助ける勇者
「んぁぁぁぁぁ!!」
がたっ。勇者は自分の叫び声で目を覚ました。
「俺は…昨日…」
勇者は思い出す。昨日の出来事を。
「…行かなきゃな。行って確かめるんだ!」
勇者は起き上がり身支度を整えデルキリオ王都ベンゼン区北西松315-7にある宿屋を出た。
街は閑散としていた。今日は確か都知事選の日だ。
耳を澄ますと選挙の声が聞こえる。
「我らがズヴィズダーの光を、あまねく世界に!」
「「「我らがズヴィズダーの光を、あまねく世界に!!!」」」
勇者はあまり選挙などには興味がない。しかし、その時だけはなぜか関心を持った。
「世界は征服されたがっている!!」
「「「おーーー!!」」」
………。
◆
ここはデルキリオ王都マリガン区中央センチュリオン1-1-1王城前だ。
勇者はその豪華絢爛な門の前で立ち尽くしていた。するとそれを不審に思った門番が声をかける。
「貴様っ!ここで何をしている!用がなければ即刻立ち去れ!」
「獅子王レーヴェ!覚悟!」
勇者は門番に向かって剣を振り下ろす。
「うわぁぁぁ!血がぁ!痛いよーー!んへぇぇ!!」
「ちッハズレか…」
勇者は剣についた血をマントでぬぐるとその場に座る。
「うわぁぁ!とまんねーよ!マジで!あぁぁん!」
「いま治療する!もう少しの我慢だ!」
勇者は治癒術で門番の傷を癒していく。
「…おお。ありがとう。なんかさっき怒鳴っちゃってごめんな。俺アリエル。君は?」
「俺は…」
すると門の隣の小さい連絡用のドアがあく。
「おーい。交代の時間だ。」
勇者はその新しくリポップ(再出現)した門番の頭めがけてソニックリープを発動する。
剣が紫色に光り、目的に向かって鋭く飛んでいく。
キンッ!!
しかし、その音は肉を裂く音ではなく、剣と剣のぶつかる音がした。
「おいおい、ここは圏内だぜ。」
「に…兄さん…」
その人物は勇者の兄、クロノス.ギル.アヴェントンだ。
「貴様っ!我が獅子王レーヴェと知っての狼藉か!」
獅子王レーヴェは勇者に憤慨をする。
しかし、そんなことよりも。
「クロノス兄さん!なんで兄さんがここに!」
「ユーリ。まずは落ち着け!この状況を説明しろ!」
クロノスはレーヴェの前にたち勇者に剣を向ける。
「…わかった。実はさ仲間が…」
勇者が話し始めると後ろにいたアリエルが結束バンドで勇者の両腕を結束しようとする。
「そのあとにドラゴンが釣れてさ…」
勇者は説明を続けた、アリエルは少し手こずっている。
「卵が美味しそうに見えて…」
「よーしでけたで!後は牢屋で聞かせてもらおう!一からな!」
アリエルはエセ関西弁で勇者を連行する。
「はっはっは!勇者が反逆罪で捕まるなど聞いたことないわ!きびきび歩かんかい!」
レーヴェは勇者のお尻にタイキックをする。
「アッッッーーーーーー!」
勇者はびっくりしてものすごい腕力で結束バンドを引き破りその場から逃げた。
「その走り方覚えたぞぉぉ!勇者ぁぁ!」
アリエルは逃げていく勇者につばをとばして叫ぶ。
◆
「はぁ…はぁ…」
勇者はあの後デルキリオ王都マリガン区中央センチュリオン1-1-4の王城前商店街を駆け、広場の左をはいった路地にいる。
勇者が疲れた体に酸素を吸って肺で二酸化炭素に変換して休んでいると闇の中から誰かの声がする。
「…勇者殿。拙者でござる。六助でござる。」
「…武蔵!生きていたのか!」
勇者は死んだはずの仲間が現れてびっくりする。
「あのくらいでくたばる拙者ではないるよ。ていうか一部始終見てたでるがなんで逃げるなら結束されるるるるるるるっ!」
尺がないので早口でしゃべる六助のケツに何かがかぶりつく。
「むぅさしぃぃ!」
「んーしゃどのぉぉ!」
武蔵は闇の中に飲まれて消えた。目を凝らすとそこにはアナコンダLV45がいた。
「なぜ魔物が街の中に!まさか…!!!!!!!!!!」
勇者は無駄にびっくりしてこれがリピール(看破)魔法だと気づく。
勇者はその場から逃げて立ち去り広場に入り右に曲がりデルキリオ王都マリガン区中央センチュリオン1-1-4の王城前商店街を走る。
「勇者だぁー!捕まえろー!」
勇者の走り方に気づいたアリエルが近くの兵を指揮する。
勇者は一方通行の商店街の真ん中で前からも後ろからもやってくる兵士をみて考える。ふと肉屋の檻に捕まっていたにわとりが目に映る。
「にわとりさぁん!助けておくれ!俺は空を飛びてんだ!」
勇者は檻からにわとりを出すと両足を持つ。にわとりは必死に羽をばたつかせるが飛べない。
「だめっ。ゆうしゃさん!わたしとべないようににんげんにひんしゅかいりょうされているの!」
にわとりはつたない人類語で勇者に説明をする。
「ごめん。なにいってるかわからない。こけっしかきこえないな。お前メスだな。」
勇者はあきらめて手を離す。するとにわとりは枷が外れたかのように空を羽ばたく。自由の翼だ。
「ゆうしゃさん。みてっ!わたしとべてる!とべたよ!ありがとう!これでしょくにくにされなくてすむわ!ありがとう!ゆうしゃさん!きっとどこかであえるってしんじてる!そのときまでさようならは!」
「ああ!いえないな!必死に生きろよ!強く!誰よりも誇らしい人生を歩めよ!じゃあなーーー!」
勇者は大空に向かって手を振る。にわとりは夕日の中に消えていく。それをただ見つめていた。
「さ、いくぞ。気は済んだか?」
勇者は気がつくとアリエルを含めた兵士によって全身を結束バンドで結束されていた。
「…なぁ。お前ら人間は命を食べて命を燃やしている。それって真の平和なのか?」
勇者は自分を連行している兵士に問う。
「わかんねーよ、でも、それでも俺たちは燃やさなくてはいけないだろ?ガスバーナーのようにな…」
勇者は目を開き耳を疑いその兵士を見た。
「お前っアル…!」
ガシャーーーン!!
勇者の前に冷たく重たい柵が落ちる。
その兵士は口に手を当てて勇者に頷く。
ああ…そうか。いまはまだここにいなくてはいけない。人間の輪の中に…。
勇者は周りを見る。暗い。トイレがある。それだけ。
「今日の宿はボロイな…ははは…はっーーはっーーはっ!!」
はっーーはっーーはっーー!と勇者の叫び声が狭く暗い牢屋に響く。響いて返ってくる。
はっーーーはっーーーはっーーーー!!!
「ちょっとぉ!うるさいんだけどぉ!」
「すいません…」
にわとりさん…