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第五幕 森の中にもう七人

 さて、こちらは逃げ出した悲しき『へたれ』王弟『白雪』ブラン殿下。魔女ソルシェ様に身奇麗にしてもらっても、費やした体力まではなかなか回復いたしません。


 暗い森の中、とぼとぼと歩いておりますと、ふいに木々の隙間から明るい光が溢れているのを見つけました。

 驚いて近づいて行きますと、そこにございましたのは一軒の小さな家。その家の窓から、煌煌と明かりが照っているのでございました。


 こんな辺鄙な森の中に家があることに驚く殿下ですが、魔女様のところには戻りたくないため、一晩の宿を請うことにしようと思いつきます。

 しかし扉の前に立った殿下は、中から漏れ聞こえてくる声に思わず動きを止めてしまいます。


「明日になれば大金が手に入ると思うと、笑いが止まらねえなぁ兄弟」


 そしてゲヘゲヘと品のない複数の笑い声。不審に思った殿下は明かりの漏れる窓にそっと近寄り、中を覗き込みました。


「こんな儲け話をいち早く聞きつけることができるたぁ、俺たちはなんてついているんだ」

「砂漠の国からやってくる旅の一団は、素晴らしい黄金を運んでいるらしいぞ」

「いやいや、黄金だけじゃないぞ。運んでいるそいつらを人質に取れば、砂漠の国から身代金だってもらえるかもしれないぞ。ああ、楽しみだ」


 そうして前祝いだと杯を突き合わす七人の男たち。

 それが盗賊だと気付いたブラン殿下は、彼らが砂漠の国からの旅人たちを襲うつもりだと気付いて、顔を真っ青にいたしました。砂漠の国からの旅人というのは、まさしくスーリヤたち一行のことに違いありません。

 これは一大事。急いで誰かに知らせなければ。

 大慌てで身を翻したブラン殿下でございましたが、振り返った途端背後にいた誰かにぶつかりそうになり息を飲みます。すわ盗賊の仲間かと青褪めるものの、しかし月明かりを弾く美しい金色の髪にそうではないと気付きました。


「ス、スーリヤ!?」

「ブラン、ようやく見つけた。実はわたしは君のみあ――、」

「しーっ!」


 はっとして人差し指を立てるブラン殿下でございましたが、すでに遅し。盗賊たちは外に人がいることに気が付いてしまったのです。


「おいっ、誰だ!!」


 そして逃げる間もなくブラン殿下とスーリヤ姫は、家の中から飛び出して来た七人の盗賊たちに取り囲まれてしまったのでございました。




「ごめんね、スーリヤ。僕のせいで……」


 ブラン殿下はしくしくと涙を流しながら、スーリヤ姫に謝りました。

 盗賊たちに捕らえられた殿下たちは、そのまま縛られ、家の地下の物置に閉じ込められてしまったのです。物置の中は洋灯も燭台もありませんが、扉の隙間からこぼれる明かりで隅の方に壊れた椅子やテーブルが積まれているのが分かります。

 そんな薄暗い闇の中、二人は肩を寄せ合っておられました。


「本当にごめん……」

「何故ブランが謝る必要がある?」


 謝り続けるブラン殿下にスーリヤ姫は尋ねられます。


「だって、僕を追いかけてきてくれたせいで君まで捕まって――、」

「それを言うなら、状況に気付かず声を掛けてしまった私にだって非はある」


 苦笑して気にするなというスーリヤ姫に、しかしブラン殿下は大きくかぶりを振っておっしゃいました。


「それだけじゃないよ。僕は、いつだってダメなんだ。なにをやっても失敗ばかり。スーリヤが褒めてくれた魔法の花だって、本当は別の魔法を唱えようとして失敗して出て来ちゃったものなんだ……」


 そうして再び泣き出すブラン殿下の肩を、優しく、スーリヤ姫は自身の肩でとんと押しました。


「泣かないでくれ、ブラン。今、君に泣かれると困ってしまうんだ」

「ご、ごめん。そうだよね……僕、男なのに……」

「いや、そうじゃない。今は君が泣いても、その涙を拭ってやることができない」


 きょとんとするブラン殿下に、スーリヤ姫は笑いかけました。


「ブラン、君は自分が思っているほどダメなんかじゃないぞ。もっと自信を持つんだ」

「そんなこと言ったって、僕は……」


 うつむく殿下に、スーリヤ姫は首を振ります。


「ブランは悪い奴から身を挺して、私を守ろうとしてくれた。それは勇気がなければできないことだ。それに魔法だってすごい」

「だからスーリヤの見た魔法は失敗で――、」

「失敗だろうがなんだろうが、あの花は美しかった。私は、こんな奇麗な花を見るのは生まれて初めてだ」


 扉から漏れるわずかな光を受けて、スーリヤ姫の髪に飾られた林檎の花は、まるで小さな星のようでした。


「こんな奇麗な花を生み出すことができるブランを、私はすごいと思っているんだ」


 スーリヤ姫はまっすぐにブラン殿下を見つめて、おっしゃいました。


「ブランは本当に、すごいんだ」


 殿下は再びうつむきました。しかしそれは、悲しいからではありません。その証拠に、黒壇のような黒髪からのぞくブラン殿下の耳は、林檎の実みたいに真っ赤です。


「ありがとう、スーリヤ。君にそう言ってもらえて、僕、嬉しい……」

「どういたしまして。それじゃあ、そろそろ脱出しようか」

「え?」


 はらりとスーリヤ姫の動きを奪っていた縄が床に落ちます。見ればスーリヤの手には小さな剃刀。おそらく袖口にでも隠してあったのでしょう。


「今、ブランの縄も解くからちょっと待っていてくれ」


 自由になったスーリヤ姫はさっそくブラン殿下の縄を解き始めます。なすすべもなく助けられるがままのブラン殿下は、


「スーリヤの方が、もっとずっとすごいかも……」


 と、言わずもがなのことを、呆然とつぶやいてしまうのでございました。

 


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