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試験的なネタ

心得違いな落ち度の果てに

作者: 日文

色々と考えていたら、多分幼少時にどこかですり込みされているよね?

割と周辺国と軋轢とか抱えていそうだし、歴代公表されている王子達って格好の的じゃないかな?と言う方向で考えたらこうなりました。


 我が国の第一王子のヴィクター様は馬鹿だった。

 頭が悪いわけではないのだが、徹底的に選択してはだめな方を選ぶ。

 注意すると首になる。

 忠告すると首になる。

 模範を見せると嫉妬する。

 それは話に聞くわがままな高位貴族の子弟としては正しいのかもしれない。

 しかしながら彼は王子だ。

 それも諸外国から女性のみの継承権を、男性のみにしろと圧力をかけられている国の。

 女王は止めてくれと懇願される国の。

 懇願と脅迫でほぼ埋め尽くされる外交事情を持った国の。

 



 自分は王子の教育係の一人だった。

 王子よりも年上で、それなりに優秀であることを認められ、王子と共に学び導くことが役目だった。

 同年代より年上、そして穏やかな気質の者が友人になりやすいだろうという事だった。

 その思惑は外れたようだったが。

 まず勉強を嫌がる。

 文字の読み書きが危うい。

 将来のためというのは理解できない様で、誰かにやらせればいいと言うこと。

 僕は王子だ!がその頃の口癖のようなものだった。

 それは事実。

 王の子供。

 王妃がお産みになったお子様。

 でもそれだけと言えばそれだけ。

 丁度第二王子が生まれたばかりの頃、皆の関心が弟君に移ったと思い嫉妬していたと考えれば、それはかわいらしいと言えるような行動だった。

 しかしながらこの国は地位や血統だけではどうすることも出来ない所に権力がある。

 神の寵愛。

 それを一身に受けている存在。

 多少の偏りはあれども、その時代時代の権力の中枢にその存在はある。

 姫巫女と呼ばれるアレクサンドラ様の直系の女性達。

 最も大切にされ、監視され、管理されている存在。

 男として生まれたと言うことは、それだけで行動の選択があるのだが、王子は未だ理解しない。

 そう言ったことを学ぶための前段階として、絵本の朗読や読み聞かせが行われているはずなのだが、王子が好む物語はこの国の歴史上の人物をモデルにした、この国の者であれば誰もが一度は耳にしたことがあるような物語ではなく、戦争を題材にしたような血湧き肉躍るような武勇の物語ばかりで、知謀知略は嫌い、乙女の愛を乞うような物語は嫌悪を示した。

 力業を好み、権力を振り回すことを楽しんだ。

 彼にはそれが許されるだけの権力があったから。

 年長者としてその行動を諫め、具体的な例を持ち出してその行動による不利益を示したが、逆にそれをあおる者もいた。

 他国からの間者。

 国の成り立ちからして異なる文化圏。

 信ずる神すら異なるというのに、他の神の神殿にすら我が国の神が与える祝福の余波がこぼれ落ちる。

 正直、良く侵略されないなぁと思わなくもないのだが、実際には何度か侵略の憂き目にあい、そのたびに戦争を仕掛けた相手国に災害が起こって派兵どころではない状態で有耶無耶になっていることも物語になっている。

