幼馴染に罵倒され続けた俺は幼馴染を好きになった
「おーい!地味でフツメンでモテない大和ー!」
「こ、こら。香織、そんなこと言っちゃダメでしょ」
「…朝から何」
俺はそんな声に不機嫌になりながらそう返す。そこにはモデル顔負けの美少女が2人いた。しかも瓜二つの。
「いんやー?私は学校で超モテてるのに幼馴染である大和は全然モテてないからさー?ちょっと同情しちゃったんだよねー」
ニヤニヤと笑いながらそんなことを言ってくるのは幼馴染の清水 香織。
「ご、ごめんね大和。香織がそんなこと言って…」
そう言いながら香織をなだめているのは香織の双子の姉で俺の幼馴染である清水 詩織。
「あぁ、別になんとも思ってないから大丈夫だよ」
俺は詩織に笑いながらそう言った。
「む、ほんとになんとも思ってないのー?」
香織はニヤニヤとした顔を崩さず俺の顔を覗き込んでくる。…流石にイライラする。
「思ってないよ」
少しだけ強くそう言う。
「ぷぷぷっ、やっぱり悔しいんじゃん。顔に出てるよ?大和みたいな馬鹿なんて好きになってくれる人居ないんじゃない?」
香織は楽しそうに笑いながらそう言ってくる。この香織のいじりは中学生の頃から始まって高校2年生になる今でも続いている。流石にそろそろ鬱陶しい。
「だからやめなって…ほんとにごめんね」
だが辛うじて僕は香織のいじりに耐えられている。なぜならそれは詩織がいるから。詩織は僕の心の癒しだ。だから俺は何とか頑張れている。そしてそんな詩織に惹かれてしまっているのは仕方のないことだろうと俺は思う。…中学生の時までは香織が好きだったけど。
活発な彼女の眩しさに俺は惹かれていたんだ。今ではそんなことないけど。
「詩織が謝ることじゃないよ」
俺は詩織に笑顔を向ける。
「…」
それを見ていた香織が頬を膨らませる。
「なんだか面白くない」
「なんだよそれ…」
俺は少しの呆れを含みながらそう言う。
「面白くないものは面白くないの」
そう言った香織はずんずんと先に進んで行ってしまった。
「どうしたんだろう…」
俺の小さな疑問に詩織が答える。
「さぁ…どうしたんだろうね」
詩織も分からないようだ。当たり前と言えば当たり前だ。いくら双子で似ていると言っても相手の思考を読めるわけじゃない。
「俺たちも行こうか」
「そうだね」
俺たちは笑い合いながら学校を目指した。そして俺は密かに決意する。今日、詩織に想いを伝えると。
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私は大和が好きだ。いつも優しい大和が好き。それはもう独り占めにしたいほどに。
素直にこの想いを伝えたい。でも素直になれない私は今日も大和に思ってもいないことを言って誤魔化す。
私が思ってもいない罵声を大和に浴びせると大和は怒りと悲しみが混ざったような表情になる。その顔を見て私は毎回後悔する。そして次は絶対に素直になろう。そう決意するのに結局はダメ。やっぱり素直になれない。
どうして素直になれないの?中学生の時まではそんなことなかったのに。
純粋に大和との時間を大切にしていたあの頃。大和が私に笑いかけ私も大和に笑いかける。そんな夢のような幸せな時間だった。でも今はそうじゃない。どう考えても悪いのは私だ。でも大和もちょっとくらいは気づいてくれてもいいんじゃないの?私が大和のことを好きだってことを。
幼馴染だった私たちは小さい頃からずっと一緒にいた。詩織と私と大和の3人で朝から日が暮れるまで遊んだ。私はその時からずっと大和が好き。大好き。小さい頃はこの感情が何か分からなかったけど今ならはっきりと分かる。私は大和に恋をしているんだ。
きっとそれが確信に変わったのが中学生の中頃。その時から私は恥ずかしさを紛らわすために大和に思ってもいないことを言うようになった。
当然詩織にはどうしたのか聞かれた。その時私は咄嗟に嘘をついた。思っていることを言っただけだと。そう言ってしまったのがいけなかったのかもしれない。私は既に後に引けなくなっていた。
当然大和は困惑していた。私の口から出る初めての言葉。罵声。最初のうちは私の機嫌が悪いのだろうと思っていた大和も、しばらくしたら呆れだした。またか…そんな目を私に向けるようになった。そんな目を向けられた私は心臓がキュッと締め付けられるような感覚に陥った。
嫌だ。大和に嫌われたくない。それでも私の口から罵声が止むことはなかった。
それが今まで続いた。流石にそろそろやめないと大和に愛想を尽かされてしまう。そんなの嫌だ。私は大和の隣で笑っていたいんだ。だから、今日の放課後私は今までの事を謝って告白する。
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私は幼馴染の大和に恋心を抱いている。それがいつからの恋心なのかは覚えていない。でも大和との思い出は全て覚えている。
大和が公園ではしゃぎすぎて転んだことも、大和とお泊まりした時に私がおねしょをして泣いてしまったことも、家のお風呂で香織と私と大和がぎゅうぎゅうになりながらも一緒に入ったことも…全てが昨日の事のように鮮明に思い出せる。
だからこそ分かっている。私が選ばれないことは。だって大和はずっと香織に恋をしている。それがわかったのは中学生になった頃だった。大和が私と話す時と香織と話す時で少し声のトーンが違った。私は仲のいい友達のようなトーン。香織には少しの緊張を孕んだ少し高めのトーン。私はショックだった。ずっと一緒に居たのに。香織とほとんど一緒の見た目なのに。どうして私じゃないの?どうして香織なの?
