金の為に生き、金の為に死ぬ
一人の男がいた。
そいつの外見やら経歴なんかはどうでもいい。
ただ、金を欲しがっていた。金の為に生きていると言っても過言ではないやつでな。金があれば幸せになれると思ってたのさ。
株やら、不動産やら、FXやら、仮想通貨やら、貴金属やら、金になりそうなものに色々と手を出してな。
普通はそこで失敗するもんだが、思ったよりも才覚があったらしい。
やがて、ひと財産を築くことが出来た。
働くのをやめて気ままに観光地をぶらついたり、金に物を言わせて女をとっかえひっかえしたりと、世の人がうらやむような生活を送れるようになった。
そこで満足してりゃあ良かったんだがな。
まだ足りない。もっと欲しい。もっと欲しい……。
ひとしきり遊んで次にやりたいことも思い浮かばなくなった頃、そいつはそんな考えに取りつかれてしまったんだ。
もっとも、金を求める奴は皆、大抵がそんな思考になるらしいぜ。
今までの資産すべてを新たな投資に注ぎ込むようになった。
これまでのように、お金をどんどん増やしてさらに上に行けると思ったんだろう。それにもっとお金が増えたら、また新しくやりたいことが生まれるとも思ったのかもしれない。
失敗するなんて考えもしなかったんだろうな。何しろ、実際に大金を得た経験があるわけだし。
だからいつの間にか、自分が頂上から降り始めていることに気づかなかったんだ。
お金が溶ける、という言葉を聞いたことはないか?
そんな言葉が思い浮かぶくらい、そいつはすごい勢いで金を失っていった。人ひとりが一生働いてようやく得るくらいの金をな。
人間追い込まれると、大バクチで取り返そうと考えるようになる。
もちろん、そんなバクチは失敗するのがオチだ。今回は残念ながらそいつもオチ通りの結果になった。
起死回生の、全てを賭けた投資……いや、ギャンブルと言うべきか。とにかくそれにも失敗し、再起不能と言えるほどの損失を出してしまった。
夢の時間は終わりだ。
金はそいつの全てだった。失った時、もう本当に何も残ってなかった。スキルも、人脈も、家も、家族も。
もはや最高潮だった時のように、遊び呆けることも出来ない。もちろん女が寄ってくることもない。
やがて日雇いのバイトで食いつなぐようになる。
金を手に入れる前、若かりし頃の自分に逆戻りだ。しかし、若さだけは失われている。
もうすべてを諦めていたのか、それともまだチャンスを狙っていたのか、今となっては分からない。
最後は物取りに刺されて死んだ。
盗られた財布には数百円しか入ってなかった。
結局、数百円の為に死んだということさ。




