01:プロローグ~キナコの暴走
「わあああん! お菓子が食べたいよおおお!」
そう言ってキナコは、寝転がって盛大に駄々をこねた。
遡ること半月前、リヒトはダンジョンにある畳部屋の台所に、大量のお菓子を置いて旅立っていった。
その量は4人で食べても、一ヶ月分はある量だった。
それはリヒトの従魔達に対する、気遣いであったことは言うまでもない。
ところがその従魔4人は、無計画に好きなだけ、毎日お菓子を食べていたのだ。
それに加えキナコが加わったことで、その消費はさらに増した。
そんなわけでリヒトの置いていったお菓子は、わずか10日程で底を尽きたのだ。
それでもダンジョンを出て狩猟をすれば、モンスターから肉だけは得られた。
味さえ気にしなければ、彼らが飢えることはないのだ。
「まあまあ・・・肉だけは沢山あるから我慢するわん」
「今日のは美味しく焼けたばう!」
チワワ型のコボルトであるムギとココは、肉にかぶりつきながらそうキナコを慰める。
「おで・・・・肉だけはいくらでも取って来るぶも!」
同じく今回の獲物をとったであろう、ミノタウロスのタウロさんが、草を食べつつ、そういきり立った。
「我がまま言ってもないものはないよ」
「そうよキナコ姫・・・・諦めなさい」
「焦げ焦げのお肉はもう飽きたよ! キナコは甘~いお菓子が食べたいの!」
スーパースライムのガーベラとデイジーも、なんとか言って聞かせようとするが、幼いキナコは聞く耳を持たなかった。
「姫様! 主様が帰られれば、きっと新しいお菓子を出してくださいますから、もうはしたない真似はおよしください!」
そんなキナコをアルカードが諫める。
「主様? キナコのこと生んだ人?」
「そうです姫様! リヒト様は姫様の父君に当たられる方です!」
キナコはリヒトが創り上げた、球体から生まれた、フェンリルの獣人の娘であった。
生まれて半月ほどだが、その姿は3歳程にまで成長している。
「キナコの・・・・パパン? 強い人?」
「パ、パパン!? まあ・・・幼い姫様なので今はその呼び方でいいでしょう・・・・。父君は強くもありましたが、とてもお綺麗な方でございましたよ」
「パパン・・・・綺麗? キナコ生んだ? どゆこと?」
キナコはフェンリルの獣人であるため、自らの父親はごつい狼男だと思っていた。
そこへ来てアルカードは、父親はキナコを生んだ上に、綺麗な人だという・・・・。
その言葉にキナコは混乱した。
「ママンじゃなくてパパン?」
「マ、ママン!? ・・・・リヒト様は自らを男性と申しておりましたし、父君であることは間違いございません!」
「そんな話信じられにゃい! キナコのこと生んだなら、おんにゃのこのはずだよ!」
「一度リヒト様に会われればわかることです・・・・」
アルカードがそう言いくるめるが、キナコがその話を信じることはなかった。
キナコからしてみれば、アルカードの言葉は支離滅裂で荒唐無稽すぎて、とても信じることができなかったのである。
「誰かダンジョンに入ってきた!!」
そんな中、急に立ち上がったキナコは、西の方向を向きつつそう皆に報せた。
キナコはリヒトの生み出したダンジョンマスターであるため、ダンジョンに侵入した存在を、感じることが出来るのだ。
「侵入者ですか? その特徴を窺っても?」
ダンジョンへの侵入者と言えば、冒険者か外部のモンスター又は、同じダンジョンを侵食しようとするダンジョンマスターである。
そのどれかを確認するために、アルカードはキナコに尋ねる。
「はねがあってね・・・・頭に光る輪があるおんにゃのこだよ」
「もしかして主様!?」
リヒトは破滅の天使と言われる天使の姿をしており、美しい少女に見まがう容姿をしていた。
そこでアルカードはその特徴から、侵入者をリヒトであると判断したのだ。
「そんなはずないよ。だっておんにゃのこだもん」
そう言ってアルカードの言葉を否定したキナコは、畳部屋を出て、ボス部屋に向かった。
キナコがボス部屋に向かった理由は、戦闘態勢を整えるためである。
キナコには泥人形を作るという、幼女らしい趣味があった。
そんなことをしているうちに、いつしかその泥人形を操れるようになり、最近では岩のゴーレムを創造するまでになっていたのだ。
「出ておいで~! 大きな岩さ~ん!」
ドドドドドドド・・・・!!
キナコがそう唱えると、周囲に地響きが鳴り響いた。
「お止めください姫様!」
「こりゃあでかいですぞ!」
アルカードはそんなキナコを止めようと駆け寄り、異変を感じたネクロ爺もやってきた。
「ぶごおおおおおおお!!」
キナコが召喚した岩のゴーレムが雄たけびを上げる。
「岩の巨大ゴーレムか!!」
「30メートルはありますぞ!!」
それは高さ30メートルで肩幅30メートルはある、歪で巨大なゴーレムだった。
「キナコ、侵入者やっつける!!」
「ネクロ爺! 姫様を止めてください!」
「仕方りませぬな・・・・」
そう言って重い腰を上げたネクロ爺が、キナコの前に立ちふさがる。
「大きな岩さん! その怖い骸骨をやっつけて!」
「ぶごごごごご!!」
キナコが命じると、岩のゴーレムは腕を振り回し、その腕が青く光を放ち始める。
「まずいです! あれは神をも殺すといわれる魔滅の光です!」
「手遅れじゃ~! ぎゃああああ!」
「ネクロ爺いいいいい!!!」
ネクロ爺はその拳に触れると、その不死身の体を粉砕させて、飛んで行ってしまった。
「あの不死身のネクロ爺が一撃で・・・!」
ネクロ爺はリッチと呼ばれるモンスターで、その体は不死身であるため、普通の攻撃では傷つくこともない。
ところがキナコのゴーレムが放った魔滅の光は、そんな不死身体に対して、抜群に効力を発揮するのだ。
それは天使などの種族に対しても同様である。
フェンリルの獣人であるキナコは、生まれながらにその魔滅の光が行使可能なのだ。
それはリヒトにとっては、天敵と言ってもいいスキルであった。
「悪い侵入者をやっつけるよ大きな岩さん!」
「ぶごおおおおおお!!」
キナコが巨大ゴーレムの頭に乗りつつそう命じると、巨大ゴーレムが大きな咆哮を上げる。
そしてキナコの暴走が・・・・開始されたのであった。
「すぐに主様に報せねば!!」
アルカードはボス部屋から離脱すると、危険を知らせるために、ダンジョンのどこかにいるであろうリヒトの探索に向かった。
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