表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

戦力にならない無駄飯ぐらいを生かしておく程余裕があるわけではありません。殺してしまいましょう

タイトルからしてネタバレですが気にしないでください

あの不可思議空間でまたしても光に飲まれた直留が目を覚ますと、そこは広々とした部屋だった。

直留は今床に腰を下ろしているようでひんやりとした熱が伝わってきた。

壁は大理石で作られている白壁で、そこには驚くほど細かい文様がびっしりと書き込まれているのが遠目からでも分かった。

床にも壁に書き込まれているのと似たような細かい文様がびっしりと書き込まれていて一体何なのかは分からないが精巧緻密なのは分かった。

隣には人、人、人………と明らかに人口密度が高い密集具合だったがそれでも皆余裕を持って座れていることから相当広いのだろう。

東京ドーム単位での大きさだったとしてもおかしくはない。


「ええっ!?あぁ………うぅ………」


その声の発生源が直留のすぐ近くだったので何となく意識を傾けてみると、直留の腕の中に温もりがあった。


「え?」


そういえば何で僕は誰かを抱えこむようにして座っているんだ?と遅まきながらも疑問に思い恐る恐る見てみると、そこには顔を真っ赤にしてそのキリリと吊り上がった眼をウルウルとさせた夕衣がいた。

そこで思い出したのは、学校で光が迫った時に咄嗟に夕衣を庇おうとしたことだった。


「(あっやばい。これは完全に怒っているな)」


庇おうとして動いたとはいえこんな状態だ。到底許されるとは直留とて思っていない。

顔が赤いのは怒りで頭に血が上っているから、涙目になっているのはあまりの怒りに涙腺が刺激されているのだろう。

昔夕衣を怒らせたときに本人がそう言っていたのだし、本当のことだろう。

そんな勘違いをしている直留は取りあえずこの状況を何とかしようと夕衣に気づかれないようにそろりそろりと身体を離れさせていく。

そして、あと少しで離れられるというときにガシッと勢いよく手首をつかまれる。


「ちょっと、待とうか直留」

「ご、御免なさい」


直留はあまりにも必死そうな声の夕衣に反射的に謝ってしまっていた。


「ん?なんで直留が謝っているの?」

「え?だって夕衣は怒っていないの?昔怒らせたときに今みたいになった夕衣が怒っている状態なんだって教えてくれたからてっきりそう思ってたんだけど………」

「あっ、あー…………そ、そうよっ!私は今怒っているの!でも早めに謝ってくれたから許してあげるわ。で、でもそれだけだと対価が足りないから誠意を見せて、わ私とつ………付き合ってもらおうかしらっ!」


さっきよりも顔を真っ赤にしてそう叫ぶように言った夕衣の言葉を聞いた直留は面倒だなあと思いながらも許してくれるのに対価が足りないといわれたために仕方がなく了承しようと考えていた。

方向音痴の直留にとって夕衣のサポートがないというのは死活問題なのだ。

それは異世界へとやって来ても変わらない。

このまま、許してもらえず離れ離れになればやばい所に入ってあっさり死ぬ未来がありありと想像できる。


「うーん………まあいいよ」

「え?いいの!?」

「うん、まあ僕は面倒だしあまり筋力も体力もないけどショッピングとかの荷物持ちにしてくれればいいよ」

「ああ、付き合うって意味を捉え間違っているのか。思えばこの鈍感不落要塞がそう簡単に落ちるわけなかったわ………はあ」

「ん?夕衣何か言った?」

「いいえ、別に何も言ってないわよ。じゃあ後で買い物に付き合ってね」

「了解」


そんな期待と誤解が入り混じる直留と夕衣の会話が終わった時、タイミングよくギギギと扉が開く音がし奥から幾つもの人影が現れた。

一人は氷河を思わせる冷たい美貌の若い男、一人は万人を虜にする可愛らしいこれまた若い女、更にその奥には豪華なマントを羽織り、手には釈、頭には冠を乗せたこれいかにも王様という人物がいる。

