SNSでイキったら数百万円の収入を失った(かもしれない)話
これは、自分がプロ作曲家デビューして2年くらい経った時の話。
当時、Twitter(現X)やFacebookなどのSNSは一切やっていなかった。いや正しくは、全てやめていた。
初めて採用が取れた時に、「作曲家はいわば裏方だから、目立たない方がいい」と考えたのだ。そもそもプロになりたての頃は曲作りが忙しくてSNSをやる暇もなかった。
なので思い切って、それまでやっていたmixi(懐かしい)やTwitterなどのアカウントを全て削除した。Wikipediaに誰かが自分のページを作ってくださったので、それがあるからいいかとも思った。
一方、作曲家仲間たちは皆SNSをやっていて、互いにリプしあったり発売情報を投稿したり、時には制作秘話なんかを語ったりもしていた。
人気のあるアーティストに提供した場合なんかは、「神曲ありがとうございます!」みたいな感じのリプが殺到する。
正直、羨ましくもあった。
正直言うと……自分もちやほやされたかった。
「裏方だから云々」というのは自身で勝手に決めたことであり、別にSNSをやっちゃいけないわけではない。ある程度作曲家生活に慣れてきたし、そろそろいいんじゃないか。
ということで、次の提供曲の発売に合わせTwitterを再開した。
最初はフォロワー数もまばらだったが、アーティスト本人にフォローされた途端、一気に通知は爆発。常に「20+」状態が続き、1日でフォロワーは数百人増えた。
制作の裏話を披露したり、曲に込めた想いを語ったり。基本的に自分の曲大好き人間なので話したいことは山ほどあったし、それに対しフォロワーからの良い反応も沢山あった。
実にいい気分だった。
そして……採用が来なくなった。
このエッセイを書いている現在まで、そのアーティストでの採用はないままだ。
もちろん、自分の提出曲がパッとしなかった可能性もあるだろう。しかし、それまで頻繁に来ていたキープの連絡すら急になくなったのは訳がわからなかった。
(ちなみに以前書かせていただいた、「運気を上げようと有名パワースポットに行きまくった愚か者の末路」というエッセイはこれより前の話だ)
そこで色々考えた結果、もしかしたら自分のSNSが原因だったのでは?と思ったのだ。
簡単に言えばクライアントに、「こいつSNSで余計なことペラペラ喋ってるな。危険だから使わんとこ」と思われてしまったのではないか、と。
改めて投稿内容を見直すと、他の作曲家仲間に比べ「喋りすぎてる感」があった。SNS休止期間に溜まっていたものもあったし、元来好きなことは無限に語ってしまうタチなせいもあっただろう。
大手クライアントの案件は多数の人間がプロジェクトに関わり多額の金が動く。そのため守秘義務だったりが非常に厳しい。
そのクライアントからすれば、「喋りすぎる人間」は何をいつポロっとこぼすかわからない、好ましくない存在なのもしれない。だから自分は切られたのではないか?と考えたのだ。
その考えが正しければ、SNSでいい思いをした結果、その後入ったかもしれないお得意様からの収入およそ数百(千?)万を失ったことになる。
……。
これはあくまで個人の勝手な憶測にすぎないのだが、現在所属する事務所に移ってから、あながち的外れでもない気がしている。
というのも、今の事務所ではSNSへの投稿は事前にチェックされる。個人の意見や感想的な内容は大体NGになるので、基本的に発売情報のみ。
そこまで管理されると、以前の自分はやはりあれこれ喋りすぎてたとも感じるし(今の事務所じゃ絶対NGな内容ばかり)、むしろSNSなんてやってない方がクライアント的には安全とさえ思う。
となると、「作曲家は裏方であり、目立たない方がいい」という自分の最初の考えは実は正しかったのかもしれない。
憶測が合ってるかどうかはさておき個人的には反省し、以降は作曲家アカウントはほぼ休止状態にしている。大事なのは曲を作ることであり、SNSをやらなくても別に何も困らないからだ。
SNSで色んな方と交流するのは楽しいし、自身の作品に感想なりを書いてくださったりリポスト等で広めてくださったりするのは、クリエイターとしてはとても嬉しい。
今回のエッセイでは別に、クリエイターはSNSをやっちゃいけないと言いたい訳ではないのだ。
むしろ昨今では、SNSきっかけで世に広まったり商業に結びつく作品もあるし、SNS自体が主戦場の人もいる。
ただ、SNSというのは予想以上に「見られている」とも思うのだ。
例えば、昨今の就職活動では企業側が就活生のSNSアカウントをチェックするとも聞くし、儲かっている人は税務署がチェックしているなんて話も。
なので、色々と喋りすぎるとそれが後々のトラブルの元になったり、自身への評価を下げるリスクになる可能性もなくはない。
また、SNSそのものが負担になる可能性だってある。
作品が広まり、世間の目に触れるほどに批判的な意見も増えてくる。そうした批判に精神を病んでしまったり、逆に終わりのないリプ合戦をしてしまったりするのは、心身ともにしんどいものだ。
中には自ら過激な発言を繰り返して評判を落とす人もいて、好きだった作品の作者さんがやばい立ち回りをしていて、がっかりしたことが何度もある。
実は今回のエッセイを書いたきっかけも、とあるクリエイターさんがXにて攻撃的な態度を取っていて、「もったいないな、この人SNSなんてやらなきゃいいのに」と感じたからだったりする。
クリエイターにとって一番大事なのは「作品」であり、一番時間とエネルギーを注ぐべきなのも「作品作り」なはずだ。
そして最後に。
「作品は我が子」という持論があるのだが、それはつまり作者は親なのだ。
親であれば出しゃばらず、そっと子供の活躍を見守るくらいがちょうどいい。
自分はここを勘違いしてしまって、ものの見事に出しゃばったわけだ。「他の人もそうしてるから」と言いつつ、本当のところは「自分がちやほやされたかった」わけだから。
誠に、お恥ずかしい。
聡明ななろう作者の皆様は自分のように出しゃばることはないだろうが、色々書いているうちにまとまってきたので、恥の備忘録として投稿させていただこうと思う。