第二十七話 新たな始まり、新たな調査
元プロレスラー、越谷美咲。
リングに立つ時、口元は真っ直ぐで、眉はわずかに下がり、眉骨の下から相手を見つめる。まるでしっかりと固定された鉄板のように、彼女は何も言わなくても、そこに立っているだけで相手に半歩後退させてしまう。しかし彼女は実際にはそんなに強気な人間ではない。
彼女の話すリズムは普通の人より半拍遅く、冷淡だと思われがちだが、実はただその言葉が安全に着地できるかどうかを確認しているだけだ。親しくない人は彼女の緊張が分からず、ただ落ち着いていると思うだけだ。親しい人だけが、彼女がメッセージを送る時に何度も文面を修正することを知っている。
時には少女らしい一面も見せ、トレーニングが終わった後、一人で隅に座ってスマホで可愛い動物やファッションの動画を見ていることもある。
……
彼女は今、とても焦っていた。
彼女はおそらく十分ほどかけて言葉を整理し、マリハに電話をかけたが、一言も発することができなかった。
しかし幸い、彼女はすぐに考えを切り替え、プランBを選択した。
「直接会って少しお話しできませんか。」越谷美咲はそう言ったが、実際には心の中でこう考えていた。「これで大丈夫だろう。こういう会話は簡単だ。大丈夫、大丈夫。」
「私がそちらに行きます。今のあなたの状況では、公共の場に出るのは難しいでしょうから。」
「ああ、お手数をおかけします。新野江口ビル11階です。」
「え? 11階ですか。」
その時、越谷美咲はまさに10階の階段の踊り場に立っていた。
この一連の予想外の出来事で、彼女の頭の中も混乱し、ぼんやりとしながら階段を上がった。
11階の階段のドアを開けると、ちょうどマリハがスタジオから出てくるところだった。
「もう着いたんですか、越谷先生!」
「転送魔法で来たんだよ……」そんな軽いノリの一言を言いたかったが、理性が彼女を止めた。
「実は私たちの会社は10階にあるんです。」
「そんな偶然があるんですね、先生。これからよろしくお願いします。」
「うんうん。」
「すみません、うちの外で撮影作業が入ってまして。」
「え?」
目の前の光景を、彼女の頭はすぐには理解できなかった。実際、普通の人がこの光景を初めて見たら、頭が追いつかないのも無理はない。
このスタジオ……いったい何をやってるんだ?
スタジオ全体で現在使われている部屋は三つだけだった。葵のオフィス、乃亜と舞子のオフィス、そして会議室として使おうとしている部屋だ。四人の初めての顔合わせは、この部屋で行われた。
マリハといずみが並んで座り、その向かいに越谷美咲、横には三沢葵が座った。
「まず確認しますが、お二人とも確かに私たちに加入するおつもりですね?」
いずみは力強くうなずいた。マリハは少し躊躇しながらも、微かにうなずいた。
越谷美咲は二人の向かいに姿勢を正して座り、軽く息を吐いた。まるで言おうとしていることを一度確認するかのように、そして徐々にリラックスしていった。
「現在の計画はこうです――」彼女が口を開いた。「ZiON連盟は、プロジェクトZの最新ブランドで、初期メンバーは8組とする予定です。」
彼女は間を置いた。
「元HumHum連盟のメンバーは全て再編成され、離脱したメンバーを除けば、今はかろうじて7組にしかなりません。」
「デビュー戦はあまり正式なものにはしません。まずは練習試合の形で一戦やります。主に現場でお二人の息が合うかを見るためです。」
これらを言い終えると、越谷美咲は二人の表情を確認した。幸い、あまり困った様子や理解できない様子はなかった。
「うん……それと、とても大事なことがあります。」越谷美咲は横向きになって葵を見た。「名前と所属です。」
「清優マリハと秋岡いずみという名前は、世論によって完全に抹消されました。だから新しい芸名を考えなければなりません。」葵が確固たる口調で言った。
「その通りです!」美咲が応じた。
「では芸名で普通に生活できるんですか?」マリハが尋ねた。
「バカなことを言わないで。日常生活で身分を証明する必要があることは全て本名でやらなければならないの。どんなに権力で覆い尽くしても、あなたたちの本来の身分を消すことはできないのよ。小説のように身分を変えて人生を変えるなんて、そんなの違法よ!」葵がそう言い、その後美咲の方に向き直った。「二人は契約の問題でZiONと直接契約できないんですよね?」
越谷美咲は一瞬固まり、それから言った。