そのわきには国の重役っぽい見た目のお爺さんたちがいるが影が薄すぎてあまり印象に残らなかった。

ちなみにお爺さんたちは歓声を上げて喜んでいたが何故か影は薄かった。


「おお!ついに勇者様達の召喚に成功したぞ」

「やりましたね父上」

「成功ですわ、お父様」


多分王族の人たちは直留たちも含む室内にいる明らかに服装が違う人たちを見てそう歓声を上げた。

その様子と明らかに文化の違う今ではコスプレと思われてもおかしくない人たちの登場に召喚された子供たちは騒然としている。

ざわざわと人数に比例するように大きくなっていく騒めきにそれと同じくらいの声の大きさで一喝する声が上がった。


「皆っ!ここは俺を信じて一回静かにしてくれないか!」

「えっ、あれ静斗じゃないか!」

「あっ本当だ、静斗君だ」


そう言ったのは妙にキラキラとした雰囲気を纏った高校生だった。

癖のないサラサラとした金髪にラピスラズリのような青い目、彫りの深い顔の造形といった外国人風味な顔立ちをしている。

彼の名は明星静斗(みょうじょう せいと)といい、英国人の祖母を持つクウォーターで直留と夕衣のもう一人の幼馴染でもあった。

静斗はいわゆる完璧超人で学問、運動、遊びと全てを一流にこなすような人間だ。

学校の体力テストは当然のように全種目10点のA評価。

全国規模で行われる学力診断テストの1位を譲ったことはないし、若干16歳にして庶民的なゲームからダーツやビリヤードのような遊びもマスターしているというリアルチートな人物でもある。

そんな顔も良く、チートスペックな人物の登場に何所からか「きゃぁぁぁー!!」という姦しい歓声が上がったが、それも一時的なものですぐに収まった。

静斗はいろんな意味で有名なので誰も異論はないようで無言を貫き通している。

真っ先に騒ぎそうな小学生や中学生たちも静斗が無意識に出しているカリスマ性に飲まれて喋ることができなくなっていた。



「えっと皆も静かにしてくれているようですし、じゃあ質問するのですが良いですか?」

「うむ、急な召喚に応じてもらったのだから状況が飲み込めていないというのも分からなくもない。ワシが答えられることなら何でも答えよう」


静斗がそう言うと、王様っぽい格好のお爺さんが快く応じてくれた。

そして、質問が大量にされることになる。


「まずはっきりさせたいのですが、あなたがこの国の最高権力者でよろしいのですね?」

「うむ、いかにもそうである」

「なるほど、では何故僕たちは呼び出されることになったのでしょうか?おれ………いえ私たちの国の法ではこれは立派な誘拐に他ならない案件なのでそれ相応の理由をお聞きしたいのです」

「あい分かった。じゃが、それには現在人類が直面している未曽有の危機について説明しなければいけないじゃろう」


その先の国王様から聞かされた話は所謂ところのテンプレに満ち溢れた内容だったので簡略する。

・ある日、魔物の王、【魔王】を名乗る輩が現れた

・魔王の出現した不毛の土地、旧魔王国領に面していた武力だけならば最強と名高い帝国の一つが魔物との戦争によりあっさりと滅ぼされた

・そのことに危機感を覚えた各国は共同して魔物と戦うことにしたが日に日に追い詰められていき消耗が激しい

・勝機をつかむことができない各国は古い文献から昔魔王が現れた時異界から呼び出した勇者に討伐してもらったという記述を見つける

・このままでは人類滅ぶので、心苦しいことではあるが勇者を呼び出そう、折角なら呼べるだけ呼んでしまおう

・勇者は4人一組で召喚されるとあったがベストを尽くした結果万人単位で呼び出せて王様たちもびっくりしている

ということらしい。

このことを聞きほとんど全員が「(とばっちりで召喚されるなんてふざけんな!)」とか「(何故そこでベストを尽くしたのか………)」と思っていた。


やはり異世界ということでステータスというものがあり、静斗と王様の話し合いの結果勇者は強い能力を授かっているということで、そのステータスを見ることになった。

ちなみに、チートを選んだはいいが確認する術がなかったために大半の人が喜んでいた。あまり騒がないのは現代っ子だからか、王様の言っていた「魔王を倒せば元の世界に帰すことができる」ということを真に受けているからか、それともまだ何処かで現実ではないと決めつけているからかもしれない。

王様が言うことには「ステータス」と口に出して言うだけで確認できるそうだ。

実際にもう試している人がいるのか所々で「おー」とか興奮したような声が聞こえる。

直留は「randomを選んじゃったけど大丈夫かな?」と幾ばくかの不安を抱きながら自分も「ステータス」と唱える。

すると、頭の中に情報が入り込んでいきよくあるステータスそのものを作り出す。


個体名:泰田直留 種族:人族 性別:男 レベル:1(成長限界に達しています)

職業:???


