなものが滲んでいる。

 

 「軟弱な勇者じゃな」

 

 「あなたに言われると否定できないのが辛いですね……。僕はこの後、イオネと協力してゲニウスの遺骨取引を止めます」

 

 「私が魔力源を調べるまでもなく、そこを潰してしまえばこの話は終わりじゃものな」

 

 私の言葉にユーリは赤くなった手を痛そうに振りながら頷く。

 

 「エリーゼさんにはあくまで保険として動いてもらうということで」

 

 「期待しておるぞ勇者様」

 

 皮肉を込めた物言いに、ユーリは苦笑で返し、困ったように頭をかいた。

 

 「その期待、裏切らないように頑張るとします。さて、イルシアさんをあまり待たせるわけにもいかないですし、そろそろ戻りましょうか」

 

 「ん、そうじゃな」

  

 見ればイルシアは一人暇そうにエンと戯れている。

 さすがにこれ以上一人にしておくのもかわいそうだ。

 ユーリとの話を終わりにし、手持ち無沙汰にしているイルシアの元に戻る。

 

 「待ってもらってすまんの」

 

 「いえ、大丈夫です。もうお話はすんだんですか?」

 

 「えぇおかげさまで。エリーゼさんはお返しします」

 

 そう言って私の肩を叩くユーリを、私は物か何かかと睨みつける。

 

 「美人の怖い顔というのはなかなか迫力がありますね。それではエリーゼさんに殴られないうちに、僕は退散するとします」

 

 そう言って身を翻し去っていくユーリを眺めながら、勝手なやつじゃなぁと小さくため息をついた。

 

 「一人置いてけぼりにしてしまってしまって悪かったの」

 

 「気にしてないので大丈夫ですよ」

 

 そう言いながらも、彼女は何か言いたそうに口元をもごもごさせて、その場から動こうとしない。


 「……どうかしたか?」

 

 「その、やっぱり私何の役にも立てなさそうだな、と思いまして」

 

 イルシアは伏し目がちに、てへへと顔を歪ませる。

 その表情を見て、かつて友に言われた忠告が脳裏をよぎった。

 

 『あなたは一人でなんでもしすぎです。私を友と呼ぶのなら、少しは頼ることも覚えなさい』

 

 一方的に与えるのではなく与えあってこそ友達なのですから、と告げた彼女の言葉を思い出す。

 イルシアを巻き込むなというさっきの言葉は、まさにその忠告の真逆の発言だったなと反省する。

 

 「って私何言ってるんでしょうね。観光の続き、しましょう……」

 

 「イルシア」

 

 彼女の言葉を遮り、私は小さく頭を下げた。

 

 「頼みがある。ちょっと厄介事に巻き込まれたようでな、おぬしの力を貸して欲しい」

  

 「……でも、私はただの村娘ですし」

 

 「だからこそじゃよ。力を持たないおぬしだからこそ、私とも、ユーリとも違う視点で物事を見れるはずじゃ」

 

 力があるがゆえに、知恵があるがゆえに、正しく物を見れないということはよくあることだ。

 ただの一般人であるイルシアだからこそ持つ視点は、私にもユーリにもない武器になるだろう。


 「手伝ってくれるか?」

 

 「……わかりました。私にできることなら、喜んで」

 

 一瞬だけためらいを見せたが、すぐに迷いが吹っ切れたようにイルシアはそうはっきりと口にした。

 



 

 「じゃあどうやって魔力を集めるかがわかればいいんですね」

 

 「じゃな。それがわかれば、奴らの企てをくじけるかもしれん」

 

 ユーリとイオネからもらった情報をかいつまんでイルシアに説明し、今この街が置かれている状況と、私がしなければならないことを話した。

 彼女も真剣になって聞いてくれ、今は隣で私と一緒に頭を悩ませている。

 

 「ぱっと思いつくのは魔石じゃな。魔石の中に魔力を溜め込み、交易品として街の中に運び込めば魔力を集められる」

 

 「村の魔物よけに使っていたあの石ですね」

 

 イルシアの言葉にその通りと頷く。

 

 「そうじゃ。だいぶ手間はかかるが、一度込めた魔力を強制的に取り出すこともできなくはない」

 

 「ちなみに、どれくらいの量がいるんですか?」

 

 「数え切れないほどじゃな。この街が埋め尽くす程度にはいるかもしれんの」

 

 かつての魔王クラスを復活させようとするならば、どれだけの魔力が必要かは私にも正直見当がつかない。

 少なくとも、この巨大な街にすむ人間全員の魔力を束ねてようやく、といった程度の量は集める必要があるはずだ。

 私の返答に、それはちょっとダメそうですねとイルシアは苦笑を浮かべる。

 

 「現実的ではないが、それくらいしか思い浮かばないのも事実じゃ」


 「それならとりあえず、魔石を取り扱っている店に行ってみるのはどうですか? もしそんなに魔石が必要なら、流通も少なくなっているでしょうし」

 

 「それは名案じゃな。よし、早速行ってみるか」

 

 

 

 「……ダメそうでしたね」

 

 「……じゃったな」

 

 イルシアの案にのって魔石の販売店に来たものの、思っていたような情報は得られなかった。

 特にここ最近で魔石が値段が上がったということもないし、大量に購入をしようとした客もいないらしい。

 空振りに終わってまた振り出しに戻った私たちは、二人仲良く肩を落としていた。

 

 「まぁ魔石関係ではないということがわかっただけ前進かの」

 

 「他にも案が思いつけばいいんですけどね……」


 ユーリの前で魔力の調達方法については任せろと大見得切った手前、わかりませんでしたでは情けない。

 あれだけ大規模の魔法を使う以上、なにかしらの準備は必ずいるのだが、その兆候すら見つからないというのは不思議だった。


 「実はこの街にいる人は全員エルネルト教の信者で、遺骨が手に入ったらみんなで協力して魔力を出し合うとか」

 

 「住民全員あそこの信者の街とか、考えるだけでも恐ろしい話じゃな」

 

 冗談めかしていうイルシアに、その光景を想像して引きつった表情を浮かべる。

 同時に、イルシアの言葉に少し引っかかりを覚え、彼女の言葉を頭の中でもう一度反芻した。 


 「……いやまてよ、住民全員か」

 

 「えっと、さすがに冗談ですよ?」

 

 真剣に考え込み始めた私をみて、イルシアが戸惑ったような声をあげる。

 さすがに私も住民全員がエルネルト教の信者とは思っていないが、住民全員に魔力を供給させるというのはありかもしれない。

 だがそうなると、どうやって住民から魔力を取り出すかが問題だ。 

 いくつかそれを可能とする案を頭の中に思い浮かべ、その中からエルネルト教の連中がやりそうなことを選び出す。

 そして一つ、全ての条件を満たしそうな方法を見つけた。

 だが本当にそれができるのかどうかを確かめるため、確認しなければならないことが二つある。

 そこまで考えてから顔を上げ、黙りこんだ私を見つめているイルシアと目を合わせた。


 「イルシア、おぬしに一つ調べて欲しいことある」

 

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