08 アリとクマのたたかい
※ヒグマ先輩ことシーギス=ベルツ視点
戦技の時間にいつも通りダベってたら、後輩らしいチビに模擬戦闘を申し込まれた。
どこかで見たことのある顔だが、学院か、いや遊びに顔出した騎士団だったか。まァ、いいや。
ここしばらく、遠慮のない俺の剣で対戦をいやがるヤツらも多いってのに、随分と身の程知らず────かと思ったら、ただの馬鹿だった。
いやむしろスゲー馬鹿だったから、暇つぶしに相手するのもいいかと思った訳だ。
その体格と所作をみても、どう足掻いたってオマエが勝てる訳なかろうに。なんのつもりが知らねーが、俺と一戦やりたいっつー度胸だけは褒めてやってもいい。
「んじゃ、俺ァこの木剣にするわ。コレでもまともに当たりゃ、何日もメシ食えなくなることを覚悟しとけ」
「……っ、わかりました。当たり所には気をつけます」
ま、手加減はしてやるつもりだが。せっかく腰をあげたっつーに、5秒で終わっちゃ立ち上がった甲斐もねーからよ。
少し神妙な表情になったチビが手にするのは、カスタマイズされた鉄鎚か。ありゃ技術科の工房にかなり出入りしたな。
チビの細腕でも持ち上げられるよう、鎚の部分が小さくなっている。そのかわり柄を伸ばしてあるが、槍ほどのリーチはない。
どう見ても身の丈に合っていない武器だが、コイツなら何かやらかすんじゃないかという、妙な期待感もあった。
空いているスペースへと移動して、間合いをとって対峙する。騎士道精神にのっとって、正々堂々……ってガラでもねーな、ぺこりと頭を下げたチビに、軽く手を振って応えておく。
手にした木剣は片手で握る。普段使いは両手剣なもんだから、ちょい軽くて落ち着かねえな。
俺が久方ぶりに腰をあげたことに気付いた何人かが、遠巻きにこっちを見てやがる。「あのちっこいの誰だ?」とか言ってるが、俺も知らん。
「んじゃまあ、来いや」
「はい、おねがいします……っ」
────ザッ!
俺がそう言ったのが、試合開始の合図がわりか。チビがなかなか悪くない動きで地を蹴った。
ギャラリーどもがいるあたりから、なんか慌てたっつーか必死そうな男の声が聞こえたが、ひとまず目の前のヤツに集中か。
馬鹿正直に真正面から飛んできたので、牽制がわりに剣を斜めに打ち下ろしてやる。さすがにこれにゃ当たらない、チビは斜め後方に飛び避けると、一端離れて体勢を立て直す。
「最初の勢いはどうした? こっちからも行くぜ?」
踏み込んで一振り、返しで二振りと間髪入れずに攻撃をする。お、回避したか。つか手加減してンだから、これくらい避けてくれんと困る。
見たとおり、コイツは小柄なだけあって敏捷に優れている。的も小さいから、そこを伸ばしゃ俺でもちょいと面倒な相手になる、っつかマジで当てにくいわ。
果たして武器になんかのコダワリがあるんだろうかね、楽しそうに動くサマは、俺の気も少しだけ昂ぶらせる。
そろそろ攻撃に転じようというチビが、手にした鉄鎚の柄を握りなおした。
長柄の武器はその長さから、ある程度攻撃の動きが単調になっちまう。例えば、チビが身に合わせた短剣を使って、モーションを減らした、ヒットアンドウェイでいくなら、行動が読みにくくて手間取るだろうが。
だが、デカい武器なんて、次にドコに攻撃するぞと知らせているようなモンだ。一般的には、敏捷な戦闘スタイルとはそぐわねェだろ。
点と点の攻撃でなく、線で繋がる動きにしかならねえ。もちろん、腕がありゃフェイントも交えて、単調な動きにはならないが。
しかしこのチビは違う。次にどこに鎚先がくるかわかれば、俺にゃ避けるのも易く、生まれた大きな隙は反撃しろといってるようなモンだ。
「はあ…………っ!」
チビが俺に向かって鉄鎚を真横から振り薙いだ。基本の型に沿った、教師だったらそこそこの点数を付けるだろう攻撃も、実戦においては分かり易すぎる。
はずなンだが。
「……って、オイ!? ンだこりゃ!」
思ってたのと違う筋できた攻撃と、想像もしなかった方向へ跳ねるチビに思わず声が出ちまった。
なんだよ、フェイントいけるじゃねえか。
あちらは必死なようで、会話する余裕もなく間合いをとり直した。
「なっんつー動きして……、うぉ!」
「……っせい!」
間髪入れずに攻めてくる。スタミナがきれる前にカタをつけるつもりか。勝つ気でいるたァ、ほんっとにイイ度胸だわな。
武器を振るう動きは基礎レベルなのに、鎚頭の動きが読めねーのはなんなんだ。
いや、フェイントじゃねえ、ランダム?
