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来 神 ’  作者: N.river
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つかわしめ の巻  27

 まだ山道では誰ともすれ違っていなかったが、山賊がいることに間違いはない。そして剣には目にも眩い銀細工が施されていた。もし持ち去られてしまえば。思えば腹がすいていることなど吹き飛ぶ。一刻も早く、とくっきり残されたケンカの跡を見つけて目を疑っていた。なぜなら谷側はすっかり木々に塞がれると、あれほど眺めた絶景こそない。木立はうっそうとおい茂ると、その中、剣だけがなくなっていた。

「どういう……」

 とにもかくにも、ケンカの拍子に誰かが蹴り飛ばしてしまったのではないかと落ち葉の中を探して回る。そのうちにも雲太と和二は追いついて、塞がれてしまった風景に驚き、どういうことだ、と京三へ問いかけた。だが京三にかまっている余裕などない。

 やがて草をかき分けていた手を止める。

 蒼くなった顔を雲太らへ向けなおしていった。

「……どうやらわたしは、剣を失くしてしまったようです」

 ええっ、と二人の間から声は上がっていた。当然だ。あの剣には大事な鈴がおさめられている。なければ祓いも行えない。分かっているからこそ京三も地につくほどと頭を下げていた。

「申し訳ありませんっ。猪を追うなど思いもよらず、休むおり身から離しておりましたっ」

「言ったところですむような話ではないぞ、京三……」

 見つめる雲太の面持ちは渋い。なおのこと京三は頭を下げ、見かねた和二の手が雲太の袂を引いて振り向かせた。

「けど、うんにい、本当にここなのか。おいらたちは間違っていないか。おいらが手を振ったオノコロ島は見えないぞ。ぜんぶ山だぞ。剣は、ほかの場所にあるのではないか」

 だが道に残るケンカの跡は雲太の目にも止まっており、間違いないと知れている。答えかねて茂る谷へ肩を切り返した。歩み寄って木立へ手をかけ、乗り出した身でぐぐっと奥へ目を細める。だがいくら辺りを見渡したところで一面は、転げ落ちそうな下り坂がうっそうと木立を茂らせ谷の底へと続くばかりだった。

「……もしや」

 と、音はコンカン、響きわたる。

 呟いて言葉をのみこみ、雲太は音へ振り返った。

 何しろそれは鳥の鳴き声でもなければ木の葉のすれる音でもない。よもや人が現れたのかと思い、慌てて身もまた引き戻す。そのうちにも音は、コン、カン、コンコン、また鳴り響き、頼りに左右と目を泳がせ、いや違う、と空を仰いだ。日を遮り、山肌から張り出す枝が葉を茂らせている。合間にあの音は、カン、コン、響いていた。

 近い。

 探す誰もの目は揺れ動き、ばさばさ、と翼のはためく音を聞く。やおら葉が散ったその時だ。かあ、と声は降っていた。烏は混み入る枝に翼をぶつけ、頭上を飛んでいる。様子こそ穏やかとは言えず、証拠に烏は宙に浮かぶ光り物へまとわりつくように飛んでいた。あろうことかそれこそ剣なら、掴んで重たげと鳩は持ち去り飛んでいた。

 気づいて雲太らは、あっ、と息をのむ。

 烏にたかられ剣も重い。鳩はまた枝へ剣をぶつけると、あの音を、カンコン、山に響かせていた。

「そんなっ」

 京三が身を乗り出す。

「鳩?」

 いぶかったのは雲太だ。なら、ぐ、と喉を詰めた鳩の嘴から赤い火の粉は、ぽ、と吐き出されていた。

「そうだッ。あれは獅子が食らいついておった鳩だぞッ」

 吐かれた火の粉は烏の翼へ乗ると、たちまち細く煙を立ち上らせる。見て取った烏はとたん、絡まりそうに翼をはためかせた。もう飛んでいるのか落ちているのか。濃くなる煙を引きずり七転八倒、山を彼方へ逃げていった。

「あれが、あの鳩が、なのですかっ」

 追い払った鳩は落ち着きを取り戻している。剣の重みに翼を鳴らすと、ゆうと三人の頭上を飛び越していった。

「火の粉を吐く鳩など、ほかにおるまいッ」

「だとして、なぜわたしの剣をっ」

「お前たちは寝ておったから知らぬだろうが、蛇はわしを鳥居と知ってこの手を食らおうとしたのだ。どうも芦原の野の荒魂は、この身のゆえんを知っておる。よって景色を見せ、猪を駆り、こたびも剣を奪って祓えぬよう企んだッ」

「まさか……」

 雲太は目で追い、信じられぬ様子で京三もまた小さくなってゆく鳩を見つめた。そこで鳩は、剣の重みにどうやらこれ以上高く舞い上がれない様子だ。だからして山を越えることはできず、茂みを割いて伸びる道の上をなぞり飛んでいた。

 これならどうにかなるやも知れない。ふん、と鼻を鳴らして雲太は肩をいからせる。履物の鼻緒へ指のまたを食い込ませると、よいか、と和二と京三へ声を張った。

「鳩が羽を休める所まで追いかけ、なんとしても剣だけは取り戻すぞッ」

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