ep.7 バーターの実力
僕がこの学園に呼ばれた理由がなんとなくわかってから数日経った。
学園での授業は午前と午後、合わせて4時間くらいだった。
ユーリは「つまらない」を連発して、いつも先生がやれと言ったことの10倍のものを見せて驚かせていた。
逆に僕はまったく魔法が使えず、先生も動揺を隠せないでいた。
僕は放課後に練習場で自主練をすることにした。
これ以上みんなの足を引っ張るわけにはいかない。
ユーリは「別に魔法が使えなくてもいいでしょ」と言う。
「ソラが困ったら私が助けるし、問題ないわ。」
と言ってくれた。
それは頼もしくて、とてもありがたかったのだが、いくらバーターとは言え、魔法の一つも使えない子をいつまでも学園に置いておくとは考えられない。
いつか「帰れ」と言われる気がする。
ユーリは僕の練習を黙って見ていた。
発動しているスキルがユーリには見えると言っていた。
何も言わないということは僕は何もできていないということだろう。
「思ったんだけどさ。」
黙っていたユーリが僕の隣にやってきた。
「ソラが使える魔法はもしかしたら4大属性じゃないのかもしれない。」
「えっ?他にもあるの?」
「あるよ。光と闇が。」
「ユーリは使えるの?」
「光は使えるよ。」
ユーリはそう言って空に向かって花火のようなものを出した。
天井にぶつかるとキラキラと星が降ってくるようでとてもきれいだった。
「光と闇は対立してるからね、両方は使えないんだよ。」
「そうなんだね。教科書に書いてないから知らなかったよ。」
「あんな子供用の読み物に高度な世界の話は出てこないよ。光も闇もとてもレアらしくてね。一般教養ではないってことだよ。」
「さすがスーパーチート美少女勇者だね。」
「うふふ、いいでしょ。」
僕はその話を聞いて光と闇の魔法が使えるか試すことにした。
「光はキラキラ、闇はドロドロでも想像してみたらいいよ。」
僕はユーリに言われたとおりにキラキラをイメージしてみた。
しかしまったく何も出てこない。
次に闇も試してみることにした。
(ドロドロってなんだろう)
僕は底なし沼をイメージした。
するとなんだか足元が揺れた気がした。
ユーリはすぐにピョンと飛んでその場を離れた。
一人になった僕はゆっくりと土の中に沈んでいく。
「わぁ!なにこれ!!」
ユーリは慌てる僕を見てクスクス笑っている。
「毒沼だって!すごいね、ソラ!」
「えぇーー?!僕が出したの?!ひぇー。沈んじゃうよ!助けてよ!!」
「自分で出したんだから、自分で消しなよ。大丈夫、落ち着いて。ソラならできるから。」
ユーリは楽しそうに僕を見ていた。
僕は神経を集中させて足元のドロドロが消えるようにと両手を向けた。
沈んでいくのが止まった。
「やったね!消えたよ、ソラ!」
ユーリは僕を見て大爆笑している。
「ドロドロじゃなくなったけど、土に埋まって出られないよー!」
ドロドロはただの土に戻っていた。
僕は足の半分が土に埋まったままだった。
「ソラ、闇魔法が使えるってことは重力も操れるよ。頭の方に重力が来るように魔法を発動させてみてよ。」
ユーリは楽しんでいるようだった。
僕は重力が何なのかイマイチわかっていなかった。
頭が下になるイメージをしてみた。
すると僕はスポっと土から出ることができた。
しかし出たのはいいがそのまま空中に浮かび上がってしまった。
「ユーリ!!助けてよ!!」
ユーリは大爆笑している。
「戻す魔法を使いなよ。」
僕はそう言われて足の方が重くなるイメージをした。
僕はそのまま地面に落ちた。
「死ぬかと思ったよ。」
「ソラ、面白すぎるだろ!!」
ユーリはベンチを叩いて喜んでいた。
僕は全身泥と砂でドロドロになっていた。
「ソラは毒耐性もついてるみたいだね。なかなか面白い。」
さっきの毒の沼地に入っても何事もなかったのはそのおかげのようだった。
僕は手のひらの画面を出してみた。
そこには確かに毒耐性というものが増えていた。
「今覚えたみたい。」
「ソラ、手のひらに何かあるの?」
「うん、ステータス画面みたいなのがあるよ。ユーリにはないの?」
「そんなのないよ。いいなー!」
ユーリは鑑定スキルがあるので自分のステータスもそれで見ていると言った。