能力

HP:100/100%(成長限界に達しています)

MP:100/100%(成長限界に達しています)

ST:100/100%(成長限界に達しています)

ATK:1+10(成長限界に達しています)DEF:1+30(成長限界に達しています)

DEX:1(成長限界に達しています)SPD:1+5(成長限界に達しています)

INT:1(成長限界に達しています)MID:1(成長限界に達しています)


固有能力(ユニークスキル):【無現成長Lv1】【???】【???】【???】【???】

技能:【理解Lv1】【???】【???】【???】【???】【???】

   【???】【???】【???】【???】

才能:【罪の才Lv1】【魔の才Lv1】【劇の才Lv1】

装備:【普通の学生服】【普通のアンダー】【スニーカー】【学生鞄(荷物満載)】

称号:【異世界人】【大罪を犯す者】【創る者】【操る者】



「(あ、うん、どうしようこれ)」


Allrandomにした以上覚悟はしていたが、予想以上に突っ込みどころ満載な自分のステータスに直留は戸惑っていた。


「(ステータスに???の表記が多すぎじゃないか。しかも能力ほぼ1しかないのに成長限界って………いろいろとこれ詰んでいるなぁ………)」


『【???】:未覚醒技能、条件を満たしていないため解放されていない技能』

『成長限界:まさしく成長の限界。それ以上能力の値が上方修正されることが一切なくなる。ただし、外付けの場合は除く』


「(ん?何だこの表示)」


気付くとステータス表記に被るように別の情報が頭の中にあった。

そして、新たな疑問が出てくるとまた新しい情報が出てきた。


『【理解Lv1】:ありとあらゆる情報を見ただけで理解することができるスキル。まだLvが低いため得られる情報は自身のことに関してのみ』


「(へー、この技能は中々使えるな)」


そうやって【理解】を使っていき直留は自分のことを理解していく。

そして分かったのは、自分が限りなく弱い存在だということだ。


「(本当にこれどうしよう………)」

「直留、さっきから落ち込んだ表情をしているけどどうしたの?」

「ああ、ただ単にステータスが悪くて落ち込んでただけだから気にしなくていいよ」

「ふーん、じゃあ気分転換がてら久しぶりに静斗に会いに行かない?」

「別にいいけどあいつなんかいろいろ囲まれているけど、大丈夫なのか?」

「まあ、行ってみれば向こうも気づいてくれると思うよ」

「そうだな、じゃあ行くか」


そう言うやり取りをしながら、静斗を囲む学生だったりこの国のお偉いさんだったりの群衆に近づくと、やはりというべきか向こうも気づき囲んでいた人にどいてもらってから直留と夕衣に近づいてきた。


「やあ、直留に夕衣じゃないか。君たちもこっちに召喚されていたんだね」

「ああっ、というか数を見るに日本の学生のほとんどがこっちに連れられてきているんじゃないか?」

「そうかもね、それでちょっと王様と話してみたんだけど小さい子とかも呼び出しちゃったし戦いを好まない人もいそうだったから、保護を要請したら快く了承を貰えたよ。しかもかなりの好待遇を約束してくれるって」

「ふーん、そうか(あまり人類に余裕がないって言っていたのにこっちの半分くらいになる人数を保護できるのかね?まっ、保護してくれるっていうことなら面倒事にはならないだろうしお言葉に甘えとくかな)」