剣の椎で鎚を跳ね返すと、チビは弾むように飛び退る。その動きの原因を、攻撃をいなしながら探る。
「……って、柄! 撓りがハンパねーのか!」
素材を柔軟な木材にでも変えてあるのか、弓ほどに撓る柄は、振る勢いや遠心力で攻撃の動きを不確定なものに変えちまう。
上から下に振り下ろされたかと思えば、真横からの薙ぎに切り替わったので、一歩下がって避けておく。
「つか、自分でもどこに飛ぶかわかんねーだろ、それじゃ!」
「今後の課題……っ、ですっ……!」
「…………ふっは」
馬鹿だ!!! コイツやっぱ馬鹿だ!!!
正直避けるのはそう難しくないが、どこから何がくるのか、ちょいと楽しみになってくる。
おっと、今度は足モト狙いか。まあ武器に振り回されて、狙ってるつもりはないんだろうが。それを一旦剣で受け止めてから、下から斬り上げる。なんとか柄頭で弾いたチビだが、大分息が荒くなっている。
俺にとっちゃ軽い準備運動みてーなモンだが、チビの体格じゃあっという間に体力が尽きるだろ。
攻撃回数が減ってきて、俺の剣を避ける動きも鈍くなってきてる。
もう少しすりゃコイツはスタミナ切れてぶったおれるだろうが。戦ったよしみだ、ちゃんと剣で倒してやっか。
剣の先をチビへと向けると、あちらも闘いの終わりが近いことに気付いていたようだ。汗だくの額を拭い、鉄鎚の柄をギリ、ギリリと強く握る。
「ま、なかなか楽しませて貰ったぜ?」
「いいえ、まだ……っ、……です」
俺が礼を言い終わる前に、チビがコチラへと駆ける。残る力を振り絞り、渾身の一撃を狙ってんだろうな。
残念だがな、どこから攻撃をくれようが、ちょいと動けば避けられる。
なんの奇のてらいもなく、チビは金鎚を大きく振りかぶった。
しかしそれじゃ、鎚の頭はあと一歩俺に届かない。ああ、ちょっと期待しすぎたか。
軽く一発入れりゃこのお遊びも仕舞いだ。
『ゴッ────』
だのに、なんで脇腹に衝撃が走るンだ!?
当たるはずのない攻撃を、脇に受けたからにきまってる。いや、リーチを考えたら、全然届かねえはずだ。
気合いの入った腹パン受けたような痛みに、一瞬頭が混乱する。
届かないものが届くには、柄が伸びるしか…………ってマジか。
ぶは…………!!!
撓る上に柄を伸ばすギミック付きかよ!
なんでそこまでハンマーへの改造に情熱かたむけてンだ!
馬鹿だ、もうコイツに何回言ったか忘れたが馬鹿だ!!!
チビにとっては渾身の一撃だったが、俺をぶっ倒すほどじゃあない。むしろ軽すぎるのは、もともと鎚の大きさも抑えられてたからか。
だが、ちょい痛かったせいで、加減を誤ったが仕方ねえ。
──そンじゃ、これで本当に終わりな。
俺が放った剣の一撃は、チビの胴を余裕で薙いだ。
あ、やっぱやりすぎちまったわ。
チビは地面にバウンドして、勢いよく地面に転がり、気を失った。
(戦闘部分に関してはノリとかフィーリングで、ふんわりみていただけると嬉しいです)




