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邪魔者は容赦なく消してしまいましょう

「何で人間の君が魔王軍の幹部なんてやっているんだっ!」

「何を言っているのかな?」


勘違い甚だしい静斗が理不尽なことを言っているが直留は気にしない。


「なっ!?」

「なっ!?って言われても僕人間じゃないし…………ほら」


そう言って現在身体を乗っ取っているスライムの身体を操作して、人間の形からスライム特有の粘体型へと腕の一本を変化させた。

それを見て、静斗のみならず他のハーレム要員たちも驚いた表情をして戸惑っているが直留にはどうしてなのかが分からない。


「なんか有り得ないものでも見た顔をしているけど、どうしてなのかな?少し考えればわかることでしょ?僕はあの日人間軍に一回殺されているんだから、少なくとも人間であるわけがないでしょう」


当然のことを言っているというのに何故か静斗は怒りの表情を浮かべた。


「そうか!直留の姿形を取って俺たちの戦意を失くすための作戦だったんだな!!」

「そうね、そうに違いないわ」


見当はずれのことを言っている静斗に、それに同調する周囲の少女たち。

直留に向けられた殺意は最初の頃よりも増していた。


「そうやって、俺の幼馴染の姿をとっている卑怯者がぁ、殺してやる」

「はあ、最後通告だったんだけどなあ」


半ば直留の予想通りの展開になってしまっている。

ここまでの展開はほぼすべて予想の範囲内だった。

このファンタジーな現実世界にザオ○クのような蘇生魔法はないし、世界樹○葉のような復活アイテムもない。

辛うじて、メガ○ルのような他社の命を犠牲(いけにえ)に使った復活ならあるが、復活している時間が極わずかな限定的なものであるし、それを行使するのにも一人に対して何百倍といった贄が必要になる。

だから正義漢で現実をちゃんと見ている静斗はこうやって自分の姿を見せれば、混乱させるためにこういう姿をとっているという都合のいい誤解をしてくれるだろうと思っていた。

そうして、直留がため息交じりに呟いた言葉通り、勇者たちにとっては悲劇にしかなりえないこの劇はいよいよ終幕(フィナーレ)を迎えようとしていた。


「【創成】」


同じ名称の魔法だが、土属性のみで使う簡単な魔法ではなく直留が本気で行使するためにさっきとは別物になっている。

土、火、水、の属性を合わせて生命の源を作り出す。

それを、雷を流すことによって活性化させて、そこに異空間から取り出した魔物素材を加えた後に木属性の応用で遺伝子操作を行う。

満足のいく出来になったのを確認したら、そこに時の魔力を大量に流し込み作っていた生命の時間を速めて加速成長させる。

これらの工程を一度に纏めた術式にしたのが本来の【創成】だ。

これにより直留はゴーレムとは比べ物にならない程に強力で知性のある生命体を創りだすことができる。


「生まれ出でよ、我が下僕!」


ちょっと格好をつけて直留が宣言すると同時にその生命体が姿を現す。

それは全長3メートルほどの狼だった。

全身を覆うのは毛皮の代わりにとろみを帯びて、テカテカヌラヌラと妖しく輝く黒曜石のような液体が蠢いている。

腐った生ごみをより濃密に凝縮したかのような醜悪な匂いを発するそれらの液体はまるで意思を持っているかのように原型である狼の身体全体から短い手足や触手のようなものを無数に生やしている。

