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ep.3 僕が生まれた場所

僕は聞いたことのない国に生まれた。

スタアトという名前の国で、とても田舎だった。

街には畑や牧場ばかりで、電気もなかった。


僕が生まれた家はその街で農業をしていた。

気候に恵まれた土地で、冬になっても雪は降らず、一年中作物を収穫できた。

僕は【ソラ】と名付けられた。

(不幸ポイントが余っていたのかな)

父親も母親も優しくて、ヤンチャな姉が一人いた。

石でできた大きな家に住んでいて、いつもお客さんが来ているような賑やかな家だった。


僕は生まれてすぐにこの国の人たちが何を言っているかがわかった。

どう見ても日本人じゃない人たちばかりなので、もしかしたら外国なのかもしれない。

(余っていた不幸ポイントで通訳機能とか発動したのかな)


それでも赤ちゃんだった僕はすぐに喋ることはできなかった。

早くお兄さんを探しに行きたかったのに。

僕は不器用な右手で、左の手のひらに四角を描いた。

天国で見たあの画面が出てきた。

ちゃんと持ち物のところに【リュック】と書かれていて安心した。


この手のひらの画面は他の人に見えないらしい。

僕は暇さえあればその画面をみつめた。

母親が「この子の手に何かあるのかしら?」と心配そうに父親に話していたので、僕は人のいるところでは画面を出さないようにした。


────


そうして僕は3歳になった。

お父さんもお母さんも優しくて、毎日僕に食べ物をくれた。

お父さんは僕を毎日お風呂に入れてくれたし、肩車もしてくれた。

僕は絵本の中の世界に来たような気分になった。

境遇は選べないと言っていたけれど、僕は大当たりを引いたようだ。


お姉ちゃんは2つ年上で、僕に厳しかった。

「ソラ!男はね、泣いちゃだめなのよ!」

僕が転んで怪我をしたのを見て、お姉ちゃんはそう言った。

僕は痛いのを我慢した。

我慢は得意だ。

「えらいえらい。お家に帰ってお母さんに手当してもらおうね。」

「うん。」

お姉ちゃんは厳しいけど、とても優しかった。

僕は家族みんなのことが大好きだった。


家に帰ると、「まぁ!かわいそうに!」とお母さんがすぐに傷を水で洗ってくれた。

「ソラね、泣かなかったんだよ。偉かったね。」

お姉ちゃんは僕の頭を撫でてくれた。

「痛いのに偉かったね。」

お母さんも頭を撫でてくれた。


僕はお兄さんがこうやって僕の頭を撫でてくれたのを思い出した。

お兄さんは今どこにいるのだろう。

3歳の僕にはまだお兄さんを探すことはできそうになかった。


────


5歳になるとこの国のことがだんだんわかってきた。

家にあった本や地図を見ることができた。

僕は見たこともない文字をスラスラと読むことができた。

家族は僕のことを「天才だ!」と言った。

確かに教えてもいない文字が読めたらそうなってしまうだろう。


でも僕の中身は15歳だ。

15歳といえば中学校を卒業する年齢だ。

大人たちが何を言っているのかある程度はわかるようになっていた。


この家は僕にとっては大きくて立派だと思っていたのだけれど、父親は領主様の下で働く小作人というやつだった。

つまりは上司がいて、その人のために農業をやっている。

できた作物はすべて家のものではなく、出来上がった作物を納品してそこから給料をもらうシステムのようだった。

だから不作の年には、うちはひどく貧乏だった。


両親は「ごめんね」と言って僕とお姉ちゃんに小さなパンを食べさせてくれた。

僕はお腹が空いていることなんて慣れっこだったから、文句は一度も言ったことがない。

僕の隣で泣きそうな顔をしていたお姉ちゃんは、そんな僕を見て自分も絶対に文句を言わないと決めたようだった。

「ソラが我慢できて、お姉ちゃんが我慢できないわけないでしょ!」

と言って両親を笑わせていた。


────


驚いたことに僕の手のひらに出る画面はステータスや持ち物の管理以外にもいろんな機能がついていた。

植物の図鑑のような機能があり、僕は目の前にある植物がどんなものなのかがわかった。

僕は食べられる草やキノコを採って家に持ち帰った。

初めは疑っていた家族たちだったけど、僕が目の前で生のままバリバリ食べるのを見て、「わかったから!お母さんが料理するから!」と言ってみんなで食べることになった。


