16:エピローグ~主のいないダンジョン
第三者視点~
その日ダンジョンの最奥は、暗く静まり返っていた。
普通のダンジョンであるなら、それは当たり前のことかもしれないが、このダンジョンでは違っていた。
このダンジョンの最奥の隠し扉の向こうには、畳部屋があり、いつも明るい笑顔が満ちていたのだ。
ところがその部屋の主が出かけてからというもの、同じくその部屋に住まう者達は、元気を失い、主の残した球体の前で座り込み、ただ虚ろな目で、その球体を見つめるばかりだった。
「貴方達! いつまでふさぎ込んでいるつもりですか!?」
ただこの男を除いては・・・・
「主様がいない今こそ、我らの真価が問われる時なのです! 主様から預かったこのダンジョンを・・・我々の手でしっかり守っていかねばならぬのですよ!」
真面目を絵にかいたような、このヴァンパイアの男は、こんな時こそはと、使命感に燃えていたのだ。
「アルカードはそう言うけど・・・・ムギは辛いのです・・・・わん」
「ココもムギに激しく同意ばう・・・・」
「おでも辛い・・・・」
「ボクも寂しいです・・・・」
「主はいつ帰るのかしら・・・・」
だがそんな言葉だけで、彼らが立ち直ることはなかった。
「ネクロ爺よ! 貴方からも何か言ってあげてください!」
そんな時アルカードがいつも頼るのが、このダンジョンで一番年配と見られる、リッチのネクロ爺だ。
「若いのぉ・・・・アルカード・・・・。お主こそ落ち着いたらどうぢゃ? こんな時こそ平常心を保つのが大事ぞ?」
ただそんなネクロ爺も、ただ長く生き過ぎて、感情が希薄なだけなのだが・・・・それに気付く者はここにはいない。
そんなネクロ爺は、その日も仲の良いレイスと、囲碁に興じていた。
そこはダンジョンの最奥にある、ラスボス部屋と呼ばれる場所である。
そしてその部屋をラスボスとして任されているのがこのネクロ爺なのだ。
「大変わん! アルカード! 主の球体が・・・!」
「どうしたのですムギ!?」
そんな中、大変な事態が起ころうとしていた。
「急に輝き始めたわん!!」
球体が光を放ち、少しずつその形状を変え始めたのだ。
一同はただ固唾をを飲んで、その事態を見守った。
「おんぎゃあああ! おんぎゃあああ!」
やがて光が収まると、そこには一人の赤ん坊がいたのだ。
「女の赤ん坊? しかも獣人の?」
「それはフェンリルの娘ぢゃろう・・・・」
そんな中いつもラスボス部屋にいる、ネクロ爺が皆のいる畳部屋にやってきた。
その異変に気付いたのだろう。
「そのような姿に生まれたのは・・・・きっと周囲が影響したのぢゃろうな・・・・」
見ると現在その赤ん坊の周囲には、コボルトで犬っ面のムギとココ、この上なく正確に人間の女性に擬態した、ガーベラとデイジーがいたのだ。
ちなみに意外にヘタレなミノタウロスのタウロは、尻もちをついて少し離れた場所にいた。
その影響か赤ん坊は、フェンリルの獣人として、あの球体から誕生したようだ。
「な・・・なんということだ!? 主様からお預かりした大切な球体が獣人の赤ん坊に!?」
「おんぎゃあああ! おんぎゃあああ!」
「ミルク! ミルクわん!」
「おしめ! おしめの代わりになる布はないばう!?」
「ボクたちもお世話を!」「そうねガーベラ!」
それからのダンジョンは大忙しだった。
赤ん坊のお世話に、天手古舞となったのだ。
だがその忙しさも3日程のことだった・・・
「その赤子に・・・いえ姫に名がないのは不便ですね・・・・」
気まぐれでアルカードが、その赤ん坊の名づけを提案したのだ。
「そうわん? ムギはどっちでもいい気がするわん」
「ばう? 球体だったからキュウちゃん?」
「安直わん!」
「ケーキ・・・・」
「カツカレー?」
「それはお前達の好物の名だろう?」
「ムギは何も思いつかないわん・・・・」
「ちょっと待ちなさいムギ! それはミルクではありませんよ!」
「え? この粉は・・・・」
そんな中、ムギが話に気をとられてか、粉ミルクと間違えて、ある粉をお湯に入れようとした。
「それは’キナコ’です!!」
そう・・・・それはキナコだったのだ。
そのキナコはリヒトが団子に付けて食べようと取っておいて、結局使わなかったキナコだ。
なぜそんなものが、ミルクの缶の中に入れられ、棚に入っていたかは謎だが・・・・
『キナコ・・・・良い名前・・・・』
その’キナコ’という言葉をアルカードが発した途端に、赤ん坊は輝きだし、再び形を変え始めたのだ。
そして背が伸び手足が伸び、赤ん坊は3歳くらいの幼女となった。
「キナコだよ! よろしく!」
「「「「はああああああ!!?」」」」
皆その事態に空いた口が塞がらなかった。
なんと赤ん坊は急成長して、キナコと名乗る獣人の幼女となってしまったのだ。
「主様・・・・早く帰って来てください・・・・」
その様子にアルカードは、胃が痛くなる思いがした。
そして主である、リヒトの帰還を強く願ったのだ。
「キナコ、ずっとお兄たまたちとお話がしたかったにょよ」
「お兄さま? ムギとココがわん?」
そのキナコの言葉に、ムギとココはお互いに顔を見合わせ困惑する。
ダンジョンマスターの分体である、自分より上位の存在に、兄弟よわばりされたのだ。
二人がそうなるのも無理はない。
それになによりムギには、他の懸念もあった・・・・
「ムギはお兄さまではないわん・・・・女の子わん」
「ばうん!!?」
そのムギの衝撃の告白に、ココは目が飛び出んばかりに驚いた。
いつも一緒にいた相棒のムギが、自分と同じ男の子とばかり思っていたあのムギが、実は女の子だったのだ。
それはあのリヒトですら、知らない情報であった。
「それじゃあお姉たまでつ!!」
そんなココの心境もどこ吹く風か、キナコはそう笑顔で口にした。
こうして誕生した新たな台風は、このダンジョンを大きくかき乱していくのであった。
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