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ep.6 魔法

僕の学園生活が始まった。

カイに教えてもらったとおりに、僕は空っぽのカバンを持って教室に向かった。

廊下でユーリが僕をみつけて呼び止めた。

「置いていくなんてひどいですわ!」

この少女がお兄さんだと思うと、なんだかおかしくてクスッと笑ってしまう。

「早くこの世界の私に慣れなさい。」

ユーリは笑う僕を睨んだ。

「ごめんね。同じ歳なのはわかっていたんだけど、想像とあまりにも違ったからさ。」

「かわいいは正義なのだよ。」

ユーリはクルッと回ってニコっと笑った。

本当にお人形さんみたいだった。


「ユーリはもう魔法が使えるの?」

「えっ?生まれたときから使えるけど。」

「そうなの?!すごいなぁ。」

「まぁ、チートスキルをたくさん用意させたからね。勇者になる予定だし。」

「不幸ポイントがたくさんあったんだね。」

「その不幸ポイントってなんだよ?俺のジジィはそんな話しなかったぞ?」

「ユーリ、お兄さんが出てきてるよ。」

「まぁ!私としたことが。ごめんあそばせ。」

僕たちは目を合わせて笑った。

なんだか茶番劇でもしているようだった。


「生まれ変わるときに持っている不幸ポイントによって次の転生先をいろいろ選んだりできるんだって。」

「そうなんですのね。私は単純に次はどうしたいか聞かれただけだったわ。あ、でも前世の記憶は消されるって言うから、それは絶対残してって言ったの。ソラもなんでしょ?」

「僕はお兄さんに会いたいってそれだけだよ。なんか、お兄さんの状況が特殊だったから、ポイントがいっぱい必要だって、言ってた気がする。」

「よくわからないシステムですのね。まぁ、私に会いたいってことは必然的に前世の記憶が必要ですものね。」

そんな話をしている間に僕たちは教室の前についた。


────


まだ教室には誰もいなかった。

ユーリは教室内の真ん中の席を選んだ。

僕はその隣に座った。


すぐに緊張した顔の生徒たちが入って来た。

ランとミカは僕たちの前に座り、トーマは窓際の1番後ろに座った。

先生もすぐにやって来た。


バリリ先生はお父さんと同じくらいの年齢の男の先生だ。

「みなさんおはようございます。今日からこのクラスの担任になります。他にも専門的な授業を受け持つ先生がたくさんいます。楽しみにしていてください。」

バリリ先生はみんなの前に水晶をだした。

「この水晶はみなさんの魔法の適性がどれくらいあるか見るものです。数字で出てきます。ちなみに私は86です。この学校の先生はだいたい私と同じくらいです。この数字は大人になってもほぼ変わることはありません。この適正値によって習得できる魔法が変わりますし、習得するまでの期間も変わります。」


「100なんだよね。」

ユーリは小声で僕に教えてくれた。

「すごいね!測ったことあるの?」

「家にあの水晶と同じものがあったからね。」


「ユーリさん、本当に100ですか?」

僕たちのひそひそ話が聞こえていたようだ。

「はい。」

「ではユーリさんから測定してみましょう。」


ユーリは先生の横に立った。

「手をかざして。」

水晶の上に数字が見えた。

ゼロからカウントされてどんどん上がっていく。


「ユーリさんは…112ですね?家では100だったのですよね?あがった?!いや、家にあった水晶がこわれていた?!112だなんて、見たことも聞いたこともありません!」

