第4話 宮廷を襲う疫病と、深まる絆
春の舞踏会から数週間後、王宮に異変が訪れた。
宮廷の中で、次々と使用人や下級貴族たちが高熱を出し、体調を崩していく。
病状は急速に悪化し、まるで疫病が宮廷を覆い尽くすかのようだった。
「杏、状況はどうなっている?」
リオン公爵は執務室で資料を手に、冷徹な目を光らせている。
その声には、宮廷と民を守る責任感がにじんでいた。
「はい、公爵様。この症状、前世で見たウイルス性の感染症に近いです。早急に対策を立てないと、王宮全体に広がります」
杏は前世の薬学知識を活かし、病原菌の特定と簡易的な解毒薬の調合を開始する。
王宮の医務局では慌ただしい声が飛び交う中、杏は冷静に作業を進めた。
「杏、君一人で大丈夫か?」
リオンは心配そうに声をかける。普段は冷徹な彼の表情に、わずかだが柔らかさが混じる。
「公爵様、私だけでは足りません。協力をお願いします」
杏は毅然と答え、二人で宮廷内の感染者の診察と投薬を進めることになった。
日が暮れるまで、杏とリオンは寝食も忘れて宮廷を駆け回った。
杏の知識で感染経路を特定し、リオンの命令で隔離や衛生管理を徹底する。
二人の呼吸はぴったりと合い、自然と信頼関係が深まっていく。
「杏……君がいてくれて助かる」
リオンの声は普段の冷徹さを失い、感謝と安堵が滲む。
杏は微笑みながら答える。
「公爵様、これも契約のためではなく、宮廷のためです。ですが……公爵様にそう言っていただけると、頑張った甲斐があります」
――その言葉に、リオンの目にほんの僅かに笑みが浮かぶ。
冷徹な氷の仮面の下で、杏だけが見つけた、彼の優しさだった。
数日後、宮廷内の感染症は杏の調合した薬とリオンの指示によって鎮静化した。
王族や貴族たちも無事に回復し、宮廷は再び平穏を取り戻す。
杏は自室で薬学書を開きながら、静かに心の中で誓った。
「これからも、公爵様と共に宮廷を守る。どんな困難も、知識と信頼で乗り越えてみせる――」
そして、契約だけの関係だった二人の絆は、事件を経てより強く、深いものになりつつあった。
杏の目には、もう一つ確かな決意が映っている。
――この宮廷での任務と事件解決を通して、リオンの氷を溶かし、契約以上の愛を育てること。
宮廷の夜空に星が瞬く中、二人の未来は少しずつ、しかし確実に形を変えていくのだった。