なんど自問自答を繰り返したか分からない。そして結局答えは分からなかった。だから私は諦めた。そして香織を応援することにした。
大好きな大和が幸せになるならそれでいい。そう思ったから。でも香織は変わった。何故か突然大和に罵声を浴びせるようになった。私は何故かと問い詰めたがはぐらかされてしまった。
私は香織の考えていることが分からなかった。きっと大和は今でも香織のことが好きなんだろうな。でも大和は私にも優しく接してくれる。その優しさに触れる度に大和を好きになってしまう。諦めたはずの恋心が大きくなってしまう。
きっといつかは大和と香織はくっつく。ならそれまでは大和との思い出を作っても誰にも文句は言われないよね?
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俺は詩織に告白をするために昼休みの間に詩織の下駄箱に手紙を入れて置いた。差出人を書かずに放課後に屋上に来て欲しいというメッセージを書いた手紙を。
今は技術が発展してスマホのメッセージなどで告白をしたりすることも増えているそうだが、俺はそんな簡単に済ませたくなかった。ちゃんと向かい合って気持ちを伝えたい。そう思う。
午後の授業は全く集中出来なかった。心臓がバクバクと拍動して落ち着けない。
そんなふうに落ち着きなく授業を受けていると6限目の終業を告げるチャイムが学校に鳴り響いた。
その後、ショートホームルームが終わると詩織が近寄ってきた。
「大和。帰ろ」
そう言ってきたが俺はその誘いを断る。
「ごめん。ちょっと用事があるから今日は先に帰っててもらえる?」
そう言うと詩織は少しだけしょぼんとしていた。
「そっか…用事があるなら仕方ないね。分かった。今日は先に帰るね」
そう言って詩織は下駄箱に向かった。詩織の姿が完全に見えなくなってから僕は息を吐いた。
「ふぅ…さて、俺も屋上に行くか」
そう言って屋上を目指した。
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「ね、ねぇ」
私はカバンも持たずにどこかに行こうとしている大和を呼び止めた。
「香織?何?」
大和はどこか緊張したような面持ちでそう聞いてきた。どうしたんだろう?でも私もそんなことを気にしていられないほどに緊張していた。
「い、今から時間ある?あるなら屋上に来て欲しいんだけど…」
だから勢いだけでそう言い切る。
「ごめん。今日はちょっと用事があるから」
大和は緊張したような表情のままそう言った。
「そ、そっか。用事じゃ…仕方ないよね」
そこで会話は終わった。私は遠くなっていく大和の背中を見ながらどこか安堵していた。
気持ちを伝えるのは明日にしよう。そう考えての安堵。そして私は自己嫌悪する。何が明日にしようだ。私はそうやって今までも先延ばしにしてきた。その結果が今の現状なのに。この期に及んで明日にしようなんて考えている自分に酷く腹が立った。
「私ってどうしようもない…」
しばらく教室の自席でぼーっとしていた。だがあることを思いついた。
「明日のために下見にでも行こ」
私は明日屋上で大和に告白する。そう決意するために屋上に下見へ行く。そう決めた私は屋上へ向かって歩みを進めた。
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「用事かぁ…用事なら…仕方ないよね…」
私は自分を納得させながら下駄箱に向かった。納得させるといったがやはりまだ心の底では納得出来ていなかった。せっかく大和と一緒に帰れると思ってたのに…
大和との時間は無限じゃない。有限なんだ。そのうち香織と大和は恋人同士になる。そうなったらきっと私はショックで何週間か立ち直れないと思う。だから今のうちに思い出を作って起きたかったのに…
しょんぼりしながら下駄箱に向かい、自分の名前か書いてある下駄箱を開ける。そこには学校指定のローファーがあった。もちろん私の物だ。それだけならいつも通りの光景だった。でもいつも通りじゃない物が一枚あった。
「これは…手紙?」
私は1つの可能性が頭をよぎった。
ラブレター。
自慢じゃないが私と香織はよくモテていた。でも香織も私も全ての告白をことわっていた。香織は何故か知らないけど、私は大和が好きだったから。だからずっと告白を断っていた。きっと大和は私に振り向いてくれない。わかっている。それでも私は告白を断っていた。だって気持ちは大和に掴まれたままだから。
「…」
私は無言でそのラブレターを開いた。そこには屋上に来て欲しいとの旨が綴られていた。差出人は…不明。どこにも名前が書いていなかった。
「…行かないとね」
もちろん告白は断るつもりだ。このまま屋上に行かなければ相手はきっと私に振られたんだと思って諦めてくれるだろう。でも私はそんな不誠実なことはしたくなかった。もちろんラブレターでは無いかもしれない。それでもちゃんと相手と対面しなければ失礼だ。
だから私は屋上に向かって歩みを進める。