みんなもびっくりしているようだった。

「稀にその数字が上がる人もいるってお父様が言ってましたわ。最後に測ったのが半年前ですから、変わったのかもしれませんわ。」


ユーリはドヤ顔で席に戻ってきた。

「先生!次は俺!」

トーマが先生の方に走っていった。

「よろしい、ではトーマさん、手をかざして。」

トーマの数値は90で止まった。

「なんだよ、俺も100超えたかったぜ。」

トーマは不機嫌そうに席に戻っていった。

「トーマさん、先生より高いのですから…すごいんですよ…」

先生はポリポリとこめかみをかいていた。


ミカが92で、ランは90だった。

順番が来て、僕は緊張しながら水晶に手をかざした。

数字はゼロから1になり、そして止まった。

先生は何度も見返して、水晶を振ったり叩いたりした。

何度やり直しても数字は1だった。


「ソラさんは1ですね…先生は1という数字も見たことがありません。これはいったい…」

「僕には魔法が使えないということですか?」

「いいえ、たとえ1であっても数字に出るということは適正がありますよ。ユーリさんのように増えることもあるかもしれません。がっかりせずに頑張りましょうね。」


席に戻るとユーリがクスクス笑っていた。

「不幸ポイントが足りなかったみたいだな。」

「そうみたい。」

僕はなんだか不安になってきた。


────


初日の午前中は座学で魔法とはどんなものかと言うことを学んだ。

教科書ももらい、僕はなんだかテンションが上がってきた。

僕以外のみんなは当然のように知っている知識も、僕には知らないことばかりで新鮮で楽しかった。


昼になり、食堂に向かう途中で「つまらない」とユーリが不満そうに言っていた。

ユーリはこの教科書の内容を3歳で覚えたと言っていた。

「すごいチートキャラなんだね。」

「まぁね。」

ユーリはフフフと笑って食堂に入って行った。


食堂の中には上級生たちもいた。

僕は緊張して他の人たちと目を合わすこともできなかった。

席に座ると食堂のスタッフのような人たちが食事を運んできてくれた。

僕は学校の給食みたいなものを想像していたので、運ばれてきた食事に驚いた。

品数が多くてどれを食べても美味しかった。

僕は夢中で食べた。


「ユーリさん、適性で112を出したんだって?」

会長がユーリの隣に座り話しかけてきた。

まわりがザワザワとした。

「ええ、なかなかいい数字が出ましてよ。」

僕は話しかけられないように存在を消した。

(僕に気がつかないで)


先輩たちはユーリに「楽しみにしてるよ」と言って食堂を出ていった。

「もういませんわよ。」

僕はビクッとしてユーリを見た。

「ソラ、気配を消すスキルを持っていますわね。発動してましたわ。」

「えぇ?そうなの?」

「私、そういうのが見えるスキルを持ってますの。」

ユーリはニヤリと笑った。


────


午後は魔法の練習場に集合して実技の練習が始まった。

「では基本の火属性の魔法から練習してみましょう。」

この世界には4大属性と言われる火水風土の属性魔法がある。

これらは練習次第で適正のある人なら誰でも習得可能だと先生は説明してくれた。

「火をイメージして。火の玉を向こうにある的に当ててください。」


みんなはすぐに火の玉を出して的に当てていた。

ユーリのは火の玉と言うより火の大玉だった。

僕は何度もチャレンジしたけど何も出てこなかった。

「ソラさん、焦らなくて大丈夫ですよ。そのうちできるようになりますからね。」

みんなは僕の適正が1だから、「しかたがない」という顔で僕を見た。

僕もそう思う。

(僕に魔法は向いていないのかも)


午後の授業も終わった。

「まだ2時だけど、もう終わりなんだね?」

「1年生は魔力も少ないし、長い授業はさせないって言ってましたわよ。」

「そうなんだね。僕には魔力があるのかないのか…疲れたりはしてないから最初から魔力なんてないのかも。」

「ソラ、適性と魔力量は関係ありませんよ。」

「なんだか僕だけ場違いな気がするよ。どうして僕が選ばれたんだろう。」


「私に会いに来てくれたのでしょう?私の持つチートスキルの何かが発動しちゃったのかもしれませんわね。」

ユーリがそう言うと、そんな気がしてきた。

僕はこういうときの言葉を知っている。

【バーター】って言うんだ。

お兄さんとゲームをしてるときに「パーティにバーターがいる」って話をしていた。


僕はお兄さんのバーターなんだと思う。


────

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