異世界調べ-3
「ラティ。この近くに図書館とかない? あるなら案内してほしいんだけど」
「偉いねえ。下調べなんて」
「ここが何処かわからないとプリンさえ買いに行けないからね」
プリンが買いに行けなかったら私は糖分不足で死ぬもの。
ていうか、元の世界ではプリンで生活してきたようなものだし。
。。。
パタンと読み終えた本を閉じる。
ここの帝国の公用語は日本語か。ラテン語とかだったらどうしようかと思ったわ。でも時々、わからない言葉が入っている。
まあ、解読できないことはないから大丈夫だとは思うけれども。
というか、ここに『日本』はないけど『日本語』はあるんだ。『人類語』って言われてるみたいだけど。そのままだけど。
「確かに、世界は三つあるみたいだね」
「……魔界…表裏別れた世界……」
読み終わった本を撫でながらラティは言った。
異世界と言えど外見の構造は私の元いた世界と似ている。
図書館の窓ガラスはカラフルなステンドグラス。
年代物の木の本棚には其れ相応の年代物の分厚い本。
まあ、異世界らしいところは空中に本が浮かんでいるってことくらい。
その本たちのおかげでわかったことがある。
紅の帝国。
能力を持った人間の帝国。別名、異者と呼ばれていて他国から差別をされている。
そして一番、弱小国であって領土も少ない。
碧の帝国。
突飛的な身体能力をもった種族、『鬼』が集まった帝国。
気難しい種族だとか。
戦闘となると一番に敵に回してはならない種族らしい。
葱の帝国。
高度な魔法を使う種族、『天使』が集まった帝国。
その高度な魔法を生かした攻撃をするため、葱の帝国が一番領土を持っている。
かつて、碧の帝国と歴史上、大規模な戦争を起こしたとか。
翠の帝国。
高度な知識を持つ種族、『エルフ』が集まった帝国。
戦闘に関してはイマイチだが、知識に関してはあの天使を圧倒させたとか。ぜひ手合わせを願いたいね。
黎の帝国。
ここの国に関しては何も載っていなかった。
一体、何の種族の集まりなのか。この国は謎が多すぎる。
「ざっとこんなものか」
「……どう?……この世界は…」
「確かにあの謎の声の主には天下を取ってみる? って聞かれたけどさ。でもまあ、統一するのもありかもね」
「……ラティ…手伝う…」
「ありがとね。あまり期待はしないでおくよ」
とりあえず目標。
天下統一、かな?
。。。
「…ここに行きつけの……駄菓子屋」
「へえ。プリン売ってる、ここ?」
「……もちろん」
合図値を打ちながら私はスマホで街を撮影していく。
どの家もレンガ構造か。ヨーロッパみたいだね。
あと、駄菓子屋もパシャっと。
これは…初めて見た。レンガ構造でできた駄菓子屋…。
「…これが今回の依頼で捕まえることになった……シャルロット王子…」
「うお、普通に王子サマじゃん」
「…甘いマスクで奥様を……虜にする」
ラティの言うとおり、ポスターには美形の青年が笑っていた。
王子様がイケメンだと民もウハウハだな。
「ねえ、君達」
「いやぁ、美形だね」
「……汗臭い男…嫉妬する」
「ねえ! 君達ってば!!」
はあ、とため息を吐き、
「何!? せっかく関わりたくないから無視し…た……え?」
「……わお…」
振り返れば甘いマスクの青年がいた。
そう…まるでこのポスターの王子様のような。
「本物…?」
「うん? よくわからないけど、一応本物だよ」
まさか、こんなにあっさりと…。
「ラティ、これって」
「……依頼解決」
「本当に解決しちゃったよ」
だが、どこか違った。
というか、ホームレスのような貧乏人みたいな。
まさか夜逃げ?
「その…君達に頼みがあるんだ」
「頼み事は…えっと使用人の名前ってなんだっけ?」
「……リドリー」
「そう、リドリー。リドリーさんに頼んで」
突き放すように言う。
実際、面倒ごとは勘弁なんだよね。
「リドリー?! なぜ君が僕の執事を知っているんだい!?」
反応からして、あの手紙は嘘じゃなかったらしい。
「依頼人。あんたを探してくれってさ。まあ、最も私は関係ないけどね」
「………服…お風呂」
「おお、マイフレンドよ。確かに借りてるし借りたけど、これとは別でしょ?」
「…恩返しっ」
確かに恩返ししなくちゃいけない立場だけど。
「それより僕を頼みを聞いてくれないかな? 」
「私は社員じゃないからラティ、後はよろしーー」
「……逃がさない…それに紫と駿に……逃がすなって言われてる…から」
捕まった。
そして異世界人、コワイ。
「その、僕を助けてくれないかな?」
「じゃあ、王城に戻れよ」
「それはできないんだ。やっと苦労して出た外なんだ…やっと自由になれたんだ」
なるほど、あれか。
「籠の中の鳥だわ…嗚呼、あの大きな青空を羽ばたきたいわ…」っていう金持ちならではの悩みですよね。
引きこもりの私にとってはありえない発想だけどね。
「それでその…碧の帝国の悪漢に追いかけられてるみたいなんだ、僕」
「…….それって…単なる悪漢じゃない……多分、王子様を殺しに来た暗殺者…」
「ぼ、僕を…? そんな…」
シャルロット王子の顔が蒼白する。
まあ、あっちの世界の歴史上の人物は最後、自殺または暗殺で終わる。
こいつもそういう終わりなのかもね。
「冗談じゃない!!! 僕にはやるべきことがあるんだ!! 僕はまだ死ねないんだ!!」
ラティも私も目を丸くする。
ほお……ベタな展開だな。こういう展開、RPGに出てきたな。生で見れるとは。
「うっせええなぁっ!! 俺の店の前で叫ぶなんて営業妨害や!! 話し合いならうちの店の名物『タマプリン』食いながら話せやボケェ!!」
駄菓子屋の扉から店主であろう、男の人が現れた。
いきなり怖いな。
「…ごめんなさい……三戸さん…」
「んぅ? ラティじゃねーか!! ラティなら別や。何や? ラティの付き添いか、こいつら?」
「……うん…お友達……プリン三つ…」
「そかそか、んじゃ入れ! よお冷えたプリンあるしな!!」
どうやらお気楽な人のようだ。