「そこら辺に生えてる草が食べられるなんて知らなかったな!キノコだって食べると死ぬと言われてたぞ?」

お父さんは美味しそうにキノコのスープを飲んでいた。

「食べたら死ぬキノコもあるよ。適当に採って食べたらダメだよ。」

僕は食べられるキノコと食べられないキノコの特徴をみんなに教えた。

「ソラが採ってきたもの以外は食べたいと思わないわ。」

お姉ちゃんはそう言って僕の頭を撫でてくれた。

「僕、採ってくるよ!」

「あんまり遠くまで行かないでね。」

お母さんは少し心配そうな顔をした。

この世界のお母さんは僕のことをとても心配してくれる。

不思議だったけど、なんだか嬉しかった。

「大丈夫よ!リノがついていくから!」

お姉ちゃんは任せてと言わんばかりに胸を叩いた。


────


街の人たちはみんなが家族のようだった。

うちと同じように小作人として農業や酪農業をしている人たちが近所にたくさんいた。

僕をみつけるといつも話しかけてくれた。

僕が死ぬ前の世界では、僕が一人で歩いていても誰も気にしなかった。


お兄さんだけが僕に話しかけてくれた。

お兄さんは元気だろうか。

僕は生まれてからひとりぼっちになる機会がなくて、リュックもコンパスもまだ出したことがなかった。

5歳で家を出て、人を探しに行くということは現実的じゃないと今の僕にはわかった。

(もう少し待とう)


────


しかしその機会はすぐにやってきた。

お城から兵隊さんがやって来て、領主様と一緒に家にやって来たのだ。

「ダッドよ、お前の息子が選ばれたぞ!めでたいな!」

領主様はお父さんに手紙を渡した。

お父さんはそれを読んで膝から崩れて床に手をついた。

「悲しむことはない!誉れじゃ!この街から勇者候補が出るなんて、初めての快挙じゃ!」

領主様と兵隊さんはそう言って、笑いながら去って行った。


手紙を見た両親は肩を抱き合って泣いていた。

嬉し涙ではない。

悲しい涙を流していた。


「どうしたの?」

お姉ちゃんは僕の手をギュッと握り、泣く二人の元に向かうとそう聞いた。

「ソラが…私たちのソラが…勇者候補に…なんてことでしょう…」

僕もお姉ちゃんも何のことかわからず、ポカンと泣く二人をただ見つめた。


落ち着いたお父さんは僕とお姉ちゃんを椅子に座らせて話を始めた。

「驚かせてごめんな。」

お父さんはさっきもらった手紙を見せてくれた。

そこには僕の名前と勇者候補生として学園に迎え入れると書かれていた。

学校に入学できるというようなことが書かれ、家には大金が贈られると書かれていた。

「僕、行かないとダメなの?ここにいちゃダメなの?」

「ソラ、ごめんよ。王様の命令なんだ。」

お父さんは俯いてしまった。

「ダメよ!ソラは私と一緒に街の学校に行くのよ!」

「リノ、ごめんな。この命令には逆らえないんだ。逆らったら…」

お父さんはまた涙を流した。

「家族みんな殺されるかもしれない。」

お父さんは小さな声でそう言い切った。

「逃げましょう!みんなで!この街を出るのよ!!」

お母さんはテーブルを叩いてそう言った。

お姉ちゃんも「それがいいわ!」と言った。


「待って、ダメだよ。僕のためにそんなことさせられないよ。」

僕は涙を流すお父さんの手をとった。

「別に死ぬわけじゃないでしょ?学校に行くだけでしょ?」

「厳しい学校だって聞くよ。毎年何人も命を落とすって。」

「大丈夫だよ。僕は天才だから、うまくやるよ。」

僕がそんなこと初めて言ったから、みんなは驚いていた。

「勇者候補ってことは勇者じゃないかもしれないんでしょ?違うってわかったら家に帰れって言われるよ。」

「まぁ、そうかもしれないが。」


「心配してくれてありがとう。僕はお父さんもお母さんもお姉ちゃんも大好きだから、何があっても頑張れるよ。」


その日、僕たち家族はお父さんとお母さんのベッドをくっつけて4人でくっついて寝た。

家族って温かいものなんだって実感した。


────


そして僕は勇者候補生として、6歳になった今、王都にあるミドリング学園に入学した。


─────


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