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健太

 私は、転校して家にも学校にも居場所を作ることが出来た。苦手な人付き合いも、この眼のおかげでなんとかなった。



 そして、高校二年になる春にこちらに戻って来た。私の過去を知っている人はいたけれど、それももう昔話だった。


 健太は大学生になっていた。家を出て大学に通っていたので普段は会うことはなかった。健太の最後の言葉が、そのまま約束みたいになっているのは気がかりだったけれど、それももう昔話だろう。


「アリス。俺はこの先もずっとアリスが好きだよ」


 *


 目の前のソウスケを視てその約束を思い出した。どうやらソウスケはずっと私を想ってくれていたみたいだった。健太はどうだったのだろう? 夏休みになり帰省した健太に会ったのはお盆の頃だった。偶然家の前で再会した。健太は昔のままの笑顔で懐かしそうに私に声をかけてきた。

「アリス?」

「久しぶり! 健太」

 その眼を視て安心した。

 健太の想いは、あの言葉の呪縛にとりつかれていたわけではないことを物語っていた。

「アリス。大きくなったなあ」

「いや、そんなに変わってないし」

「そうか? もっとチビだったような気がするけど」

 暑さがアスファルトから照り返される正午頃だった。

「チビは余計です。健太が大きくなっただけじゃない。それにしても暑いね」

「夏だしな」

 どんな会話をしていいのかわからなかった。健太は昔のままではなかったし、さらに大きく大人になっていた。


 たわいもないやりとりをして別れた。あの言葉が最後の割にはあっさりとした再会だった。

 健太の心が変わっていて私はホッとした。その頃の私には悠人がいた。心も体も悠人一色だった。健太の心が変わっていなかったら、どうしていいのか悩むところだった。

 その夏健太に会ったのはその一度きりだった。


 その後はお正月に悠人と一緒にいるところに健太と会った。健太は少し複雑な眼をしていた。軽く想いが残っていたのか。ただ、昔の記憶が蘇ったのか。そこまで健太を視つめているのも変に思われたら困るので、やめておいた。


 健太とはそれからも何度か休みの度に会っていたけれど、私が大学生になり二回生になった時に就職ので、本格的に引っ越して行った為に、二回生の夏休みには会うことはなかった。

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