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最初の目的地

 村を出た私たちは、村から伸びる街道をまっすぐと歩いていく。

 このあいだ大量に魔物を討伐したこともあり、襲ってくる相手もおらず滑り出しは順調だった。

  

 「今日は近くの街まで行って、そこで馬車を借りるんじゃったな」

 

 「はい、さすがに足で移動するのは無理がありますから。馬車に乗ったらそのままレイバールまで丸一日といったところですね」

 

 二人で決めた最初の目的地はレイバールと呼ばれる交易都市で、まずそこでこの時代の事を勉強した後、フェルナの待つ魔族領を目指す予定だ。

 

 「交易都市か、楽しみじゃ」

 

 「レイバールはこのあたりでも王都に次いで大きな場所ですから、きっと見ごたえがあると思いますよ」

 

 イルシアの言葉に私の中の好奇心が刺激される。

 着いたらすぐにでも観光をしよう。

  

 「しかし、こう順調だと退屈じゃな」

 

 「安全なのはいい事だと思いますけどね」

 

 イルシアがいる以上、あまり危険な事に巻こまれるのは避けたい。

 とはいっても、丸一日ただ歩いているだけというのも飽きるものだ。

 

 「旅と言ったらこう、いく先々で騒動が起きたりするものじゃろう」

 

 「エリーゼ様の想像してる旅はおかしいと思います……」

  

  

 

 半日ほど歩いたところで、一旦休憩の時間を取る。

 

 「いいペースですね。この調子ならもう少ししたら街に到着できるとおもいます」

  

 「まぁ魔物のまの字も出てこんかったからな」

 

 結局何も起こらずひたすら歩く事に集中できたため、予定よりもだいぶ早く進んでいた。

 

 「私は二人でのんびり歩くだけでも結構楽しいんですけど、やっぱりエリーゼ様は退屈ですか?」

 

 「そうでもないんじゃが、こう、本能的に戦いを求めている節があっての……」

 

 腐っても魔族、のんびり平和な観光よりも、トラブルに満ちたちょっとスリリングな旅の方に惹かれてしまう。

 

 「昔はどうだったかわからないですけど、ここ最近は基本的には平和ですからね」

 

 「それはいいことじゃな。私が封印される前なんかそこら中で戦っておったしの」

 

 戦いは好きだが戦争にはほとほと飽き飽きしていた私としては、その情報は嬉しい限りだ。

 それが魔族や人間の手ではなく、崩獣とかいう第三勢力の影響で衰退した結果というのがなんとも悲しいところだけれど。


 そんな話を昼飯を食べながらしていると、遠くから金属と金属がぶつかり合うような音が聞こえてきた。

 

 「……この音は」

 

 「どうかしましたか?」

 

 イルシアはどうやら気がついていないようだったが、特徴的なその音は間違いなく剣と剣を打ち合わせている音だった。

 

 「イルシア、急いで出発の準備をするぞ。どうやらこの先で誰かが戦っているらしい」

 

 それを聞いて彼女も事情を理解したようで、真剣な表情になった。

 いそいで昼飯を食べ終えて、広げていた荷物を片付ける。

 

 「準備できました、いきましょうエリーゼ様」

 

 「うむ。私のそばを絶対にはなれるなよ?」

 

 本当なら迂回した方がいいのだろうが、ちょうど退屈していたところだ。

 この時代の剣士程度では私の相手にはならないだろうし、様子だけ見て困っているようなら助けを出そう。

 

 イルシアのペースに合わせ、気持ち駆け足で街道をまっすぐ進んでいく。

 音の発生源はここをまっすぐ進んだ先、ちょうど目当ての街が視界に入り始めるかといったあたりだろうか。

 

 「……あれか」

 

 視線の先に、鎧を着た騎士らしき人物と、白い装束を身にまとった五人の集団が交戦しているのを見つける。

 どちらも村を襲っていた盗賊とは比べ物にならないほど技量が高く、目の前の戦いはただの喧嘩というわけではないようだ。

 

 「あの鎧、多分王都の騎士です。なんでこんなところに……」

 

 「ということはあの鎧着てる方を助ければいいんじゃな」

 

 私の言葉にイルシアがうなずくのを確認して、もらった剣を抜き放ち構えた。

 

 「おい、そこの鎧! 助けはいるか!」

 

 イルシアを置いて離れるわけにはいかないため、少し距離を置いたところで騎士に声をかける。

 急に現れた私の存在に驚いたのか、一瞬私の姿を見て目を丸くした後、まるでお願いするとでも言うように片手を自分の目の前に出した。

 

 と、鎧姿を襲っていた五人のうち二人が、私たちを敵と見たのか狙いを変えて襲いかかってくる。

 その速度は早く、魔力なしで人間が出せる速度ではない。

 

 とはいえそれはあくまでも人間基準。

 私にとっては、羽虫が飛んでいる程度の速さだ。

 

 「誰だか知らんが喧嘩を売る相手は選んだ方が良いぞ」

 

 もう少しで手に持った獲物の範囲にはいるというところで、二人は何かにつまづいたように態勢を崩し、地面へと転がる。

 立ち上がろうともがいているが、固定されているかのように起き上がれない。

  

 「手と足が凍らされては、文字通り手も足もでまい」

  

 私の放った言葉通り、白装束の足は地面にへばりつくように氷漬けにされており、転んだときについた手も同じようになっている。

 事前に発動していた設置魔法に、見事ひっかかってくれたようだ。

  

 「いやぁ助かりました。さすがに僕も五人の相手はきつくて」

 

 どうやら私が二人の相手をしているうちに、先ほどの騎士が残りの三人を叩きのめしたらしい。


 「僕はユーリ・ハイギス。助太刀、感謝します」

 

 騎士らしからぬ小柄な体が特徴的な青年が、私たちにむかって爽やかに挨拶をしてきた。


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