今宵、道化師の喜劇に終止符を。
掌編小説を不定期で投稿させて頂いています。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
合コン会場から駅へ向かう繁華街。
傘もない僕は、降りだした雨にウンザリしながら一人歩く。
先を行く友人たちは無事、カップリングに成功したようだ。
『今日はありがとな。お前のお陰で連絡先もゲット出来たよ。』
居酒屋の出口、嬉しそうにVサインを僕に向けるアイツの姿を思い出し、僕の役目は終わったと自分に言い聞かせる。
―僕もアイツみたいに上手く出来たら。
一体、何回目の合コンだろう。
いつも同じことばかり考えている気がする。
どうやら僕には、なんというか、恋愛の才能が無いらしい。
アイツみたいにルックスも良くなければ、自慢できる特技も無い。
なんとか二人きりで話すタイミングがやって来ても、緊張で喉が詰まる。
仕方がなく僕は持ち前の明るさを武器に、道化を演じる事しか出来ない。
そう、僕はいつでもピエロなんだ。
席の隅々まで目を配り、話題を振って、連絡交換の糸口を作って……。
出番が終わったピエロはお役目御免。
大人しく舞台の袖で小さくなっているのがお似合いで。
今日だってそうだ。
ボックス席の端に座った、ピンクのカーディガンを羽織ったあの娘。
多分、人数合わせで呼ばれたのだろう。場馴れしているようには思えない彼女は、ひたすら皆の話を聞き、真剣に相槌を打っていた。
なんだかその娘が気になった僕は、せめて退屈させないように自慢の笑い話の数々を披露した。
彼女は笑って聞いてくれてはいたけど、僕の出番はそこで終わり。
当たり前のように、それ以上の進展は無かった。
せめて僕に恋愛の才能がもう少しでもあれば、隣に座ってゆっくり話も出来ていたのだろう。
―都会に迷い込んだ、孤独なピエロ。
まるで、僕にぴったりだ。
なんだか悪くない気がする。
自傷気味に考える僕を嘲笑うように、雨脚は強くなっている。
―なんだよ、お前まで僕を馬鹿にするのか。
文句の一つでも言ってやろうかと、空を見上げた僕の視界を花柄の傘が奪う。
突然の事に驚くと同時に、そこで僕はやっと気づいた。
今日の参加者は全部で6人で、目の前には2組のカップルがいて。
そこには、ピンクのカーディガンを羽織ったあの娘の姿は無くて。
「あのね、色んな話をしてくれて、楽しかったよ。だから、これは……お礼。かな?」
視界の隅に飛び込んだのは、傘の柄を握るその白い肌とそれを包むカーディガンの袖口。
差し出された傘の、その意味を理解するまで、僕にはもう少し時間が必要だった。
繁華街の交差点にクラクションが響く。
それはまるで、カーテンコールの幕開けを知らせるブザーのように思えた。
お読み頂きありがとうございました。
現在連載中の『sweet-sorrow』もよろしくお願いします。