四角い『天使』と名無しの『人間』
眩しい光が両の眼に突き刺さる。
「ううっ・・・。」
驚き、口から声が漏れる。
≪やあ! ようやく目が覚めたのかい?≫
何かの声が聞こえる。
目がまだ光に慣れていなくて、周りを把握することができない。
体を起こし、声のした方に体を向けようとする。
≪あぁ・・ごめんごめん。 驚かせてしまったようだね。 大丈夫。 ワタシは君に危害を加えたりはしないから。 ゆっくりと体が今の環境に慣れるのを待った方がいいよ!≫
少し高めの男性の声。なぜだか判らないが妙に落ち着く。その声の言う通りに目が慣れるまでじっとしている。
声の主に顔を向ける。ぼやけていたその姿が少しずつハッキリしてきた。
カクカクとしたフォルム。その側面では何かが忙しなく動いている。
白い正方形の形状。こちら側に向いている面には黒い瞳の様な物がはめ込まれている。
「あなたは一体何?」
≪説明も無しにこんな珍妙な姿を見せてしまったね。 いやね、ワタシは、困ったことにあまり多くの事に気が回らない性質でね。 この間なんかも・・・≫
「・・・」
≪そんな顔しないでくれよ。 確かに友達に、ワタシは余計なことまでよくしゃべる奴だとは言われたが、ついつい話してしまう訳で、別段悪気が有る訳ではないんだよ。≫
「・・・」
≪あ~・・・ごめん。 話を元に戻そうか。 ワタシが何かって事だね。≫
≪ワタシは『天使』と呼ばれる存在だよ。 『神』が造った機械の内の1つだね。 といってもワタシ達『天使』はその中でも特別な存在とでも言うべきかな。 『天使』は君のような選ばれた者を正しい方向へと導く為に在るんだ。 その役目の御陰でワタシ達には自我が与えられているのさ。≫
「私が・・・選ばれた者?」
≪そうさ。 君には他の『人間』には無い『才能』が与えられているんだよ。 『神』が齎した英知の結晶。 それが君の中に宿っているんだ。 君がどう扱おうと自由な『才能』さ。≫
「チカラって何? 一体どんなことができるの?」
≪君に与えられたのは『生命を操る才能』だね。 機械の体で生を受けてしまったがために、君の力を体感できない事が残念で仕方ないよ。≫
「・・・よくわかんない。もっと具体的に教えて欲しいな。」
≪さっきも言った通り、ゆっくりと馴染めばいいんだよ。 慌てる必要は無いさ。 ワタシに色々教えてもらうよりも、自分の『才能』を使っていく内に学んでいく方がしっかりとした知識を得られると思うよ。 君にはたくさん時間がある。 やろうと思えば悠久の時を生きる事も可能なんだ。≫
「そっか。」
≪そういえば、まだワタシの名前を教えていなかったね。≫
≪ワタシはスピカという名前なんだ。 気軽に呼んでくれて構わないよ。≫
「スピカ・・・。 うふふ。 なんだかアナタには少し似合わない響きね。」
≪おいおい、酷い事を言うなぁ~。 それは、『神』に与えられた光栄な名前なんだよ。≫
「うふふ。 ごめんなさい。」
「ねぇ、スピカ。 私はどんな名前を与えられたの?」
≪痛い所を突いて来るね君は。 一応、君には657番という番号が振られてはいるね。≫
「657番? それが私の名前なの?」
≪それは君と誰かを区別するには重要な数字だね。 でも、君の求めている答えはそんな無機質な数字の羅列では無いはずだ。 残念ながら、君には与えられた名前は無いんだよ。≫
「そうなんだ・・・。」
≪そう。 でも君は悲しむ必要は無いよ。≫
「どうして? 名前が有る事は重要ではないの?」
≪いいや。 名前はとても重要だよ。 その人の生き方にも関わる重要な部分の1つさ。 ワタシにはスピカという名前が与えられた。 それはとても素晴しいことであると同時に、ワタシはスピカという存在としてしか生きられない。 生き方の自由を1つ狭められてしまったんだ。≫
≪そういった事を考えると、今の君には1つの自由が与えられている事と同意義なんだと感じるよ。もしかしたら君には『自分自身を形作る才能』が与えられたのかもしれないね。≫
「そっかぁ。 私にはもう1つチカラがあったんだね。」
≪『君の生き方を決める才能』。 いい響きだね。 素晴しい『才能』だと思うよ。≫
≪それじゃあ早速、その『才能』を発揮しに行こうか!≫
「もう、名前を決めちゃうの?」
≪前に言っただろう、ゆっくりとやればいいって。 いつ決めるかも君自身が決めるんだよ。 ただ名前を決めるには色々なものを知ってからでないと難しいからね。 今からたくさんのモノに触れて、見て、聴いて、世界を感じることが大切だとワタシは思うんだ。 それから考えよう、君の名前は。 ワタシも名前のある先輩として精一杯協力するよ。≫
「うん! わかった!」
≪たくさん話をして、そろそろ体も十分に動かせる頃合かな? 立てるかい? ゆっくりでいいから体を動かしてごらん。≫
そう促された私は。ゆっくりと足を下に降ろす。
つま先が床に触れる。足先から少しずつ床に接していく。最後に踵を静かに下ろす。
≪どうだい? 初めて自分で立った感覚は?≫
「う~んと、少し冷たいかな? でも嬉しい!」
≪そうか。 それは何よりだよ!≫
≪それではお嬢さん、世界を知る旅路に向かいましょうか!≫
私はその言葉に大きく頷き、次の一歩を踏み出した。
彼らを中心に物語は広がっていきます。
それでは~