星の衣と碧の名
「シメール……お前もだよ。早くお飲み!」
恐る恐る星を口に入れると四肢が虹色に煌めき触手だったものが人間の手足に変わった。半透明であった身体は綺麗な肌色と変化した。ふと触れてみるとジェリー状ではなく、まるでイルカのようにすべすべでモチモチしていて暖かい……つい、不思議でいろいろ触っているとシルキーが大きなタオルをかけてくれて……手を引かれて服?というものを着せられた。
「シメール!用意が出来たみたいだね。いいかい?人間はありのままの姿では活動しないのだ。服は脱いではいけないよ?恥ずかしいことだからね……わかったかい?私たちだって胸は隠すだろう?それと同じさ。それと人間の姿だと水中で呼吸することも海に深く潜ることもできないから気を付けるんだよ。」
「はい!ん?サメリア……でもここ苦しくないよ?なんで?」
「よく気が付いたね!ここは、どんな姿でも呼吸が出来るように魔法がかけてあるのさ。」
サメリアは少し乱暴に頭をなでると小さな小瓶のついたネックレスをくれた。そしてその小瓶の中には綺麗な紫色の液体が入っていた。
「よくお聞き……もし私とはぐれて困ったらこの液体を飲むんだ。そして、心の中で今から教える呪文を唱えるんだ……わかったかい?【去の地へ、再び帰る時愛しき者たちの元へ、安らぎを求めて神秘なる力、我が身に宿りこの瞬間、元の場所に戻れ!】ほら……シメール言ってごらん。」
「去の地へ……再び帰る時愛しき者たちの元へ……安らぎを求めて神秘なる力……我が身に宿りこの瞬間……元の場所に戻れ……?」
「よく言えたね!よし!それと、もう一つ人間に本当の名前を知られてはいけないよ。本当の名前が知れてしまうと元の姿に戻ってしまうからね……いいかい……私の人間の時の名は鮫海 莉亜……お前はどうしようね……仕方がない。あの子達に頼るか……汝呼びかけに答えよ。そして来い……セリオス ! セリオン!姿を現せ……」
サメリアが唱えると水の塊が現れ双子のウツボになった。
「なんだい……急に私たちを呼んで……問題でもあったかい?おや……その子は何だい?とても甘い香りがするねぇ。もしかしてロビンなのかい?」
「さすが……セリオス とセリオンだね。察しの通りさ……お前たちがロビンというものだよ。今日呼んだのはこの子に人間の名を授けてやってくれないかい?名はオパーレット・シメールと言うのさ。」
「なんて愛おしいロビンなんだい。それで対価は何をくれるんだい?」
「そうだね……私のこの髪でどうだい?この子程ではないが魔力が多いはずだ。」
「サメリアがいいなら……それで手を打とう……」
サメリアはシルキーに頼んで長かった髪をショートにした。そして、その髪を双子のウツボに食べさせた。そうすると双子のウツボたちは、私の周りを何度か泳ぐと……じっと瞳を覗くとウツボたちは顔を見合わせて頷いていた。
「この、深海を映した瞳……そして宝石の名を与えられしものよ。仮の名前を示したまえ……」
双子が唱えると空中にキラキラと光る文字が浮かんだ。
【碧野くらげ】
不思議な文字だった。見たことがない……でも。嫌いじゃないなぁって思った。
「おや……終わったのかい?どれどれ……いい名前を貰ったじゃないか。いいかい……この名前はシメールの名をもとに作られているんだよ。いいかい?
【碧】はオパーレットの名に相応しい字だね。オパーレットは宝石を意味するからね。この文字も同じなのさ……
シメールは、古い言葉で【くらげ】を意味するのさ……仕上げをするよ……セリオス !セリオン!いいかい?」
光と闇の均衡、海と陸の絆
彼女の道となるべき名
【碧野くらげ】
今、ここに彼女の仮の名前を授ける
未来への導き、愛と知識の象徴
この名はその運命と共にあれ
呪文に合わせて文字がゆらゆらと輝きだしサメリアの手の中で光輝いたと思ったら小さな結晶が出来ていたそれはとても小さくパールの様にも見えた。それをサメリアの指示のもと飲み込んで口の中に何も残ってないことを口を開けて見せた。
「さて!準備は整ったね!くらげ!あれに乗っていくよ!」
そう指をさした先には大きなアカクラゲがいた。本物のくらげではなく触ると少し硬くて、プニプニしてる。見た目はアカクラゲの形状と透明感を模した巨大なエアーゲルバブルとでも言うのだろうか……不思議そうに見ていると、サメリアが頭を撫でた。
「ここからは、わかってるね。くらげ……さぁ、私を何て呼ぶんだい?」
「莉亜……」
「よし!いい子だ……これはね。今から地上に上るためのものさ。アカクラゲ族は、移動技術に長けてる種族なのさ……水流ジェット推進や浮力制御システムを開発し、海の中を自由に動き回る能力を強化。触手を使ったり、共生生物と協力して、海底の資源を利用し、乗り物を作ることが出来るのさ。しかも人間には見つからないように目くらましの術がかかっているのさ。すごいだろう?さぁこのスカーレット・ジェリーフローターに乗り込むよ!」