隠された昔話
「さて、それじゃあ第二部を始めようか。みんな怖い話って言ってるけどね、凄く大事な話なんだよ。本当は早くこっちの方を知ってた方がいいと思うんだよね。旅人さんもこれがただの楽しい祭りではないことがなんとなく分かったと思うけど、この先もその気があるならぜひ知ってほしい」
流れで残ることになってしまったが、ここまで真剣な様子を見ると、怖くても真面目に聞くべきだと感じさせられた。それに、何が怖い部分なのかうっすらと心当たりがある。
どちらにせよ、ここまで来たのだから全てをはっきりさせていきたい。
「昔、星読みと言って、星の瞬きや動きから様々なことを読み取れる人々がいた。特に流れ星は神様からのお告げと言われていた。そしてある日、ひと際強い輝きを放つオレンジ色の流れ星が現れた。それによると、近々この世界を大きく変える子供が2人生まれてくるという内容だった。」
「それって、2人の王子様のこと!?」
子供が少し興奮気味に質問した。
「そうだと言われているね。さっきの話にも出てきた通り、どちらの王子様も不思議な力を持っていた。実際に世界が大きく変わったかについてはこれから話していこう」
「海に行くまではさっきの話と変わらないから……」
紙芝居の最初の方のページを何枚かめくって準備している。
「よし、ここから始めようか」
そうして出てきたページには見覚えのある小屋。あの海岸のボロ小屋に似た小屋が描かれていた。
その窓はしっかりと板でふさがれていた。
「獣の王子が浜辺を歩いていると、奇妙な小屋があることに気づきました。小屋の窓は何枚かの板で塞がれていて、中がよく見えませんでした。どうしても中が気になった王子は板の隙間から中を覗くことにしました」
「そうして中を覗き、暗闇に目が慣れたとき、窓の向こうから緑に光る両目がこちらを見つめていることに気づきました。王子は、はっと息を呑んで少し後ずさりしましたが、勇気を出して声をかけました」
もうこの時点でかなり恐ろしいが、獣の王子の行動力の高さにも多少の恐ろしさを感じる。
「王子は名乗ってから相手が何者なのかを尋ねました。そうすると、なんと驚いたことに相手も王子だったのでした。なぜこんな場所にいるのかと尋ねると、水龍の王子は自分に強い呪いがかけられていて、周りに迷惑になってしまうからここに一人で住んでいるのだと言いました。」
「獣の王子はそれを気の毒に思い、色々な薬草を使うことを提案してみました。しかし、呪いにはどの薬草も効かないようで、どんどん悪化した結果離れて暮らすしかなくなったようでした」
「悩みに悩んだ獣の王子は、一人ではつらいだろうからと思い立ち、気晴らしの話し相手になることを提案しました。水龍の王子は少し驚いたようでしたが、提案を喜んで受け入れました。そうして二人は度々会って話すようになりました。」
先ほどの話と違って二人はまだ直接会っていないようだった。容姿がわかっているということはこの話でも直接出会うのだろうが、呪いは大丈夫なのだろうか。
「数週間後、獣の王子は中にいてばかりでは体にもよくないだろうからと外に出ることを提案しました。この頃、獣の王子は日々の特訓のおかげで呪いを浄化できるようになっていました。直接会うついでに呪いも解こうと考えていたのです。」
「獣の王子は、自分は呪いに強い体だから心配せず出てきていいと言いましたが、どうにも水龍の王子にはドアが重すぎて開けられないようでした。そこで獣の王子が気合を入れて扉を開けましたが、その扉は拍子抜けするほど軽かったのです。獣の王子は不思議に思いましたがすぐにその意味を理解しました。」
「小屋から水龍の王子がふらつきながらようやく出てきました。その手足は枝のように細く、青黒く爛れていました。目もぼんやりと遠くを見ているようで、顔色も血の気を全く感じさせない青白さでした。その姿を見て獣の王子はぞっとしました。本で見たどの症状よりも悪く、死んでいないのが不思議なほどでした。しかし、水龍の王子はこれがいつもの調子だと言うのでした」
素人目に見ても確かに水龍の王子はかなり容体が悪そうだった。これでも耐えられるのはやはり不思議な力を持っているためなのだろうか。
