胡散臭い協力者
「随分と色んなたべものがたくさんあるのじゃな」
「レイバールはいろんな地方の人が来るから、王国の中でも一番食べ物の種類は多いんですよ」
翌日、イオネからはなんの連絡もなかったので、予定通り私とイルシアはレイバールの観光をしていた。
二人で出店を見て回りながら気に入ったものを物色する。
いまも私の手には熱々の肉が何個も刺さった串が、イルシアの手には甘い砂糖菓子が握られていた。
そして昨日から召喚しっぱなしの火炎蜥蜴のエンは、イルシアの肩で私から奪った肉をガシガシと食べている。
さすがに頭の上は勘弁して欲しいということで、いまのエンの定位置はイルシアの肩の上となっていた。
「昨日はちょっぴり怖かったですけど、こうしてご飯をあげているとだんだん可愛く見えてきますね」
「それはよかった。村に戻るまでは召喚しっぱなしにしておくつもりじゃから、仲良くしてやってくれ」
エンはぱっとみただの大きな蜥蜴だが、その戦闘能力はかなりのものだ。
おそらく、旧種の魔物くらいの力はある。
イオネの話もあるし、私が単独行動をするときのイルシアの守りとしては、これ以上ないくらいの適役だ。
「向こうに持っていくお土産、見つかりそうですか?」
「まだ迷ってる。食べ物持ってくわけにもいかんしの……」
フェルナからの手紙に土産を持ってこいと書かれていたため、観光ついでに探しているのだがなかなかいいものがみつからない。
というか、イオネがいるし別に私がここで買っていかなくてもいいんじゃないかという気になってきた。
なにせ人が多く、商品を見て回るだけでも一苦労という状況も、その思いに拍車をかける。
「少し人が少ないところで休憩せんか? いい加減手に持ったままの食べ物も片付けたいし」
「いいですね、ちょっと裏道に入りましょうか」
街の大通りはどこも混んでいて、一息つくには少々忙しない。
食べ物を落とさないように人の波をかき分け、人気の少ない路地裏へと抜ける。
「ここなら少し落ち着けそうですね」
「じゃな、あぁも人通りが多いとおちおち飯も食えん」
石の階段に腰を下ろし、だいぶ冷めてしまった肉を頬張る。
口の中に美味しい肉汁が広がり、空腹を満たしていった。
「村で食べた猪肉もうまかったが、この肉もなかなかの味じゃな」
「ハニーベアの肉ですねそれは。私も一度食べたことがありますけど、柔らかくて美味しいですよね」
二人で料理を交換したりして楽しく談笑していると、路地の奥から二人分の足音が近づいてくるのが聞こえた。
ちらりとそちらに目をやると、柄の悪そうな二人組の男が、下卑た笑みを浮かべながら近づいてくるが見える。
「疲れたからと人通りが少ないところに来たのが裏目に出たか……」
「エリーゼ様どうかしました?」
まだ気がついていないイルシアをかばうように前に立つ。
その動きで彼女も近づいてくる人影に気がついたようで、少し強張った表情になった。
「ねえねえそこの二人、暇してそうだね」
「生憎、しゃべるので忙しいのでな。おぬしらにかまっている暇はない」
どうやって他の人にバレないよう黙らせようかと考えていると、調子に乗った男たちがぐいと私に顔を近づけてくる。
「ひゅー勇ましいね。そういう子好きだわ。ちょっと俺たちと遊んで行こうぜ」
「その耳は飾りか? 暇はないと言ったんじゃ。わかったらさっさと去るが良い」
最終通告のつもりでそう言い放つが、男たちには小娘が強かっているようにしか見えないようで、嘲笑を浮かべて私の体に触れようとした。
後ろでエンも今すぐに襲いかかりそうなほど威嚇しているし、そろそろ潮時だろうと拳を握り締める。
「そこまでにしておいたほうがいいよ君たち」
無礼な男どもに拳を叩きこもうとしたところで、聞き覚えのある爽やかな声が鼓膜を揺らした。
「あぁ? なんだてめぇは」
「ちょっとした騎士崩れさ。一応崩れでも騎士を名乗っている以上、非道を見過ごすわけにはいかないだろう?」
「……なんでここに居るんじゃユーリ」
つい先日会ったばかりの胡散臭い騎士は、私に触れようとした男の手を締め上げながら、あくまで爽やかな笑顔は崩さず言い放つ。
「はっ、騎士とはいえ二対一だ。調子に乗ってんじゃねえぞ!」
手を掴まれていない方の男が、やめておけばいいのに無謀にもユーリに殴りかかった。
だがあっさりとその攻撃はかわされ、すれ違いざまに鋭い手刀を首筋に叩き込まれる。
そのままドサリと音を立てて地面に倒れた仲間を見て、手を掴まれていた男も顔を真っ青にした。
「さて、君もやるかい?」
「……わーった、俺たちの降参だ」
男はすぐさま降参し、苦々しい表情をしながら倒れた仲間の男を担いで路地裏から姿を消す。
それを見届けた後、ユーリは改めて私たちの方へ顔を向けた。
「命拾いをしましたね彼らも」
「……私たちの前にあいつらの心配か。大した騎士様じゃなユーリよ」
「そりゃあなたの実力をこの目で見たものとしては、当然の反応ですよ。それに」
ユーリは初めて会った時と変わらず、飄々とした態度でそう答える。
そして私の耳元に口を近づけ、イルシアに聞こえないようにそっとつぶやいた。
「元魔王相手に人間が喧嘩売ってるのを見たら、放っては置けないでしょう」
「……貴様」
静かに背中の大剣に手をかけ、すぐにでも抜けるように構える。
それを見た勇者が慌てて体を離し、弁解をするように手を振った。
「ちょっとおふざけがすぎましたが、こないだも言った通り僕はあなたの敵ではありません」
「その腰に差した剣を私に見せつけておいて、よく言うな今代の勇者よ」
私の怒気を含んだ声にさすがにまずいとおもったのか、こほんと咳払いをしてユーリは真面目な表情を作り直す。
「イオネと会ったと聞きました。僕は彼の協力者であり、フェルナさんの友人でもあります」
「……なんじゃと?」
その言葉を聞いて一応私は剣の柄から手を離す。
「話を聞いてくれる気にはなったみたいですね」
それを見た勇者はふぅと安堵のため息をつき、再び胡散臭いほど爽やかな笑顔を浮かべた。
新年度が始まったので、できる限り頑張りますが少し更新速度おちるかもしれません。