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屋上で詩織を待つこと数分、屋上の扉がゆっくりと開いた。そこから見慣れた顔がこちらを覗いた。詩織だ。香織も瓜二つだが俺は絶対に見分けられる。絶対に間違えない。
詩織は俺を見つけると驚いたような表情になった。
「や、大和?どうしてここにいるの?」
詩織は困惑したような顔をしながら俺にそう聞いた。
「…手紙、下駄箱に入ってたでしょ」
「手紙って…あの手紙、大和が入れたの?」
「そうだよ」
詩織の疑問に答える。
「どうして私をここに呼んだの?」
そう聞かれて少し深呼吸をする。そして言葉を発する。
「詩織。俺は君が好きだ」
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私は教室から出て屋上に向かっていた。学校が終わってから数十分経った校内には人の姿は無く、私の歩く音だけが反響していた。
屋上に向かうために階段を1歩1歩登る。屋上までにはかなりの数の階段を登らなくてはならない。少し息を乱しながらもようやく屋上の扉の前に立った。
その扉を開けようとしたところで私は手を止めた。外から微かに声が聞こえてきたから。
私はいけないと分かっていながらも好奇心に負けてしまい耳を扉に当てた。
「どうして私をここに呼んだの?」
それは詩織の声だった。何年も一緒にいてずっと聞いていた声。聞き間違えるはずがない。
「詩織。俺は君が好きだ」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が激しく拍動し、階段を登って乱れていた息が先程の比にならない程に乱れる。
その声には聞き覚えがあった。大好きな人の声。ずっと聞いていたい声。
私はその声の主をよく知っている。そして詩織同様聞き間違えるはずがなかった。だって小さい頃からずっと一緒に育ってきた大切で大好きな幼馴染、大和の声だったから。
「…え?や、大和?何言ってるの?」
「言った通りだ。俺は詩織が好きだ。だから俺と付き合ってくれ」
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!聞きたくない!聞きたくないのに大和の声はするりと私の耳に入ってくる。
「や、大和は香織が好きだったんじゃないの?」
ダメ。これ以上聞いたらダメ。本能ではそう分かっているのに体が動かない。もしかしたらと少し期待してしてしまっている自分がいる。きっとそんなことないのに。
「…前までは好きだったよ。正確に言うなら中学生の時までは」
でもそんな私に突きつけられたのはもっと残酷な事実。少し前まで大和は私のことが好きだった?そん、な…じゃあ私は…私は一体何をしていたの?
放心状態に陥る。
「中学生の中頃から香織は俺を罵倒するようになった。俺はそれが辛かったんだ。でもそんな罵倒を耐えられたのは詩織のおかげなんだ」
「私の…おかげ?」
「うん。香織が変わっても詩織はずっと変わらず俺と接してくれていた。それが俺を支えてくれてたんだ」
私は声も上げずに泣いた。結局は自業自得だった。私が素直になっていればこんなことにならなかった。素直にさえなっていれば今頃告白されていたのは私だったかもしれない。
何度も何度も頭の中であの時こうしていれば、と考える。でも過去は変えられない。私はもうどうしようもないんだ。
本当にどうしようもなくて救いようのない愚かな女。私は自らチャンスを逃しただけじゃなく、2人を結びつけてしまった。
「あはは…好きだよ。大和」
私は渦巻く後悔の中で1人小さくそう言った。当然この声は誰にも届かなかった。
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「中学生の中頃から香織は俺を罵倒するようになった。俺はそれが辛かったんだ。でもそんな罵倒を耐えられたのは詩織のおかげなんだ」
「私の…おかげ?」
「うん。香織が変わっても詩織はずっと変わらず俺と接してくれていた。それが俺を支えてくれてたんだ」
大和にそう言われる。当然嬉しい。飛び跳ねて喜びたいくらいに。でも
「…本当に私でいいの?」
「どういうこと?」
大和はそう聞いてくる。
「私は……私は香織の代わりにはなれない。活発な女の子じゃない。どっちかと言うとあんまりはしゃいだりしないよ?正直香織と私じゃ全然性格が違うと思う。それでもいいの?」
私は恐る恐るそう聞く。ここでやっぱり…と言われても私はそれを受け入れるつもりだ。だって大好きな人には本当に幸せになって欲しいから。大和が口を開く。それに伴い私の心臓はバクバクと音を立てながら加速する。
「俺は香織が好きなんじゃない。ましてや他の子が好きな訳でもない。詩織が好きなんだ。だから…俺と付き合って下さい」
大和が緊張と恥ずかしさを綯い交ぜにしたような表情でそう言った。その告白の返事はもう決まっている。
「はい!喜んで!」
時には素直になることも大切だよ、というお話でした。
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