 多少の誇張や脚色はあるが、この国では当たり前の物語。

 でも他国では恐怖と嫌悪でもって、悪魔の書として扱われている本。

 そういったこの国では当たり前のものを王子は嫌い、他国の当たり前を気に入ってそれ以外を寄せ付けようとしなかった。

 上手く妥協し、どちらも学び身に着けることが出来たら、血筋のこともあるのできっと外交の顔になることも出来るはずだった。

 結果は不可能だった。

 王子は勉強を嫌った。

 勉強を教える教師や自分に殴る蹴ると暴力を加えた。

 その行動は直ぐに兵士によって押さえられたが、癇癪が収まることはなかった。

 選ばれ、与えられた存在だからかもしれないと、教師も自分も第一王子から一端外され、他の貴族の教育に回ることを命じられた。

 その後は正直噂を聞くだけだった。




 あれから十七年が経った。

 王子はあの頃から成長が見られない様子だった。

 後ろに従う二人は、王子が認めた学友だろう。

 そして同じような性質を持っている事だろう。

 一人きりよりはよいと思うが、良い方向に高めあえる友人ではないことを悲しく感じた。

 自分ではどうにも出来なかった。

 あの時、どんなに殴られ蹴られても王子の側にあり続けることを願えば良かったのかもしれない。

 でもいくら自分は影武者候補だったとはいえ、受け入れがたかった。

 どうしてあんなのの身代わりに自分がならなければならないのだろうか、と考えたのは一度や二度ではないけれど……でも、離れてから思うことはあった。

 あんな王子であったからこそ、自分は身代わりとして選ばれたのではないか、と。

 すっと怖気が走る。

 自分もまたモノを知らぬ愚か者だったと言うことか。

 当時であれば入れ替わってもそれほど違和感を抱かせなかっただろう。

 所詮は男の子供なのだから、次の血統に意味はない。

 似通った容姿、それなりに優秀な頭脳、未だ裏を読まない幼さ。

 そしてあの時入れ替えられていたとしても、自分は訴えでなかったであろうと自覚している。

 ある意味自分自身が施され、受け入れていた教育や世界はそれを容認した事を。

 だからこそ王子に失望していたと言うことを。

 暴力も、言葉が届かないことも悲しかったが、自分は王子だと主張するしかなかった彼に、それ以外の価値など何もないと言うような言動にこそ。

 どうしてこんな今更な時になって気がつくのだろうか。

 だから、心を固めた。






「お久しぶりですヴィクター様」

「誰だ貴様」

 あの日、ユリアをオレの后にすると宣言したその後から城の一室に閉じこめられた。

 近く湖の中に浮かぶ島に移されると従者の一人が告げていた。

 外との交流が出来ないように、逃げ出せないように。

 これまで第一王子として持っていた権力は全て剥奪された。

 女などに権力を持たせるから、オレのような優秀な人物を幽閉しようとするのだ。

 全人類に対する損害だ。

 それに姫巫女だと?

 過去の偉人がどうしたというのだ。

 オレの先祖ではあるが、オレの先祖であることを誇りにすることは出来ても、オレが感謝しなければならない理由など無い。

 この国はオレに支配され、オレとユリアを崇め讃える。

 俺の命令の下世界に打って出て、世界を手にするのだ。

 その始まりのハズだった。

 そのはず、だったのだ。

「貴方の一番はじめの学友ですよ。私の後の学友候補者達は、様々な思惑で選ばれていたようですが……」

 そいつは名乗ることをせずにオレを哀れんだ。

 貴様などに哀れまれる筋合いはない。

「こちらとしても気になったので調べましたが、もはや貴方に関することを隠す気もないのかそれほど難しくはありませんでした。ヴィクター様、貴方が選んだ学友が彼らだったからこそ、結果として現在こうなる可能性は高かったと言えます」

「何を言っているんだ貴様」

「私はいざというときの影武者候補でした。次に集められた子供達は、それぞれ専門を扱う家門の跡取りやその候補者達でした。その次に集められたのは孤児ではありますが、頭角を見せはじめそれなりの所への推薦を貰っていた子供達」

「は?だから何を……」

「それらの子供達の誰とも友好関係が出来なかったために、連れてこられる子供達は変わりました。上位貴族の分家筋の子供達。才ある者、機転が利く者、理解されがたい者、見目麗しい者などが集められました。あくが強い者が多いため同化とも思われていたようですが、彼らとは多少は会話が成り立ったようで周りの者は喜んでいたようですが……それでも三度目、四度目となると追従しないことに癇癪を起こされましたね」

 こいつはオレの言うことが判らないのか?

 だからなんだと言うんだ。

 そんな有象無象など、オレが役立たずだと判断したのだから、必要ない存在だろうが。

 それに影武者だ?