その時の直留は自分の考えがどれほど甘かったかを知らなかった。

引き留める夕衣と静斗に自分が戦えないことを告げ軽いお別れを済ませた。

その後、戦闘に向いたステータスをしていない、戦いをしたくないといった人たちを自己申告で集めて全員を保護してもらえることになった。

保護対象になる人物は全員話があるからと国の衛兵たちに連れられるがまま移動するとそこは薄ら寒い気配を漂わせた広場だった。

広場の中には無数の衛兵が並び各々武器を研いでいる。


「(ちっ!嵌められた)」


【理解】スキルの影響で珍しく直感を発揮した直留は一目で状況を看破した。

大勢の人がいるところでも話をできる場所にすると言って連れてこられたが、ここは処刑場だ。

ここに来ているのは大体500人弱。衛兵よりも絶対数は多いがその誰もが戦闘ができないような烏合の衆だ。

抵抗したところで何の意味もなく、徒労に終わるだけだ。

後ろで防音、通り抜け不可の結界が張られたという絶望的な情報を無情にも理解してしまった。


「ははは、異世界人はいい経験値になるからな。戦力にならない無駄飯喰らいを生かしておくほど余裕があるわけじゃないのでね、大人しく死んでくれないかな?」


こちらへと武器を向けてくる兵士たちに戸惑うような声や怒りの声をかけられた時の王子の返答はこれだった。

そして、直留は逆らうヤル気をなくした。

自分は最弱で何もできないのに骨折り損のくたびれ儲けになることをする意味があるのだろうかと考え、答えは否と出た。

確かに死ぬのは怖いしダラダラとした時間を過ごせなくなるのは嫌なことだが、直留は面倒なことをしたくないのだ。

そして、兵士たちは容赦なく襲い掛かって来て抵抗できない勇者たちを蹂躙していく。

無抵抗だった直留はあっさりと槍に貫かれて死亡したのだった。


『特定条件を満たしました。固有能力【絶対憑依】が解放されます』

『一定条件を満たしました。技能【小耐性:貫通】を獲得しました』

『【絶対憑依】の解放条件:この固有能力所有者の1回以上の死亡が達成されたため、【絶対憑依】が強制発動します。魂の鎮静化………成功、捕食者の有無………無し………待機状態に移行します』


それから対外的には直留を含めた一部の非戦闘系勇者は話をしている途中に転移でやってきた魔物に殺されたことになり、王様たちは他の役に立つ勇者たちに守り切れなかったことを謝罪した。

そのため大々的にこの国の葬儀の仕方である火葬をできずに殺された勇者たちの死体は土葬されることになった。

そして、直留の死体はゆっくりと土に帰っていくことになる。


『捕食者の反応有。【絶対憑依】が発動されます。魂の覚醒………成功、憑依率………90、95、98、99、100%、成功。【絶対憑依】が完了しました』

『特定条件を満たしました。技能【吸収】が解放されます』


「(ん?ここは何所だろう?というか僕死んだはずだよね?)」


直留が目を覚ますと辺りは真っ暗だった。普通に何も見えない。


「(あれ?そういえば僕の身体なんかうねうねしているけどどうしてだろう?)」

『個体名:泰田直留 種族:マジックバクテリア』

「(ええー!?なんか微生物になっているんですけど!)」


こうして直留は変わった形で蘇ることになった。

彼が自分のチートを使ってなり上がっていくのはまた別の話。

-------------------------------------------------------------


そこは真っ暗闇。

人間では見通すことができない程に光の差さない部屋では何かがウネウネその不定形の身体を蠢かせていた。

それがビクンッと一跳ねすると、それは徐々に人の姿をとっていき最終的には間延びしたあくびを漏らしながらベッドから起き上がった。


「ああ、昔の夢か………久しぶりに見たな………もう何年前のことだっけ………まあどうでもいいか」

東京ドーム~個分の広さと言われてもいまいち大きさが分かり難いですよね。

主人公はとても鈍感な生き物。ただし無自覚ハーレムを作ることはありません。


【普通の学生服】:日本で使われている一般的な学生服。そこら辺の服よりは耐久性がある。DEF+10・セット装備:上下ともに着ている場合のみDEF+25

【普通のアンダー】:日本で使われている一般的な下着。そこら辺の服よりは耐久性、柔軟性、吸汗性に優れている。DEF+5

【スニーカー】:日本で使われている一般的なスニーカー。そこら辺の靴よりは丈夫で履き心地が良い。SPD+5

【学生鞄(荷物満載)】:日本で一般的に使われている学生鞄に教材その他様々なものを詰め込んだもの。とても重いため取り扱いには注意が必要。ATK+10

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