07:ダンジョンマスターとダンジョンボール
「ん? なにか部屋の雰囲気が変わってないか?」
夕食も終わりしばらく宿の部屋でまったりしていると、部屋の雰囲気がガラッと変わっているのを感じた。
だが部屋の見た目が変わったような感じではない。
これは魔力の質が変わったのだ。
「もしかしてダンジョン化した?」
どうやらオレが借りた宿の部屋は、オレが長く居座ったせいか、ダンジョン化してしまったようだ。
これはこの街に来る途中の、野宿先でもあったことだが、気付けばオレの周囲はダンジョン化し、奥へと通じる穴が掘られていたのだ。
もちろんその穴は塞いでから野営地を後にしたが・・・・
「主・・・・おでの部屋の奥に、穴ができた・・・・」
ミノさんがそう報告してきたので、馬小屋の方に足を運ぶと、確かに隅の方に穴が出現していた。
それはダンジョン化によってできた穴だ。
その穴は徐々に深くなり、ゆくゆくはダンジョンとなることだろう。
「こりゃあちょっと対策を考えないといけないな・・・・」
オレがいた場所が、ダンジョン化するのはいつものことだ。
オレが離れてしばらくすると、普通の場所に戻るので問題ないかに思われる。
だが空いた穴を塞ぐ前に、誰かに見られでもしたら厄介だ。
最悪その穴を、国が調査でも始めたら、オレの正体に気付かれる可能性だってある。
これやばくないか・・・・?
そこでオレが造ったのが、圧縮した石を入れたガラスの球体だ。
オレはその球体の中の石に、極小のダンジョンを創るつもりなのだ。
オレがその極小のダンジョンに意識を向ければ、周囲のダンジョン化も、防げるのではないろうか?
「これ・・・・上手くいきそうじゃないか?」
結果その球体に膨大な魔力が集まりだしたが、それ以外では問題なさそうだ。
しばらく時間をかけても、周囲が勝手にダンジョン化されることも、穴が生成されることもなくなった。
「これをダンジョンボールと名付けよう・・・・」
オレはそれをダンジョンボールと名付け、ペンダントにして持ち歩くことにした。
トントン・・・・!
そんなことをしていると、部屋のドアがノックされた。
誰かオレの部屋に、尋ねてきたようだ。
「遊びにきたよリヒト!!」
オレの部屋に尋ねて来たのは、この宿の娘のケイシーだった。
先ほどミノさんと、お喋りをする約束をしていたので、そのためと思われる。
「何してたの?」
ケイシーは周囲を見渡しつつ、そう尋ねて来た。
もしかしたら薄々部屋の雰囲気が変化しているのを、勘付いているのかもしれない。
「お茶を飲んでいたんだ・・・・」
オレはこの部屋にガスコンロを創造し、薬缶でお湯を沸かして、紅茶を飲んでいたのだ。
紅茶は勿論テーパックのもので、水はペットボトルのミネラルウオーターだ。
まあお茶を飲みつつ、他にも色々とやっていたわけだが、それを彼女に言う必要もない。
「何か食べてるの?」
「これは飴だよ・・・・」
先ほどからナデシコが口に含んでいるのは飴玉だ。
オレの御茶請けとして出してもいるが、その飴はナデシコが、口の中で食材を吸収するための、練習材料にもなっているのだ。
ナデシコの正体がバレれば、周囲は大騒ぎになるかもしれない。
だがナデシコは手の平から捕食するし、それでモンスターであることが、ばれる可能性もある。
そこでナデシコには、口から食事をとってもらうことにしたのだ。
だが先ほどの食事で、ナデシコは口に食事を運び、自然に食べることが出来なかった。
いつも手の平の上で、食材を吸収していたせいか、口の中で食材を吸収することが困難だったのだ。
そのせいか食事には時間がかかり、隠して手の平で、食材を吸収することになってしまったのだ。
そのため口の中で、もっとも吸収が困難だという、飴玉を吸収する特訓をしていたのだ。
周囲から見れば、飴玉をただ舐めているようにしか見えないが、彼女にとってはそれが厳しい特訓なのだ。
「何それ? お薬?」
「いいやお菓子だよ。口の中で転がして溶かして食べるんだ」
「変わったお菓子・・・・私ももらってもいい?」
「かまわないけど」
オレはそう言いつつ、飴玉の入った小袋を、ケイシーに渡した。
オレの出す飴は、前世でスーパーやコンビニで購入したことのある飴になる。
その飴はだいたいが、一つ一つ小袋に包まれていたので、そのままの形で創造されるのだ。
今回創造した飴は、フルーツ飴で数種類入ったものだ。
「綺麗な包・・・・破くのがもったいないよ・・・・」
ケイシーは飴の小袋に見とれながら、少しづつ丁寧に、その小袋を開けた。
「この小さな袋はもらってもいいの?」
「沢山ありますので、別に捨ててもかまいませんよ?」
「そんなの勿体ないよ! こんなに絵が丁寧に描いてあるんだから!」
そう言うとケイシーは、スカートのポケットに、飴の小袋をしまい込んだ。
飴の小袋の絵が珍しいのだろうか?
「あんま~い!! 口の中が幸せになるよ~!!」
ケイシーは飴玉を口に含むと、そう言ってうっとりと目を細めた。
「紅茶もどうぞ・・・・」
オレはカップに紅茶を注ぐと、ケイシーに勧めた。
「良い香り~! この紅茶ってお茶?」
ケイシーはなぜそんな当たり前のことを聞くのだろうか?
「そうですけど・・・・」
「リヒトはお貴族様みたいだね。優雅に茶飲んで甘いお菓子を口にして・・・・」
「オレ的には自分は庶民だと思っているんですけどね・・・・」
「ええ~! 普通庶民は井戸水か野草を煎じたハーブティーしか飲まないんだよ!」
どうやらこの国では、お茶は貴族の飲み物で、庶民は井戸水かハーブティーしか口にしないようだ。
ハーブティーなら、前世でルイボスティーを口にしたことがあるが、ほんのり甘く香ばしい風味がして、それなりに美味しく頂けたのを覚えている。
まあ野草のハーブティーは、口にしたことがないが・・・・
「じゃあリヒトはお金持ちの商家の子供なんだ?」
オレの存在を誤魔化しやすい設定として、商家の子供というのは、なかなか良い設定だと、ダイソン達は言っていた。
ならそれで誤魔化しておくのがいいだろう。
「まあ・・・そんなところでしょうか・・・・ちなみに紅茶に砂糖はいくつ入れます?」
オレはシュガートングで、小瓶から角砂糖を取り出しつつ、ケイシーにそう尋ねた。
「えええ!? 砂糖があるの!? 砂糖は高級品だよ!! じゃあさじゃあさ・・・お塩はないのかな? リヒトは商家の子供なんだし、お塩を売って欲しんだけど・・・・」
商家の子供だからといって、直接塩を売るようなことはないと思うが、これはオレがこれからやりたいことにとって、いい足掛かりになるかもしれない。
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