負けないから-2
私はトランプを切る。
「トランプ、確認する?」
「結構だ、触らずとも見ればわかる」
「へぇ、そりゃあ、すごい」
そのまま変わらず、トランプを切る。
「ゲームを挑んだのはこっちだし決定権をそっちに譲る。何がいい?」
「いや結構だ」
「それは残念。そうだね、こちらから賭けるものはそこにいるシャルロット王子。そちらは…今の碧の帝国に関しての情報かな?」
「良かろう」
トランプのカードの中からジョーカーとダイヤのエースを取り出し、箱にいれる。
「ゲーム内容は何だ?」
「単純にジョーカー引き当てるゲーム。先に2回、ジョーカーを引いた方の勝ち。これは運の勝負だから、平等でしょ?」
「…鬼族も甘く見られたものだな。たが、運勝負なら文句は言えまい」
「さあさあ、バッと取って」
箱に男は手を入れ、カードを躊躇なく取り出す。
男は顔をしかめた。
どうやら、ジョーカーじゃなかったらしい。
「運がなかったねえ。じゃあ、次は私」
シャルロット王子が固唾を飲んで、私を見守る。
やめてよ、視線で背中が痛いよ。
「はい、ジョーカー」
「……運が良いのだな」
「おやおや、恨めしいですか?」
「口数の減らないやつだな」
変わらず男は箱に手を入れる。
引き当てたのはジョーカーだった。
「だがまあ、俺にも運は着いてきたようだ」
続いて私も引く。
そして、
「少し運が着くのが遅かったね。私の勝ち」
「なっ!! 貴様、本当に運なのだな!?」
「うん、言ったよ。『運の勝負だから、平等でしょ?』ってね」
「そんな簡単に…」
「おっさん、言ったこと忘れたの? 運勝負なら文句は言えまい。ってさ」
「…っ!!」
諦めたのか、はぁ、とため息を男はこぼした。
「もう良い。では約束の碧の帝国について話そう」
「潔いねえ。もっと突っかかってくるかと思ったよ」
「命絶たせる者、常に静であれ。これが俺たち暗殺者の心得だからな」
どうやら一流暗殺者みたいだ。
こっちからすれば、有難いけどね。
「それで何が知りたいんだ?」
「女王様のことから他の国との状況まで」
鬼族の国、別名碧の帝国。
懍女王を筆頭に国は成り立っている。なんでも500年は生きてるとか。
経済でも農業改革も安定している。
やはり葱の帝国とは犬猿の仲らしいが近頃は戦争はしてない。
懍女王はあの謎だらけ黎の帝国と接近したことがあるとか。
「懍女王とは会えないの?」
「…不可能に近いだろうな。あの人は気分屋だ。あの人の気分で国一つ消すことだって可能だ」
「めんどくさっ。やっぱり、いいや」
そうか、と男は呟き、店を出て行った。
「ふぅぅぅ〜〜〜ぅ」
「なんでシャルロット王子が腰抜かしてるんだよ」
「だってこんなこと、初めてだよ…でもよかった! 運が良くて! うん、本当に!」
「…………………まさかさっきの勝負、私の運で勝ったとでも思ってるの?」
「ん? そうじゃないのかい?」
ここにバカ発見。
「……わかりやすい…ネタ…」
「わかりやすいも何もラティは心が読めるんだから、分かって当然でしょ?」
「……もちろん…」
それでも分からないシャルロット王子は首を傾げる。
それを見た三戸さんが呆れながら
「要はイカサマや。お嬢ちゃんがやったのはイカサマや」
「イカサマ…? だ、だとしてもどこでする余地があったの? どこも不自然なところはなかったよ?」
「お嬢ちゃんがタネを仕掛けたのはトランプを切ってる時や。あの時にジョーカーのカードの隅に爪で傷を付けた。それで箱に手を入れた時にそれを確認して取り出す。それで完璧にジョーカーを引けるってわけや」
さすが。見破るとは恐るべし三戸さん。
三戸さんに説明を任せて私はプリンを食べるとしよう。
「じゃあ、彼女はトランプを切ってる途中で彼にトランプを確認することをオススメしたよ? それは何故?」
「確認するためや。お嬢ちゃんは鬼族がどの種族より比べて五感があまり発達してないことを確認したかったんやろうな」
そう。さっき本を読んだ時に書いていた。
五感には視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚がある。それらが他の種族に比べてあまり発達していないのだ、鬼族は。
だからそれを利用するために傷の付いたカードを触らせて確信を得たかった。
「だけど、触らなかった。まあ、確信した時は男がダイヤのエースを引いた時やな」
「そうだったんだ…でもイカサマは良くないよ!」
プリンを食べる手を止め、シャルロット王子に向き直る。
「あのね、イカサマはバレなかったらいいの。それに今、そのイカサマのおかげで死なずに生きてるんだからいいじゃん」
「…でも……」
「腑に落ちないって顔してるね。そんな顔するんだったら、威風堂々としてろ」
反論ができなくなったシャルロット王子は俯いて黙り込む。
これだから箱入りはめんどくさいんだ。
「最後に一つだけ質問していい?」
顔を上げ、真剣な眼差しで
「君は人類を信じているのかい?」
その質問にただ、
「あれは言葉足らずだったね。私は『人類自体』を信用しているわけじゃない」
「じゃあ! あの時ーーー」
「私が信じているのは『人類の進化』だ。実際、人類の元祖は猿だからな。そこから、今こうして言葉を喋って食べ物を食べているわけだ。これに賭けないわけにはいかないでしょ?」
その時、シャルロット王子の目に涙が浮かんでいた。