表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/26

ep.4 美少女降臨

入学式には街から3日かけて家族みんなが来てくれた。

お迎えの馬車がスタアトの街まで来てくれて、快適な旅となった。

お父さんもお母さんも心配なのを隠して笑顔を作っているようだった。

お姉ちゃんはずっと怒りっぱなしで、最近は口すらきいてくれない。

「リノ、いい加減にしなさい!」

お父さんもお母さんも僕にしばらく会えなくなるのだからとお姉ちゃんに言ったけど、お姉ちゃんは頑なに僕の顔を見ようとはしなかった。


僕はそういう態度を取られることに慣れていたから、仕方がないと思ったけれど、相手がお姉ちゃんだからなのか、少し悲しい気持ちになった。


そんなこんなで学園に到着し、僕は先生のような人に連れて行かれ、家族と引き離された。

「入学式出会えますから。ご家族の待合室はこちらです。」

僕を不安にさせないようにと、お父さんとお母さんは笑顔で手を振ってくれた。

お姉ちゃんは僕を見て泣きそうな顔をして、お父さんの後ろに隠れた。


────


「こちらがソラ様の部屋になります。」

僕が通されたのはとても豪華な部屋だった。

僕のうちのリビングよりも広い部屋には机もテーブルも椅子もソファまであって、お風呂もトイレも洗面台もあると説明してくれた。

「僕、あまりお金を持っていないのですが…」

家を出るときにお父さんが秘密にお小遣いをくれた。

何かあったときのためと言われたので、僕は手のひらの画面を出してこっそりとその中に収納していた。

「何を言っているのですか?ソラ様がお金を払う必要なんてありませんよ。」

「でも、僕の家にもあまりお金がないかもしれなくて…こんなに広い部屋じゃなくても大丈夫なんですが…」

僕がそう言うと案内してくれた男の人はクスッと笑った。

「失礼しました。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。私はソラ様の専属の使用人で、カイと申します。この学園は王立でございますので、すべての費用は国から出ております。ご心配なさることはございませんよ。」

「そうなんですか?!僕、何も知らなくて、変なこと言ってごめんなさい。カイさん、どうぞよろしくお願いします。」

「ソラ様、私は使用人ですので、どうぞカイとお呼びください。」

「いいの?」

「もちろんです。」

カイはそう言ってニコっと笑った。

「じゃあ僕のこともソラって呼んでほしいな!」

「申し訳ありませんが、それはできかねます。私も仕事でソラ様に仕えておりますので。」

カイが困った顔をしたのでしつこくはしなかった。

「わかりました。お世話になります。」

僕は深々と頭を下げた。

前の世界のお母さんは人に世話になるときはこうやって頭を下げろと言っていた。


「ソラ様!私などにそんな!!」

カイは優しく顔を上げるように言った。

(何か間違っちゃったかな)