「はい……確かにそうなんです。だから一時的にスタジオがバッファ役になって、まずはその道を迂回する必要があります。」彼女の口調は先ほどより少し遅くなり、これらの言葉を整理して伝えられる状態になったことを確認しているようだった。
「では、私たちのスタジオはどのようにZiONと連携すればいいのですか?」
「業務提携……でいけると思います。これについては、後で上層部と相談する必要があります。」
「はい、分かりました。」
越谷美咲はマリハといずみと関連事項を続けて検討し、葵は中村事務所を少し調べてみようとした。
乃亜、舞子、レイナの三人はパソコンなどの簡易機材を持って三沢葵の後に続いた。この瞬間、どこがマネージャーチームだというのか、まるで行動小隊のようだった。
葵は既に計画を立てており、四人が車に乗ると、彼女は指示を出し始めた。
「乃亜、舞子、あなたたちはしばらく車に残って。録音して証拠を残すのを手伝ってほしい。」
「何で録音するの?」乃亜が尋ねた。
「これで……」葵はポケットからボイスレコーダーを取り出した。「このレコーダーで録音する。」
「え? スパイみたいじゃん、そんなプロの機材を持って。」レイナが驚いて言った。
「先輩からもらったものだ。何に使ってたのかは知らないけどね。」
実はこのスタイルは、彼女の先輩である岩島夢を完全に踏襲したものだった。何に使っていたのか、芸能界には公にできないことがある。
「交渉の詳細がたくさんあるから、今は説明しない。後で録音を聞けば分かるから。」彼女は振り返ってレイナの方を見た。「レイナさん、濃い色のスーツをお持ちですか?」
「うーん……」安藤レイナは自分のクローゼットを思い出そうとした。「ないと思います。」
「では、まず服を着替えに行こう。それから中村事務所に出発だ。」
車はビルを出ると、すぐ近くにある一軒の服飾店の前に停まった。
その店は非常に大きく、真っ白な外壁が午後の日差しの中で柔らかな艶を放ち、まるで小さな美術館のようだった。正面は一枚の大きなガラス窓で、白い金属のフレームに嵌め込まれている。入り口の上には派手な看板はなく、細い金属の立体文字が一行だけ浮き出ていた――
「葵之間……」舞子が呟いた。
こんな高級そうな場所を前にして、乃亜はすっかり言葉を失っていた。
「こんなに高級そうな店で、服はきっと高いんだろうな!」レイナは心配していた。
「心配しなくていいよ。ついてきて!」
服飾店に入ると、店内には様々な服が整然と並び、目移りするほどだった。店員は丁寧に入り口に立っていた。
「オーナー、お帰りなさいませ。。」
「社長?」三人は再び驚いた。
「ここ、『葵之間』は私が経営している店なのよ!」
「オーナー、お帰りなさいませ。。」三沢葵と同じくらいの年齢の女性が店内から出てきて、店員と同じ制服を着ていた。
「颯々!」
「こちらが『葵之間』の店長、原颯々です。」
「皆さん、こんにちは。」
「挨拶は省略しよう。時間が少し足りない――この方に切れのあるスーツを一着お願い。」
「承知しました。どうぞこちらへ。」
「あなたたちも自由に見ていていいよ。私も着替えるから。」
すぐにレイナが更衣室から出てきた。足音はほとんどしなかった。
彼女は全身黒のスーツを着ていた。体型に沿った裁断で、肩のラインは彼女の広い肩をしっかりと包み込んでいた――それはプロレスラーならではの輪郭だった。ジャケットはボタンを留めず、中には極めてシンプルな白いインナーが覗き、襟元は清潔で、腰のラインはすっきりとしていた。
長ズボンは足首まで真っ直ぐに垂れ、パンツのラインはシャープで、歩くたびにきれいな輪郭を描いた。足元の黒いチェルシーブーツは彼女の全体をより一層落ち着かせていた。
髪も大きなサイドパートに整えられ、より一層整然として、シャープに見えた。
葵が反対側の更衣室から出てきた。
彼女は深紅のスーツに着替えていた。裁断はシャープで、腰のラインはきれいに絞られ、パンツの裾はちょうど足首に当たり、ブーツの口はパンツの裾にぴったりと隠れ、つま先の硬質な輪郭だけが覗いていた。
彼女はネクタイを締めず、シャツの襟を少し開け、髪はすっきりと耳の後ろに留めていた。全身を包む深紅のスーツが、彼女の輪郭をさらに引き締めていた。歩くリズムまでもが、半拍遅くなったように見えた。
葵は横向きになり、淡々とした口調で言った。
「実はロングブーツの方が圧迫感があるんだけど、この季節にそれを履くのは暑すぎるんだよね。」
葵はそのまま足を少し上げ、ブーツの底が明るい色の床を軽く叩き、乾いた音を立てた。
乃亜と舞子は見惚れて、本題を忘れそうになった。我に返ってすぐに車に戻り、中村事務所へと向かった。




