05:不思議な雑貨屋とその視察
第三者視点~
その日商業ギルド長パスカル・アンブラーは、ある新しい店の視察に向かうため馬車に乗車していた。
それは領主からの後ろ盾を得ている、領主御用達の雑貨屋であるという。
商業ギルド長であるパスカルは、この街に新店舗が開かれるたびに、視察をすることになっていた。
それは法律や宗教において、問題のある店であるかどうかを、確認するためでもあり、問題があれば改善を求めることもあった。
今回視察が行われる雑貨屋は、リヒトという若い店主が経営しており、珍しい品々が陳列しているという。
「お父様! どんなお店か楽しみですわね!」
「ああ・・・・。別にお前までついて来る必要はなかったのだがな・・・・」
そして今回の店の視察には、パスカルの13歳になる娘である、ジェニファーも同乗していた。
それはジェニファー自身が、すでにその店の噂を聞いており、興味を持っていたからに他ならない。
「そんないけずなことをおっしゃらないでお父様! バーバラの話では、そのお店には珍しい甘味や、髪がつやつやになる、美容薬があるという話なのです! そのような話を耳にしては、女として放ってはおけませんわ!」
「ああ、わかったわかった・・・・。少し落ち着きなさいジェニファー・・・・」
ジェニファーは活発な娘で、少しでも興味を引くことがあれば、すぐにそこへ足を運んでいた。
その日は丁度父親が、その雑貨屋へ視察に行くということで、ジェニファーも便乗したというわけだ。
「お父様! あの妙な構造のお店ではないですか!?」
「ほう? 地図によると確かにあれのようだな・・・・」
2人は馬車が到着すると、さっそく雑貨屋に足を運んだ。
その雑貨屋はここらでは珍しい構造をしており、それが2人の目を一際引いた。
その建物は大きなガラスの窓で、店の前面を覆い、店の中の様子を良く見えるようにしていた。
それはこの世界において、まだ確立されていない技術で建てられており、魔法でも使わねば建てられないような構造をしていた。
まさにそれは、コンビニエンスストアそのものであった。
ピポピポピポ・・・・
「うお! 何の音だ!?」
「自動で扉が開きましたわ!」
2人が雑貨屋のガラス張りのドアに近付くと、そのドアは自動で開いた。
そして妙なインターホンの音が、2人を出迎えた。
「いらっしゃいませこんにちわ・・・・」
店に入ると店員の娘が挨拶をしてきた。
それは端正な顔立ちをしたメイド服の娘であった。
ところがその娘、妙に無表情であった。
「お、おう・・・・。私は商業ギルド長のパスカル・アンブラーという。こっちは娘のジェニファーだ。今日は世話になる・・・・」
そんな店員の娘に、パスカルは挨拶を返した。
「それではさっそく店の中を見せてもらおう・・・・」
「そうねお父様! 楽しみだわ!」
二人は早速店内を物色しだした。
「この薄い陳列台は何だ? もしかして鉄で出来ているのか?」
最初に2人の目についたのは、薄い鉄のような素材で造られた陳列台だった。
通常陳列台とは、木で出来た物ばかりなのだが、その店の陳列台は薄い形の整った、鉄のような素材の、陳列台であったのだ。
「見てくださいお父様! 見たことのない品ばかりですよ!」
見るとそこには、見たこともないような素材で造られた、日用品らしき商品が並べられていた。
「こいつはもしかして歯磨き用ブラシか? 素材はよくわからんが・・・・見事な造りをしている」
「歯磨きと言えば、木の枝をほぐしてブラシ状にしたものが普通だけど・・・・これはそれよりも幾分磨きやすそうね。それにとても清潔感があっていいわ」
「歯磨きにはこちらの歯磨き粉もお勧めです・・・・」
2人が歯ブラシを見ていると、店員の娘が歯磨き粉を勧めて来た。
「へえ~・・・・。どのような歯磨き粉ですの?」
「こちらには虫歯予防の効果があり、口内がすっきりするような香料が使われています」
「ほう? 虫歯予防か・・・・」
この国の歯磨き粉には、塩に香料を混ぜた物などがあり、歯を白くする効果はあるが、虫歯予防の効果などは望めなかった。
そのためパスカルは、興味を惹かれたのだ。
「こちらがそのサンプルになります。どうぞお持ちください」
サンプルは今回の視察のために、あらかじめ用意されたものだ。
なおサンプルは、商業ギルド長パスカルが、気になる商品のみを、用意することとなっている。
「他にはどんな便利な物があるんだ?」
「こちらのライターなどいかがでしょうか? 火打石などを使わなくても簡単に火が付く優れものです」
「それは便利だな・・・・。そのサンプルもたのむ」
