ep.9 美少女勇者ユーリ
僕たちはバルコニー後方に整列させられた。
上級生たちが前にいるので様子はあまりよく見えない。
隙間からチラチラと見えるだけだ。
王様が民衆の前に立ち、勇者が顕現したと伝えた。
集まった人々は大歓声を上げた。
そして王様はその名を呼んだ。
「勇者ユーリ様です!」
僕の横を真っ白なスーツを着たユーリが通った。
幼い少女とは思えない立ち振る舞いで金ピカのオーラが見えるようだった。
ユーリはゆっくりとベランダの中央まで進んだ。
勇者を一目見ようと集まった人たちは息をのんでユーリの言葉を待った。
「時は来た。私は美少女勇者ユーリ!私がみんなを守る!」
ユーリは右手で拳を握り、腕を突き上げた。
一瞬シーンとして、すぐに大歓声が起きた。
(美少女戦士みたいに言ってたけど)
ユーリは大歓声に応えるように両手を広げ、空に向かって花火のようなものを打ち上げた。
その光の玉は上空で弾けて、辺り一面がキラキラと輝いた。
「ここにいるみんなに祝福を!」
ユーリはそれだけ言って城の中に戻った。
大歓声の中、王様はキラキラに目を奪われていた。
気がつくとユーリがその場にいなくて、みんなはキョロキョロとユーリを探した。
しかしユーリはどこにもいなくて、王様は焦ってこう言った。
「皆の者!見たであろう!我が国は安泰である!」
こうしてお披露目会は10分ほどで終了した。
「お披露目会ってこんな感じなの?」
「さぁ?でもユーリらしかったね。」
ミカはクスクス笑っていた。
広間にユーリの姿はなく、メイドさんに聞くと部屋に戻られたと言われた。
(ユーリに会いたかったのにな)
僕は仕方なく帰ることにした。
この式典の後片付けのため明日も学園は休みである。
城はお祝いムードで、貴族たちは主役のいない祝宴を楽しんでいた。
カイと帰る準備をしていると見覚えのある人に声をかけられた。
「キララ?」
「お二人とも、お静かに。どうぞついて来てください。」
キララはコソコソと僕たちを城の奥の方の暗い廊下に連れて行った。
そして質素な扉を開け、中に入るように言った。
「従者用の部屋みたいですね。」
カイはキョロキョロして部屋の安全を確かめているようだった。
「キララ、ここは?」
部屋の中を進むと、粗末な椅子に座ったユーリがニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「あれ?こんなところで何をしてるの??」
僕が驚くと、「あんな訳のわからないジジィたちに囲まれるなんてごめんだよ。」とユーリは嫌な顔をして言った。
「ユーリ様!お言葉にお気をつけください。」
キララはユーリを睨みつけた。
「ごめんあそばせ。ソラの前では気が緩んでしまいますのよ。オホホ」
ユーリは僕の手を掴んで奥の部屋に連れて行った。
「秘密の話があるから、2人は何か美味しいものでも持って来て!」
キララは文句を言いながらカイと部屋を出て行った。
「勇者がこんなに窮屈だとは思わなかったよ。」
ユーリは粗末なベッドにゴロンと横になった。
「格好よかったよ!美少女戦士みたいな言い回しとか。」
「月にかわってお仕置きよっ!」
ユーリは銃でも撃つような仕草をした。
僕がポカーンと見ていると、「名作だぞ?!」と嘆いていた。
「あーあ。勇者になっちゃったし、あとは魔王が出てくるまで暇だなぁ。」
「学園はやめるんだよね?」
「必要ないからね。ソラも辞めちゃえば?」
「辞めたいって言って辞めれるのかなぁ。」
ベッドでゴロゴロするユーリを見て思い出した。
僕は手のひらの画面を出して、お兄さんのリュックを取り出した。
「あの、これ。」
「おぉーー!!なんで?!俺の??マジかよ!!」
ユーリはガバッと起き上がってリュックを抱きしめた。
「お兄さんのお母さんが僕にくれたんだ。」
「母よ!!なんてナイスなことを!!」
ユーリは中からゲームやスマホを取り出した。
「ソラ!!動くぞ!!あぁ…充電が切れそうだ!!チクショー!!充電器はあるのに!!コンセントがないじゃないか!!!」
ユーリはムキーッと怒っていた。
「雷魔法で電気を作れば。」
僕は適当にそう言ってみた。
「ソラ!天才かよ!!」
ユーリは充電器のプラグの部分を握りしめ、小さな雷を出した。
「100ボルトってどれくらいかな。おぉ!!ソラ!!!成功したよ!!!!」
ノックの音が聞こえ、2人が戻ってきた。
「邪魔される!!寝ていると言ってこの部屋には入れるな!!」
僕は急いで隣の部屋に戻り、ユーリは寝たから静かにしてと言った。
「もう!勝手なんだから!」
キララは持ってきたお菓子を口に入れた。
「まあ、相手は勇者と言っても子供ですし。疲れたのでしょう。」
「カイは甘いんだから!ソラは素直で良い子ね!ほら、食べなさい。」
僕は見たこともない手のこんだお菓子を1つもらった。
