負けないから-4
「はあ!? あれがリドリーさんと緋山さんが企てた入社試験あんど王子育成だった、だと!?」
「緋山さんなんてそんなむず痒いこと言わないでよ。駿でいいよ、駿で」
はあ、と大きなため息をつく。
ホント異世界人、コワイ。
「それと社長に君の入社試験の結果を送っておいたからそろそろ返事が帰ってくるんじゃないかな?」
にゃおん。
振り返れば窓の側に三毛猫がいた。
そして三毛猫は器用に右足で頭を掻いた。
するとビックリ仰天、白い純白のワンピースを着た幼女が現れた。
「皆の衆、久しいな」
「純情幼女きたぁぁぁぁぁぁ!!!」
私は猛烈に叫んだ。
おっと、つい口が。
「…むっ……ラティも、幼女……なのに…」
「いやあ、確かにラティも幼女で好きだけどさ、ここまで純白のワンピースが似合う幼女は三次元で初めて見たから。つい、ね」
「…むかむかっ……」
三次元も捨てたもんじゃないな。
「かっかっか! なるほど、この小娘が緋山が言っていた奴か。なかなか良い奴ではないか。して、杏と時雨はまだ帰っておらぬのか」
「はい、杏は碧の帝国に潜入捜査に。時雨は街郊外の殺人事件の調査です」
この世界も物騒なのは、元の世界と同じなんだな。
「で、お主」
「私?」
「お主しかおらぬだろう。名を何と申す?」
「名前はない」
沈黙の空気が社内に流れる。
「かっかっか!! とんだ風来が来たものじゃ!! 気に入ったぞ。合格じゃ、お主もこの桜宮相談所の社員じゃ。よろしくのう」
「それはそれでありがたいんだけど、まさか社長って本当に幼女なわけ?」
「これは分身じゃ。今は葱の帝国と外交中だからのう。こうして分身で来たわけじゃ。なんだ、お主そんなことも見抜けないのか?」
「見抜けない」
だって、この世界の人間じゃないし。
「まあ、詳しいことは後日話そう。ではそろそろ話を終わるとしようかの。紫、よろしく頼むぞ」
「もちろんです」
幼女は三毛猫に戻り、煙となって消えた。
「よし、そうとなれば名前だ!」
「は? 名前?」
「そう。名前がないと不便じゃない? 特にここにいるとなるとね。だから僕があげるよ。名前。名前はその人の存在の理由を示すようなものだからね」
存在理由、ね…。
元の名前はないんだけどね、存在理由なんて。
「そうだね、こんな名前なんていいんじゃない?」
『涙』
「それが君の名だよ。涙色の目をした君にピッタリだよ」
「る…い…」
「どう? 我ながらいい名前だと思うんだけど」
嬉しい。
よくわからないけど、久々にこんな感情抱いた気がする。
「それじゃあ、皆! 今日からこの子は涙ちゃんだから!」
その後、あまり覚えてないけどーーーー。
久しぶりに笑った気がした。