11:ダンジョンマスターと領主の城
「リヒト兄ちゃん! お迎えの馬車が来てるよ!」
そうオレに報せて来たのは、【従魔の憩いの宿】の一人娘、ケイシーだった。
「馬車・・・?」
呼ばれて玄関先に出て見ると、そこには黒い2頭の馬が引く、重厚そうな馬車があった。
馬車の前では若い男と、口ひげを生やした初老の紳士が、オレを待ち受けていた。
「リヒト様・・・・お迎えに上がりました。フォンブリューヌ家執事のオマールと申します」
口ひげを生やした初老の紳士が、恭しい態度で、オレにそう挨拶して来た。
あれから数日が経過し、どうやら領主の城から、オレ達の迎えの馬車が派遣されてきたようだ。
「えっと・・・・聞いてないんですけど?」
オレはてっきりこの日、冒険者ギルドマスターのアガートが、迎えに来るものとばかり思っていた。
すると待てど来ない彼の代わりに、領主家の馬車が迎えに来たのだ。
「そう言われましても・・・・丁重に馬車でご案内して差し上げるように仰せつかっておりますれば・・・・」
そんなわけでオレたちは、いつまでも悶着していても仕方がないので、馬車に乗り込み、領主の城を目指した。
その馬車はサスペンションが未開発なためか、ガタガタと大きく揺れて、その乗り心地は、とても快適と言えるものではなかった。
「到着いたしました・・・・こちら、トスタリア城になります」
馬車はおよそ20分程で、トスタリア城と呼ばれる城に到着した。
そのトスタリア城を見上げれば、その様子はとても壮観で、まさに領地の象徴とも言えた。
敷き詰められた石畳の先には、石造りの大きな城門があり、その見慣れない建築物にオレの興味は引かれ、目を丸くして見る。
「ご案内いたします。どうぞこちらへ・・・・」
馬車から降りたオレ達は、執事のオマールの案内を受けて、城門に向けて歩みを進めた。
城門を潜ると広場に差し掛かり、さらにその先にも石畳が続いていた。
その石畳の先に、装飾を施した大きな扉が見えた。
あれがこの城の、入り口なのだろう。
そして城の中に入ると、謁見の間の前まで案内されてきた。
どうやらこの謁見の間で、領主に謁見するようだ。
ところが領主の城に、オレを登城させたラガートの姿が見えない。
オレ1人で領主に謁見して、粗相でもあったらどうするつもりだろうか?
「あの・・・冒険者ギルド長のラガートさんは・・・?」
「ラガート様が来られるという話は耳にしておりませんが・・・・」
なんですと?
オレを領主と会わせようとした、本人のラガートがいないとはどういうことだろうか?
いったいラガートは、何を考えているのだろうか?
「あの・・・・オレ、礼儀作法とかそいうの、知らないんですけど?」
「心配はいりません。粗暴な冒険者がこの城に招かれることもございますので、そういった配慮は領主様もよく存じております」
え? それって無礼講ってことなのか?
オレが無礼な態度をとっても怒られないと?
「領主様がお待ちですので・・・・さあ中へどうぞ・・・・」
ラガートがそう言うと、謁見の間の扉が徐に開いた。
オレは緊張しながらも、その謁見の間に、足を踏み入れたのだ。
「よく来たなあ・・・・冒険者のリヒト。私が領主のジョゼフ・フォンブリューヌ伯爵だ」
謁見の間に入ると、玉座に腰かける、豪華な服に身を包む男がいた。
年の頃は30代といったところだろうか?
その男、ジョゼフ・フォンブリューヌは自らが領主であると名乗った。
「あの・・・持参した手土産は、直接渡すように言われたのですが、どうしましょう?」
オレは持参した手土産を持ち出し、ジョゼフ伯爵に見えるように、両手に乗せて前に出した。
「ほう? 見事な絵が描かれた箱だな? その絵も其方が描いたのか?」
オレがダンジョンポイントで創造したその手土産は、お歳暮用のワイン3点セットと、フルーツ缶詰の詰め合わせだ。
オレは前世で購入したことのある物は、ダンジョンポイントで創造することが可能なのだ。
その箱には、オレが前世で購入したままの絵も、そのまま描かれているのだ。
その絵については、どう説明するべきだろうか?
「この絵はその・・・・スキル的なものでして・・・・」
「なるほど・・・・。その手土産は其方が創造したものなのだな?」
「えっと・・・・なぜそのことを?」
「其方がここへ来る前に、ラガートから其方のことは、よく聞いているからな・・・・」
ラガートはこの領主と長い付き合いだと聞いていたし、オレのことを教えていても可笑しくはない。
その上でオレとこの領主を、引き会わせようとしたのだろう。
「では領主様はオレの正体もご存じで?」
「ああ。勿論ラガートから聞いている。だが其方と敵対する気はないから安心しろ」
この領主はどうやらオレが、ダンジョンマスターであることも承知の上で、この城に招待したようだ。
その領主の顔からは、悪意の欠片も見当たらない。
気さくに笑いながら、会話を進めている。
本当にオレと敵対する気はないのだろう。
「オマールよ! その手土産をこちらへ!」
「承知いたしましたジョゼフ様・・・・」
そう言うとオマールは、オレから2つの手土産を受け取り、ジョゼフ伯爵のもとへ届けた。
「ほう? これはまた見事なワインだな。赤みが強い実と、それとは逆に色のついていない実を集めて酒にしたのか」
ジョゼフ伯爵はまずワインの箱を開けると、中身をまじまじと見ながらそう感想を述べた。
そのワインの箱には、赤ワインが2種類と、白ワインが1つ入れてあるのだ。
「こちらは鉄の器か? 絵柄から中身が果物なのはわかるが、なぜこのような器に入れてある?」
次にジョゼフ伯爵は、フルーツの缶詰が入った箱を開け、中身を確認し始めた。
「その鉄の器は缶と言いまして・・・・その中に砂糖漬けにした果物が入っています。そうすることで果物の保存期間を長持ちさせることができます」
「ほう? どれくらいもつのだ?」
「2~3年はもつようです」
「2~3年だと!? 本当かそれは!?」
「はい・・・・。それぐらいはもつはずです」
缶詰は、腐敗の原因となる微生物や細菌を、高温などで完全に死滅させ密閉することで、その保存期間を長くしていると前世で耳にしたことがある。
「其方は色々と知識も豊富なようだな。これから話し合う件以外にも、色々と得られることがありそうだ・・・・」
そう言うとジョゼフ伯爵は、何か意味ありげにほほ笑んだ。
どうやらジョゼフ伯爵とは、良い話ができそうだ。
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