細長い触手は蛇のように鎌首を持ち上げ空中をまさぐる様に動き回る。

液体としての性質を持ったそれらはポタリポタリと一部が床に垂れ落ちる。

床に触れた瞬間にジュッッと物を溶かす時の音が響き紫色の毒々しい色をした煙が立ち上る。

そして、漆黒の液体があった場所にはどこまでも深く続く穴が出来上がっていた。

狼の姿を形作っていることに目をつぶればどこぞの神話に出てくる怪物の姿を思い浮かべるであろう。

事実、直留もそれをイメージして作り上げたのだが、それよりも特性を幾つも追加してあるために元よりも圧倒的に強くなってしまっている。

また狼の形をしているせいか通常よりも動きは効率的でありスピードは段違いだ。

ちなみに、直留が魔法を使ってから、この生命体が出現するまでには一秒程度のラグしかなかったために静斗たちは攻撃をしている暇がなかった。


「ゲヴュォゥィェァァァッァァァッァ!!!!」

「何なんだよ、こいつは…………」


精神を揺さぶる効果を持った、この世のものとは思えない悪意と憎悪、そして献上欲にまみれた絶叫を聞いた静斗たちは顔を青ざめさせている。

この生命体は見ているだけでも正気度が減っていきそうな姿だが、それに反してLvは3000程度とさっき作った奴よりも強いが大したことはない。

直接戦闘能力よりも状態異常などの特殊攻撃に戦闘能力の大半を注ぎこんでいるために見た目程は強くはない。

まあ、Lv3000は伊達ではなくそれ相応の能力を持ち合わせてはいる。


()れ」

「え?」


直留の命令に従いそれは強酸性の触手を振り回す。

ブオンという風を切る音は触手が通った後に聞こえた。

まずは一人。

余りの速さに眼で追うことはできても、身体はついていかずに意識だけが先行して逃げ出す。

だが、当然逃げ切れるわけもなくジュッという音を残して一人が消え去った。

もうそこには何かがいたという明確な痕跡は残されていなかった。


「理香ッ!!ゲホッゲホッ………ッ」


毒霧が辺りに広がっているというのに、大声を上げて消え去った少女の名を呼ぶ大馬鹿さんは辛そうに咳をした。

咳とともに飛び散る唾には血が混じっている。

毒によって喉の毛細血管を傷つけたせいだ。

モノを溶かした時に気体化する毒はLv900の耐性を簡単に突破する位には強い。

下手するとあと少し吸っただけでまともに動けなくなるほどの重症になる可能性がある。

そんな劇物が撒き散らされた空間内ではまともに勇者たち(笑)が戦えるわけもなく、間もなく息絶えることであろう。

だが、それでは面白くない。

だから、命令して発生した煙の毒性を解除させた。


直留が落とし子を創った時点で勝敗は決していた。

どれだけ抵抗しても絶対に勝てない生物を作り出したのだ。

流体の鎧はありとあらゆる物理的攻撃を無効化する。

それは、魔術的な付与が施してあっても変わることはない。

純粋なエネルギーとしての魔法や科学現象ならば影響を与えることも可能だったが、それも様々な生物遺伝子から獲得した耐性でカバー済みである。

抜かりはない。

倒すためには落とし子の持つ耐性を超越するだけのパワーを持つ攻撃をしなければいけないが、そんなことは勇者たちには不可能だ。

直留を攻撃した無属性の合体攻撃であったとしても防御を貫くには足りない。

彼らが勝てる要素など皆無でしかない。

だからといって、こんな簡単にあっけなく潰れてもらったのでは困るのだ。

なぜならば、直留の予定していた終演にはまだ遠いから。

短すぎたら笑い話にもなりはしない。

せめて、話題のタネになるくらいには頑張ってもらわないと困る。

直留は適当に遊んでおけと落とし子に命令した後、元幼馴染たちを見てそんなどうでもよいことをつらつらと考えていたのだった。


「くそっ、これはどういうことだよミッド」

「わ、私だって【怠惰】がこんな強力な魔物を配下に加えているなんて知らなかったんですよ」


さっきよりも格段に遅くなった触手を避けながら静斗とミッドは叫んでいた。

人間をも一瞬で溶かし尽くす強酸の塊である触手たちに触れないように、勇者一行は攻撃を放っていた。

武器を駄目にするつもりでの物理攻撃に、各々が使える最大威力の魔法での集中砲火、攻撃性スキルでの特殊攻撃と次々に落とし子の身体に吸い込まれるように命中するがその一切が無効化された。

ビュンッと目の前ギリギリを掠めるようにして、触手が通りすぎる。

低速の触手たちの中から一本だけ高速で動いている触手に反応して避けることは不可能だ。

今のも避けたわけではなく、避けられただけで落とし子が本気だったら死んでいただろう。


「ぜぃ、ぜぃぜぃ」


そんなこんなで落とし子とのじゃれ合いを始めてから数時間。

静斗たちはすっかり息が上がっていた。

もう動くのも億劫そうだ。

そこに、容赦なく落とし子が全力でバッドステータスを乗せた攻撃を叩き込みあっけなく皆死亡した。


「まあ、こんなものかな」


勇者数人と一人の裏切り者の処分を終えた直留はそうひとりごちる。

今回の戦闘は城に引きこもって退屈している魔王様の息子にはいい娯楽になるだろう。

そのためにわざわざ砦に設置してある監視カメラをフル活用して一部始終を外面だけではなく内面で考えていることまでも全て録画、録音してあるのだから。

きっと、魔王様も同僚たちも笑い転げてくれるだろう。

そう考えると幼馴染を手にかけたのも中々に愉快なことと感じられるのだから、きっと直留は壊れているのだろう。


元人間が人外化して、最終的には知人を手にかける話はこれで終わり。

人間軍は戦争によって主戦力の大半が戦死したことによって瓦解。

支配する領土を急速に減らしていった。

誰にでもハッピーエンドは訪れるわけではない。

果たして今の直留は幸せなのだろうか?

それは、本人にしかわからないことだ。

これで完結です。

こんな話ですが読んでくださりブックマ―クしてくれて有難うございます

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