負けないから
「20歳の誕生日にやっと外に出る許可がもらえたから使用人と一緒に外に出たら、知らないことだらけで、しかも刀を持ったやつに殺されそうになって使用人にとはぐれてフラフラ彷徨ってた、というわけか?」
「うん。だから僕を相談所に案内してほしくて。リドリーに何かあったら相談所に行けばいいって言われたから」
冷えたプリンを頬張りながらシャルロット王子の話を聞く。
つーか、このプリン……今まで食べた中で一番美味い!!!
こんなプリン初めて食った…。
………異世界も悪くはないな。料理に限るけどね。
「三戸さん、プリンもう一つ」
「お前、よお食べるなぁ。そんなに気に入ったんか、うちのプリン?」
「こんな美味いプリン、初めて食ったよ。毎日、買いに来たいくらいだよ」
「そかそか! やっぱ、ラティの連れてくる客は|良い奴ばっかやな。ほれ、プリンや」
三戸さんが人差し指を一振りし、プリンが一人でにふよふよと飛んでくる。
これ店主である彼の能力らしい。
「んで、碧の帝国の奴らが王子様をーーー…盗み聞きはあんまり誉められた趣味じゃないと思うけど。碧の帝国の暗殺者さん」
シャルロット王子が蒼白した顔でドアの向こうを見た。
ラティが気づいていることはおかしくないけど、三戸さんも気づいているとは…まさか只者ではない?
まあ、関係ないからどうでもいいけど。
そしてドアが開き、
「……貴様、何者だ? 俺に気づくとは。いつから気づいていたのだ?」
男は30代前半に見える。麻布のフードを取るとご立派な角が生えていた。
なるほど、これが鬼族か。
さすが異世界。
「プリンを食べ始めた頃かね」
「…ならば、要件は分かっているだろう?」
「シャルロットの王子の身柄を渡せ、ってか?」
「無論」
男はただそう言った。
シャルロット王子は向かいの席でカタカタと体を震わせていた。
「確かにさっき見てきたけど、今の紅の帝国の状況は最悪極まりない。そこで碧の帝国の傘下になれば、この状況を立て直すことだって可能になる」
「ならば早く渡せ」
沈黙の中、大きく深呼吸して憎たらしい笑顔で、
「断る」
その場にいた皆が目を丸くした。
「これぐらい最悪だった更生した甲斐が得られるじゃん。それにさ」
そして男に近づき、
「人類を見縊らないでくれる、おっさん?」
気に障ったのか、男は眉間に眉を寄せた。
実際、私のいた世界は人類すごかったし。つーか、人類しかいなかったんだけどね。
「人類と言えど…自分の能力しか頼らないやつ、罵り合い、惨めに儚く死ぬ。そんな人類を見縊らずに何とする?」
「確かに人類は愚かだよ。もちろん、私もね。だからこそ、人類はすごいんだよ。それなりに生きようとするからさ」
「……貴様、殺されたいのか?」
懐に収めていた刀を取り出そうと男の手が動く。
あー、ヤバイ。かなりヤバイやつだ。命の危機を感じる。
「俺の店で人殺しはやめろよ。それくらいの礼儀、できるよな?」
三戸さんは新聞越しに睨みつけた。
うひゃー、三戸さんこわっ。
「店主もこう言ってるんだし、ここは『ゲーム』しない? 私、平和主義だから」
「なぜ、ゲームなのだ」
「まあまあ、いいじゃない。それに」
ポケットからトランプを取り出し、
「人類の凄さ、見せてあげる」