第1話 転生と宮廷薬師の誓い
「ええっ……私、悪役令嬢になってる!?」
気が付くと、そこは豪華な宮廷の寝室だった。柔らかな朝日の光が、シルクのカーテンを通して差し込む。
鏡に映る少女――いや、自分――は、まさに乙女ゲームで悪役と呼ばれるレディ・アンナそのものだった。
「どうしよう……婚約破棄の未来、まさにここに書かれている未来と同じじゃない!」
杏は前世の記憶を必死に辿った。大学院で培った薬学の知識は、この世界でも強力な武器になる。
転生したからには、この知識を活かして、生き延びる――いや、できれば宮廷薬師として力をつけ、悪役令嬢の運命を変えるんだ。
――そんな決意を胸に、杏は宮廷薬師への道を歩き始めた。
数日後、杏は契約結婚の相手、氷の公爵リオンと初めて対面する。
「レディ・アンナ、これからは契約で夫婦です。表向きだけでも、私に従うこと」
その声は冷たく、感情を感じさせない。彼の鋭い眼光に、杏の胸は思わず高鳴った。
「……はい、リオン公爵様」
杏は深呼吸をして、自分に言い聞かせる。
――表向きは冷徹な公爵の契約妻、でも、知識で宮廷の問題を解決すれば、きっと信頼は築ける。
そして初仕事は、宮廷で発生した謎の食中毒事件。貴族たちが次々と倒れ、宮廷は騒然としていた。
杏は前世の知識を駆使し、原因となる食材を分析し、応急処置を施す。公爵リオンは、初めて杏の能力に真剣な眼差しを向けた。
「……君の知識、ただ者ではないな」
杏は心の中で微笑んだ。
――契約結婚から始まる、冷たい公爵との奇妙な共同生活が、こうして始まったのだ。
その日、杏は誓った。
「私は宮廷薬師として、そして契約妻として、この世界で生き抜く。そして、運命も変えてみせる――!」