新たな一歩
宿で少し休憩した後、俺は冒険者ギルドに向かった。
最終的な目標は魔王を倒す事だが、そのためには強さだけではなく資金も必要だ。しばらくは冒険者としてクエストをこなしながら、モンスターを討伐して金とレベルを稼ぐことになるだろう。
ジョブのレベルが上がれば、スキルの習得だけでなく、ジョブに合うように肉体が強化される。
例えば高レベルの前衛職ともなると、素手で鉄を砕けるほどの腕力や、生身でナイフを受け止めて傷一つつかないような耐久力を持っている。魔法職であれば、天変地異のような強力な魔法を操ることができ、ほとんど隙を作らずに魔法を連発できる集中力や詠唱速度を持っている。
戦闘職以外からのすれば正直なところどっちがモンスターだと言いたくなるほどの強さだろう。
とはいえ、極めて高レベルの農家がクワを一振りして、見渡す限りの荒地を全てふかふかの土にしたという話もある為、高レベルであればジョブ関係なく想像を絶する力を持っていると言える。
女神様に聞いたところ、勇者はいわゆるバランス型の成長タイプらしく、戦闘に関係ある能力ならどれでもそこそこ伸びやすいらしい。良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏といった感じのようだ。
普通の冒険者としてパーティを組もうとするなら、もっと1つの能力に特化したジョブを集めて、それぞれの得意なことを担当して、苦手を補い合うような形が理想的だろう。
そうなると、普通なら勇者であっても何か1つ得意を作った方が良さそうだが…… つい先ほど魔王戦はソロという話を聞いてしまった以上そんなセオリーは関係ない。もう器用万能目指して頑張るしかない。
そんなことを考えながら歩いているうちに冒険者ギルドに着いたので、早速冒険者登録を行うことにした。
前世と同じように契約書にサインをしたり、ギルド内の施設について軽く説明を受けた後、冒険者のライセンスカードを渡される。本当は戦闘技能テストに合格しないと、ライセンスをもらえないが、レベルが1ではなく、既にモンスターを討伐できていることから免除になった。
「お疲れ様でした。こちらがライセンスです。勇者であればあまり関係ないとは思いますが、Cランクからのスタートですね。頑張って下さい!」
確かに勇者であれば、絶対に魔王に挑む必要があることと、無制限に蘇生を受けられることから、特例で上のランクのモンスターがいるエリアでも自由に立ち入ることができる。だが、それにしても――
「Cランクから? こんなに高いランクから始めてしまってもいいんですか?」
もう前世の3つ上のランクになってしまったようだ。本当に大丈夫かちょっと心配になる。
「ああ、勇者様の居た世界でも、やはりもっと下のランクがあったのですね…… こちらの世界では、通常より短い期間で一気に魔王が復活した影響で急激にモンスターが強くなってしまったのです」
「それによって、Dランク以下の冒険者たちが勝てるようなモンスターはほぼいなくなってしまったので、最低ランクをCランクとして、そのランクに満たない冒険者志望の方は、訓練所で訓練してから冒険者になる決まりになっています」
確かにあのスライムがうろついていたら、前世の俺では手も足も出ないだろう。それにアナライズと女神様の助言がなければ、今の俺でも討伐出来なかった。なかなか厳しい世界だ。
「分かりました。ありがとうございます。早速ですがこちら買い取ってもらえますか?」
インベントリからアダマンスライムのパウダーを取り出してみた。
スライム搾り機を使った時に女神様に教えてもらったが、インベントリに入れたものはしばらく経つと、自動で使いやすいように小分けにされたりするようだ。このパウダーもインベントリに適当に入れたが、いつの間にか袋にまとめられている。
「はい、中身を確認させて頂きますね! ……これは、アダマンスライムのパウダーですね! 流石勇者様です! あのタフで魔法しか効かないモンスターをもう討伐なさったのですね! こちら2000Gとなります。」
前世で討伐していたスライムの10倍くらいで売れた。受付の反応から察するに、この辺りではわりと強敵なのかもしれない。
(1体でこんなにいい報酬をもらえるなんて…… 倒し方は知ってるし、積極的に討伐していこう)
報酬を受け取って、ポーションを数本買ってからこの周辺のモンスターを倒しに行くことにしたのだった。