甘くて、サクサクでとても美味しかった。
それから30分ほどしてユーリは僕だけ部屋に来るようにと隣の部屋から叫んだ。
「大丈夫?」
ユーリは目を輝かせてゲーム機とスマホを見せた。
「フル充電完了だよ!!!」
「ユーリ様!そろそろ戻りませんと!!」
「ダメ!!あと30分だけ待って!!」
ユーリは部屋のドアに向かって魔法をかけた。
向こうではキララがドアを叩いている。
「ソラ!少しだけ!」
僕はユーリの隣に座った。
ユーリは慣れた手つきでゲームを楽しんだ。
「この世界にも作るべきだよね。」
「リアルモンスターハントができる世界でそれは無理なのかも。」
僕は苦笑いをした。
隣でユーリが一心不乱にゲームをしている。
“お兄さんとゲームをする。”
僕はやりたいことが叶ってしまった。
「ソラ?」
ユーリはゲームの手を止めて、ハンカチで僕の顔を拭いてくれた。
「泣かないでよ。」
僕はどうやら泣いていたみたいだった。
「お兄さんは勇者で、僕はできそこないで。一緒にいたかったのに…」
涙はどんどん溢れてきた。
今までずっと我慢していたのに。
ユーリはリュックにゲーム機をしまった。
「ソラ、また今度やろう。それまで隠しておいて。」
「えっ?できるの?」
「もちろんだよ!俺たちマブダチだろ!!」
ユーリはニコッと笑った。
僕にはそれがお兄さんに見えた。
僕はリュックを収納し、涙を拭いて立ち上がった。
「ユーリ様!みつかりました!!観念して出てきてください!!」
ユーリは「やれやれ」と言ってドアを開けた。
「ソラ、またね。」
ユーリとキララは兵士たちに連れて行かれた。
「ソラ様!いかがなさいました?!」
カイは僕の泣き顔を見て慌てていた。
「なんでもない!お腹が空いただけ!」
カイは優しい顔になり、「では帰りましょうか」と言った。
僕は黙って頷いた。
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翌日、僕は練習場も禁止され、やることもなくて部屋でゴロゴロとしていた。
「ねぇカイ、僕も勇者になったらユーリと遊べるかな?」
「そうですね…きっと同じ場所に勇者を2人も配置しないでしょうから。無理でしょうね。」
「そうだよね。」
僕はまたユーリと遊ぶ方法を考えていた。
勇者が何をするのか知らないけど、きっと僕なんかと遊んでいる暇はないだろう。
「図書室に行ってくるよ。」
僕は何か方法がないか調べることにした。
過去の勇者たちのことを調べれば側に居られる方法がわかるかもしれない。
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学園の図書館はかなり大きな施設だった。
司書さんが何人もいて、僕が入っていくとなぜか睨まれた。
僕は追い出されないように静かに歩いた。
本がたくさんありすぎて、どこを探せばいいかわからなかった。
「どうなさいました?」
優しい声で声をかけられた。
後ろを振り向くと年配の女性がそこに立っていた。
僕はこの人にそっくりな人を知っている。
僕が通っていた学校の保健室の先生だ。
「あ、あの。本を探したいのですが、たくさんあって困っていました。」
「私でよければお手伝いしますよ。」
ナーラというその女性はこの図書館の館長さんだった。
僕をテーブルに案内し、「どんな本ですか?」と聞いてくれた。
僕は勇者の暮らしぶりなどがわかる本や、勇者と共に働ける職業のことなどを知りたいと伝えた。
ナーラは詳しくメモを取り、うんうんと頷いて話を聞いてくれた。
「少々お待ちくださいね。」
ナーラはメモを片手に持ち、目をつぶって何かを唱えていた。
すると本がパタパタと飛んできてテーブルに積み上がった。
「わぁ!」
僕は小さな声で驚いた。
「返却は私がしますから終わったらカウンターに持って来てくださいね。」
「ナーラさん、ありがとうございます。」
僕は小声で感謝を伝え、頭を下げた。
ナーラはニコッと笑ってカウンターの方へと行ってしまった。
(保健室の先生…)
僕は空腹でめまいがして時々保健室に運ばれていた。
保健室の先生はいつも僕に「秘密だよ」と言ってビスケットやクッキーをくれた。
いつも優しくて、大好きだった。
似た人に助けてもらって僕は心が温かくなるのがわかった。
僕の中にあるいい思い出の1つだった。
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僕はさっそく本を広げた。
子供向けの絵本のようなものから文字がびっしりの重たい本まで様々だった。
(何か方法をみつけたい)
僕はその日を図書館で過ごした。
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