火打石が主流なこの国では、ライターのような小型で、手軽に火が付けられる道具はない。
火が付く魔道具などは存在するが、どれもそれなりに大きいものばかりである。
その手軽さにパスカルが感銘を受けたのは言うまでもない。
「これらの商品だが、誰が作っている? どれも世に出せば売れること間違いなしのものばかりだぞ?」
パスカルは粗方日用品のコーナーを見終わると、そう店員の娘に尋ねた。
「これらの商品は全て、店の主であるリヒト様が造られております」
「それでその店主殿は今日はどちらへ?」
店主が視察に同行しないケースはよくあった。
店主が忙しい場合や、変わり者であったり、貴族の子息か令嬢であったりする場合があるからだ。
だがパスカルはその斬新で革新的な商品を、生み出したというリヒトという人物のことが、非常に気になった。
そして今回その店主に会えないのを、残念に思っていた。
「主でしたらそちらの方に・・・・」
店員の娘が指し示す方を見ると、そこにはガラスに張り付いて、店内を物色する孤児の姿が見えた。
この街は冒険者の街であり、その数も非常に多い。
ところが冒険者には命を落とす者も多く、両親を亡くし、孤児になる子供も少なくはなかった。
孤児は教会へ行くのが通例なのだが、その数が多いために、教会には入りきれずに、路上生活者となる孤児も多かった。
そんな孤児達がお腹を空かせ、店内を物色する様子はよく見られる光景だ。
そんな中孤児達に施しをする、一人の少女が現れた。
少女は銀髪で、まるで天使のような、美しい顔だちをしていた。
それは噂に聞いた、聖女と呼ぶにふさわしい容姿であった。
ただ・・・その言葉使いを覗いては・・・・
「お前らまた店の中覗いてんのか? 今日もこのパンをやるから大人しく帰りな」
少女は顔に似合わず、男らしい大雑把な口調で、孤児達に話しかけ、籠の中にあるパンを配っていた。
「彼女はいつも孤児達にあのような施しを?」
だがパスカルは、そんな少女の口調よりも、その行為そのものが気になっていた。
それはパスカルが、まるで聖女のような少女の行為に、感銘を受けたからに他ならない。
「いいえ・・・・。あれは施しなどではありません。孤児達の手元をご覧ください」
「木の板を持っているな?」
そう言われてパスカルが見ると、孤児達は木板をその手に持っており、その板には数字が書かれていた。
「あの木板に書かれている数字は彼らが集めて来たゴミの重さです。この近くにはゴミ収取場があり、そこへゴミを持っていくと、そのゴミの重さを木板に書き込んでくれる者がいるのです。その重さに乗じて食物と交換してもらえるというわけです」
「なるほど・・・・。あの美しい娘は、木板に書かれた数字に応じて、食物と交換しておるのだな? だがなぜそんなことを?」
パスカルは無価値なゴミが、食べ物と交換される様子を見て、不思議に思った。
それはそのゴミが、ダンジョンポイントに変えられるためではあるが、それを素直に答える程、パスカルは信用に足る人物ではなかった。
「街を綺麗にした褒美のようなものです・・・・」
なので店員の娘は、あらかじめ用意された、当たり障りのない説明をした。
もっともそれは浮浪者や孤児とのトラブルを、未然に防ぐための行為ではあるが、施しと言えなくもない行為でもある。
「ほう・・・それは感心だな」
同時にパスカルは心の中で、やはり慈善行為ではないかと思い感心していた。
「もしかしてあの娘が、この雑貨屋の店主なのか? 見たところうちのジャニファーとそう変わらない年齢ではないのか? だとしたら若すぎるだろ? 普通なら見習いをやっているような年齢だぞ・・・・」
この辺りの商人の見習は、16歳以下の者がほとんどだ。
早くて10代後半で独立して店を持つ者もいたが、それはごくまれなことであった。
そこへ来てリヒトの年齢は、どう見ても12~3歳くらいである。
そんな子供が、店を立ち上げたばかりか、斬新で革新的な商品までもを、作り出しているという事実は、パスカルにとって、とても信じられない出来事であった。
「じゃあな!」「また集めて来るから食べ物くれよ!」
「ああ! お前らも気を付けて帰れよ!」
そして店主といわれるその美しい少女は、顔に似わない荒っぽい口調で、孤児達に別れを告げ、パスカルとその娘のいる店内へと入って来たのだった。
お読みくださりありがとうございます。
このダンジョンマスターに共感を持ってくださった方・・・・
この物語を少しでも面白いと感じてくださった方・・・・
コンビニ行きたいと思った方・・・・
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