「ソラもちゃんと魔法が使えたね。みんなに見せるべきではないと思うけど。」
僕もそんな気がしていた。
「僕の魔法、この世の終わりみたいだもんね。」
「闇魔法は恐れられているからね。」
「やっぱり4大属性の魔法の練習に戻るよ。」
ユーリは「それがいい」と言って先に部屋に帰っていってしまった。
僕は一人で練習を再開した。
さっきみたいな感じで他の属性の魔法も出せばいいんだ。
僕はさっきの感覚を思い出して火の玉を出した。
とても小さくて今にも消えそうな火の玉が出てきて地面に落ちて消えた。
「できた!!」
みんなのそれとはまったくレベルが違ったけど、僕にも火の玉を出すことができた。
僕は忘れないうちに何度も繰り返した。
だんだんコツを掴んで、火の玉を飛ばせることができるようになった。
その調子で他の属性の魔法も練習した。
どれも消えそうなくらいに小さかったけどみんなのように僕も4大属性が使えることがわかった。
頭がクラっとした。
そういえば魔力がどうのって言ってたっけ。
僕はベンチに座って休んだ。
これは僕にも魔力が存在していて、魔力をたくさん使ったから疲れたんだ。僕はクラクラしたけど嬉しかった。
ベンチで横になっているとカイが現れた。
「ソラ様、心配しましたよ。ユーリ様にここだと聞いて飛んでまいりました。」
僕はベンチに横になったまま、「やっとできたんだ!魔法!!」とカイに言った。
「おめでとうございます!!だから倒れてらっしゃるのですね。こんなにドロドロになるまで…頑張りましたね。」
カイは嬉しそうに僕を抱きかかえた。
「歩けるよ!!」
「いいえ、初めての魔法で体がビックリしたんだと思います。部屋までお連れしますね。」
僕はそのままカイにお姫様抱っこをして部屋まで連れて行かれた。
ユーリが見たらまた大爆笑しただろう。
僕は気配を消すスキルを使った。
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魔力は食べたり眠ったりすると回復するらしい。
朝起きると僕は完全回復していた。
僕は朝食を終えて少し早く部屋を出ると、ユーリの部屋のドアを叩いた。
中からユーリのお世話係のキララが出てきた。
「ユーリ様はまだお支度が…」
僕は「先に行ってるね!」と部屋の中のユーリに向かって叫んだ。
午前中は実技の授業なので練習場に集合だった。
僕は早く魔法を試してみたくて誰もいない練習場に入った。
僕は火の玉を出して遠くにある的に向かって飛ばした。
火の玉はゆらゆらと進み、的にぶつかるとふわっと消えた。
「ソラ!できたんだね!」
「うん!!」
ユーリは僕の頭を撫でてくれた。
「がんばった!」
僕はお兄さんに褒められているようですごく嬉しかった。
授業が始まり、僕が魔法を出すとクラスメイトたちはその威力のなさにクスクス笑っていた。
先生は僕の両手を握りしめ、「諦めず、よく頑張ったね!」と涙ぐんでいた。
ユーリは「勇者候補なんですから、それくらい当たり前ですわよ。」と言って鼻で笑った。
(悪役令嬢キャラなのかな?)
僕はお兄さんが見せてくれたアニメのキャラを思い出した。
主人公の女の子が悪役令嬢に邪魔されながらも成長して立派な勇者になる話だった。
(あの世界観の悪役令嬢と主人公がゴチャゴチャになってる気がする)
僕はこの世界の主人公がお兄さんだと知っている。
美少女勇者が活躍する世界になるだろう。
でもバーターだとわかっていても僕は嬉しかった。
今まで努力が報われるなんてことなんて、ほとんどなかったからだ。
ユーリはみんながいないところで僕のことをたくさん褒めてくれた。
まだまだ努力が必要だけど、追放されないためにも頑張ろうと思った。
闇の魔法についてはユーリと考えて、誰にも言わないことにした。
それと僕たちが違う世界から転生してきたと言うことも秘密にすることにした。
「助け合ってこの世界を楽しく生きよう。」
ユーリはどこか遠い目をして僕にそう言った。
「うん。」
僕はお兄さんが楽しく生きられるように、できることは何でもしようと心に誓った。
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