 そんな者必要ない。

 オレを誰が傷つけられるというのだ。

 許されるはずがないだろう。

「それなりに判断が出来る、追従する様に言い含めた何人は一月もするとつまらないと言い捨て、あげくに剣の試し切りを彼らでされようとした……では、と最後に連れてこられた集団は、各家門から自分の家では不要とされた子供達でした」

「不要だと!あいつらは」

「その中から彼らを選んだため、その時点でヴィクター様は飼い殺しと諸外国用の餌に確定したのですよ」

「えさ?」

 どういう事だ?

 それにあいつらを選んだことが、だと。

 なぜだ。 

 オレは王子だ。

 この国の。

 誰よりも王位に近く、相応しい……

「この国の継承権は直系女児です。現在の国王夫妻のお子様は全て男児のため、現在王妃様から五親等以内の女性全てが王位争いをされています。その中で最も王位に近かったのが、ヴィクター様が婚約者候補であったアリーヤ様です」

 あんな子供。

 オレの半分も生きていないんだぞ、それなのに上から目線で、こんな事も出来ないのかとため息をつきやがった。

 婚約者だからこそ我慢してやっていたが、切り捨てて当然だ。

 そんなヤツが、次期だと!

「元来は女王が支配する国でした。それは諸外国からの懇願により、我が国優位の国交や関税を結ぶことを条件に現状、表向きは女性優位に見えないように工夫されています」

「はっ、他国の言い分なんかでそんな面倒な事する必要など無いだろう。我が国の王位のことに口出しする権利など無いはずだ」

「えぇ、本来なら。しかしケーラ姫を筆頭に三度、他国の王や皇帝が自国を持参金として婿入りしてきました。しかも全て平時であれば王位に就けなかった優秀でカリスマに満ちた覇王達ばかり。彼らは女王陛下の目にとまるために王位に就いたと嘯き、国はそのための手みやげにすると宣言したにも関わらず、ほぼ反感を買うことなく婿養子になり国は併合という形で統一されてきました」

 それがどういう事か判るか、と目で問われた。

 そんなもの王が決めたことであれば当然だ。

 しかし婿養子だと?妻にし、全てを支配下に置けば良いではないか。

 それが許される。

 まぁいくら歴史上で褒め称えられていたとしても、実際はオレよりも愚かで無能だったからそうするしかできなかったのだろうが。

「他の国からしたら恐怖ですよ。いつか自分の国の王が、王位に就く者がそのために簒奪するのではないかと。民にとってはそれほど悪いことではないかもしれませんが、貴族達にとっては悪夢です。自分たちの権利や権力が無くなるに等しいのですから」

 こいつは一体何を言っているんだ?

 何が言いたい?

 オレの質問に答えず、勝手なことばかり話す。

 ユリアが、あの後どうなったのかとか話せばいいのに。

 オレが聞きたいと思うことを話せばいい。

「表向きは王女が迎えた夫が国王となる形式を取っていますが、その王女も実際はそのときの国王夫妻の子供ではない事が多いそうです」

 何が言いたいのだこの男は!

「我が国の公爵家と侯爵家はアレクサンドラ様直系の女児の血統を守るためだけに存在し、それ以下の貴族達は国を支える為の専門に特化し、常に新しく優秀な者を迎え入れています。教育の仕方が確立しているので、滅多に新しい血が家門の長になることはありませんが」

「何を言っている!」

「最も良い選択は、貴方が研鑽を積み王位に就く女性の配偶者に選ばれること。次点は国を支える重臣の一人になること。その他としては、やりたいことを見つけそれで身を立てられるようになるでした」

「オレは王子だ!それも第一王子だぞ!!そのオレがどうして」

「私は貴方の影武者候補と言いました。つまり貴方もまた、入れ替えられる可能性が高かったのですよ」

 何を言っている。

 そんなわけが……

 貴様などがこのオレの身代わりなど勤まるはずが……

「しかし私は貴方から離れた。貴方もそれを望んだ」

「貴様のような」

「貴方の教師陣も。ずっと貴方は、どうするのが一番国益に適うのか観察されていたのですよ。イザとなったら入れ替えるための駒は駒自身が拒否、では進むべき方向を制限するもダメ、貴方が選ぶ学友で、貴方をどうするか……第二第三王子も似たようなモノですよ。彼らはそれぞれ重臣達のお眼鏡に適った成長の仕方をしているようですが」 

「オレは、」

「ヴィクター様、貴方は他の国に生まれていれば、このようなことにはならなかったかもしれません。しかし我が国の歴史を知ろうとせず、法を学ぼうとせず、王子であるから何をしても良いとどうして思いこまれたのですか?」

「それ、は……」

 オレは王子なのだから、何をしても良い。

 当たり前のことだ。

 だがどうしてそう思ったかだと?