カイはクローゼットに案内して制服に着替えるようにと言った。

大きさが色々あって、僕に合いそうなものを選んでくれた。

制服は僕が今までで着たどんな服よりも立派で、着心地も良かった。

「お似合いですよ。」

僕はそう言われて鏡を見た。


今まで自分の顔なんて気にしたことがなかった。

前の世界にいた頃の自分に似ている感じはあったけど、髪の色も目の色も違って、1番違うのは体型だった。

あの世界の僕はガリガリで、ガイコツとあだ名がつけられるほどだった。

今の僕は顔色もよくて、普通の人のようだった。


「どうなさいました?」

僕は自分に見惚れていたなんて言えなくて「大丈夫」とだけ言った。

「では会場にご案内いたしますね。」


部屋を出ると僕のように制服を着た同じくらいの歳の子が同じように使用人に連れられて廊下を歩いていた。

みんな静かに歩いていたから、僕もおとなしくカイについて行った。


入学式は大きな椅子のたくさんある部屋でやるようだった。

体育館にあるようなステージがあり、【入学式】と書かれていた。

僕は1番前の席に座るように言われた。

カイはすぐにいなくなってしまった。


後ろを見ると少し離れたところにお父さんたちがいて、僕がみつけると手を振ってくれた。

すぐ側にいてくれて僕は安心した。


まわりも、ぐるっと座席になっていて、テレビで見たことのあるスタジアムに似ているなと思った。

そこにはたくさんの人が座っていて、僕はそれを見て緊張してきた。


────


「入学おめでとう!」

大きな帽子をかぶった小さなおじいさんが演台で僕たちに向かってそう言った。

「今年はなんと5名もの勇者候補生が入学しました。」

まわりは大喝采だった。

よくわからないけど、みんな嬉しそうだった。


「この中から勇者が生まれることを大いに期待しましょう!」

そして拍手喝采となった。


式はすぐに終わり、僕は家族のところにやっと行けた。

「立派だったわよ!」

お母さんは涙ぐんでいた。

お父さんは僕の頭を撫でて、「辛くなったらいつでも帰ってくるんだぞ。」と言ってくれた。

「ご家族はご退場お願いします。」

とアナウンスがかかった。


「もう会えないの?帰っちゃうの?」

涙でお別れをしている他の家族たちが目に入った。

「また会えるわよ!!でも何年かは会えないわ。でも大丈夫よ。手紙を書くからね。」

お父さんとお母さんは退場するように警備の人に言われた。

手を振りながら遠くなっていく。

僕は悲しくなった。


お姉ちゃんが退場の列から抜け出して僕のところに走ってきた。

そして僕を抱きしめた。

「ソラ!あんたは天才なんだから!負けないでよ!泣かないでよ!男なんだから!しっかりするのよ!」

お姉ちゃんはそう言いながら鼻水を垂らし、大号泣していた。

警備の人に「はい、行きますよ。」と言われて、引っ張られて行ってしまった。

僕は泣かないように我慢した。

笑ってお姉ちゃんに手を振った。


────


そのまま僕たちは教室だという部屋に連れて行かれた。

全部で5人。

男子は僕と隣にいる大きな子だけだった。

女子は3人で、1人だけすごく目立っている子がいた。

「みなさん、ごきげんよう。私はユーリよ。この通りの美少女よ。よろしくね。」

金色の髪は長くてサラサラだった。

美少女と自分で言うのはどうかと思ったけど、間違いなくユーリは美少女だった。

僕はお人形みたいだと思った。

「見とれちゃうのはわかるけど、あなたたちも自己紹介なさい。はい、あなたからどうぞ。」

ユーリは隣にいた女子の肩をトンと叩いた。


「はい、私はランと言います。よろしくお願いします。」

ランは小柄で、ウェーブのかかった肩までの髪の毛がよく似合っていた。

おとなしそうな感じがした。

「俺はトーマだ。」

僕の隣にいた大きな子はそれだけ言った。

体格がよくて、僕と同じ年には見えない。


みんなの視線が僕に集まったのがわかった。

「僕はソラです。みなさんよろしくお願いします。」

僕はいつもの癖で頭をペコリと下げた。

「ソラですって?!」

ユーリは僕を睨んでいた。

「あ、はい。」

美少女に睨まれたことなんてなかったので、僕はなぜか緊張してしまった。


「最後は私ね!私はミカルナよ。ミカって呼んでほしいわ。よろしくね!」

ミカは気さくな感じのする女子だった。

真っ黒な髪の毛は日本人形を思い出させる。

(ミカもお人形さんみたいだ)


自己紹介が終わると制服を着た生徒が入ってきた。

「自己紹介しておくように言ったが終わったかな?」

「はい!」

僕たちは一斉に返事をした。


「私はこの学園の生徒会長を務めている8年のハルです。生徒会長と言ってもこの学園には現在30人ほどしかいません。少人数ですからわからないことがあったら遠慮しないで聞いてください。」

ハルはスラッとした高身長のイケメンだった。

「こちらはアイとサナ、2人も生徒会メンバーです。これからみなさんと学園の中をまわります。生徒は少人数ですが、学園はとても広いです。迷子にならないようにしっかりついてきてください。」


僕たちは会長たちのあとについて行った。

学園はその言葉の通りとても広く、一人なら迷子になってしまうというのは過言じゃなかった。


「授業は明日から始まります。君たちの担任の先生は入学式で発表されたバリリ先生です。とても優しくていい先生です。楽しみにしていてください。」

ハルはそう締めくくり、僕たちを寮棟の前で解散させた。

僕たちの寮は一軒の建物で、各学年1棟ずつあるのだそうだ。

9年で卒業となるらしい。

(長いなぁ)


部屋に入ろうとするとどこからか視線を感じた。

後ろからユーリがこちらを睨んでいたのである。

(嫌われちゃったのかな)

僕は急いで部屋に入った。


────


午後は自由に過ごすように言われた。

食事はすべて部屋に用意してくれる。

学園での昼食は食堂で食べるということだ。

校舎が広いので、いちいちここに戻って来なくていいのはいいことだ。

今日は授業がないのでみんな各部屋で食べているらしい。


「カイは食べないの?」

「私は使用人用の部屋で空き時間にいただいておりますので。」

「そうなんだ。一人で食べるより誰かと一緒がいいなって思って。」

僕はお兄さんの隣で菓子パンを食べたことを思い出した。


お兄さんはどこだろうか。

僕はようやくコンパスを出すときがきたと思った。

(一人になったら出してみよう)


────


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