 当たり前のことを思って何が……

「貴方は王妃様がお産みになられたお子。それなりの教育環境と、厳選された教師がつけられました。だから判らないのです、教育者であれば当たり前のことを貴方に教えていなかったことが。本を読むことが嫌いでもそれなりに好みがありましたね、それはどうして?」

 文字は読むのも書くのも嫌いだ。

 必要があるとは思えない。

 そうだ、ユリアが手紙をくれて初めて覚えて良かったと思った。

 つたない手で、心が込められた丁寧な手紙。

 オレを思いやる優しい言葉がつづられていた。

 それ以外で覚えていて良かったと思ったことなど無い。

 読み書きなどオレには必要な時がなかった。

「乳母やメイドも調べてあります。名を偽っていないか、入れ替わっていないか、どういう環境で育ってきたか、どのような教育を受けたか、調べ上げられています」

「なんだ、それは……オレは、オレをなんだと思っている!」

「この国にとっての貴方は駒の一つ。そして外見と血統が良かったために随分使い勝手が悪く、使い道が限定された。私との入れ替えは当時から視野に入っていましたが、ヴィクター様自身の手によって傷物になりましたので……」

 そう言いながらそいつは前髪をかき上げた。

 額には醜い傷跡。

「どちらにしてももう遅いのです。公式の場での失態。欠席などであれば未だ誰かがごまかしてくれたでしょうが、陛下と妃殿下双方がそろったお二方が主催のパーティーでしたから」

「貴様は、誰なんだ!どうして今頃そんなことを言いに来た!!」

「私は貴方の従兄、陛下の甥に当たります」

「従兄、だと?そんなもの聞いたことがないぞ」

「ヴィクター様……もう今更です。孤島では時間だけはたくさんあります。そこでもう一度学び直しましょう」

 そいつは頭をっふった。

 優しい声。

 柔らかな眼差し。

 だがそれはオレの望むモノではない。

 オレが望むのは、ここからの脱出。

 ユリアと共にあること。

 ユリアが居るのであれば、それで良いのだ。

「もう一度学びなおし、考えましょう。ヴィクター様の今後によっては、コーエン子爵令息とファーノン子爵令息の待遇も変わってきます」

 そうだ、フェリックスとギルバート。

 あいつらが居た。

 ユリアのことばかり気にしていたが、あいつらはどうなった?

 この男の話が正しいというならば、あいつらは……

「現状軟禁という形ですが、今後のヴィクター様の周辺を洗ってでた成果によっては」

「オレに対する人質だとでも言うのか!」

「むしろ貴方こそ、彼らに対する人質でしょうね」

 判らない。

 何を言っているんだこいつは。

 あいつらがこれに対する人質では無いだと?

 オレこそが人質?

 何が言いたい。

 どういう事だ。

 訳がわからなさすぎる。

「ヴィクター様、私の名前はヒースコート、貴方の従兄です。職を辞して貴方に付いていくことの許可は得ています。私と一緒に学び直しましょう」

 どうしてこいつは、そんなことを言っているんだ?




 きもちが、わるい。





「いや、アンタ婚約者〝候補〟なだけだから」のフォローと言いますか、切り捨てて放置気味だった王子様の色々考えたら、そもそもこの王家教育方法結構固まってるんじゃないかな?という考えがよぎり、その割にはこの王子だけおかしいなぁと考えていたら、〝実は幼少時にすり替え〟や〝洗脳完了後からの幼児教育〟などアカン方向のネタばかり降ってきました。

そしてついでのように〝らしい〟シリーズの真昼補完ネタも……


とりあえずこの話はこれで終わりと言うことで。

ユリアはどうなったか不明です。

考えていないので、全ては皆様の心の中でよろしくお願いいたします。


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