「特訓した通り浄化を試したところ、少し気分がマシになったようでしたが、それが本当か気遣いかは獣の王子には分かりませんでした。それからは会うたびに浄化をするのが習慣になり、獣の王子も皆に信頼される程の腕前になっていましたが、それでも水龍の王子を癒すことはできませんでした。」
「二人は普段、獣の国の出来事や気にいった本の話などをして、たまに水龍の王子が獣の王子の悩みを聞いて助言することもありました。ただ、日が立つと水龍の王子が自分の非力さを嘆くことも度々ありました。そんなある日、初めて水龍の王子が自分の家族について話し始めました。」
「自分の代わりに同じ日に生まれた従兄弟が次の王になるだろうということ、妹が元気で暮らしているか心配だということ、そして自分にもしものことがあったらと言いかけましたが、その言葉は獣の王子に遮られました。しかし、獣の王子から見ても状況が良くないことは明らかでした。呪いの状態は悪化している一方で出会った時から身長が全く伸びていないのでした。」
呪いを跳ねのける獣王の力もかなり凄いが、それでも解けない呪いはどれだけ強力なのだろうか。
そして水龍の王子はもう長くは持たないのだろう。怖いというよりは悲しい話のように感じる。
「さらに月日が立つと、獣の王子もどんどん忙しくなり、会える回数が減って行きました。その頃になると水龍の王子は、ほとんど動けず、目も見えず、話すことも厳しい状態になっていました。国一番の浄化の腕前を持っても治らない呪いを前に獣の王子は自分の無力さを嘆きました。」
「さらに、水龍の王子には時々家族から手紙が届いていたのですが、この頃には一枚も届いていませんでした。彼が家族にまで見放されたと感じた獣の王子は、せめて自分だけは最期まで見届けようと決意を固めましたが、その分出会えない時間をとても辛く感じるようになりました。」
「ある日、獣の王子は急にとても嫌な予感がしました。全てを放り出し、とにかくあの小屋へ急ぎ、飛び込むと、そこには辛うじて人型をしているような恐ろしい影の怪物になった水龍の王子が座っていました。思いもよらない光景に獣の王子はすっかり固まってしまいました。そして、水龍の王子は今までとは全く違い、恐ろしく、はっきりとした声で話し始めました。」
「『ようやく自分が何をするべきかを理解した。水龍の国は邪悪にまみれ、いずれ他の国も食いつぶすだろう。その前にこの手で潰さなければならない。』水龍の王子が自分の国を潰すと言い出したので、獣の王子は酷く驚きました。」
「『バカな、なぜそんなことを…… そんなことをすれば君の家族も巻き込まれるだろう』『もう皆死んでしまった。この呪いも全て仕組まれていたことだった。守るものはもうない。消すべきものがあるだけだ』水龍の王子の家族は彼を見捨てたわけではありませんでした。いわれのない罪を着せられ、皆死んでしまったのでした。獣の王子はもう何も言えなくなってしまいました。」
「『国を潰せばその余波で呪いが広がる。しかし、君の国を汚すわけにはいかない。地を裂きそこに川でを流し、穢れを止めよう。この身がどうなろうと、私は全ての邪悪を押し潰すことを約束しよう。君と民が善きものであり続けるなら、私は地獄で全ての罪人を焼き続けるだろう。もし、君と民が幸福を失い、苦痛から逃れられなくなった時は、私が全てを飲み込み消し去ろう』それだけ言い残すと水龍の王子はドロリと溶け出し消えてしまいました。」
「そうして正気に戻った獣の王子が慌てて小屋の外に出ると、先ほどまで晴れていた空がすっかり闇に包まれていました。それに驚いていると、今度は真っ黒な海から信じられないほど巨大な怪物が現れました。その怪物はゆっくりと水龍の国の方へ迫って行きます。」
「その怪物を止めるべく赤い雷が天から降り注ぎますが、それでも止まりません。一歩ずつ一歩ずつゆっくりと浜へ向かって進んでいきます。そうしてひと際大きな雷が怪物の首を落としましたが、その体は呪いの波となって水龍の国をすっかり飲み込みました。ほとんどの人々は狂気に陥り、苦しみもがきながら呪いに蝕まれ死にました。生き残った数少ない人々も生涯悪夢に苦しめられたそうです」
「獣の王子は怪物に驚いていましたが、川ができることをすぐに思い出し全力で自分の国に戻ると、民を避難させました。そうして誰も災害の犠牲になることはなく、暗かった空もようやく元に戻りました。」
突然の展開に驚いたが、確かにこの内容は恐ろしい。
やはりあの浜辺の小屋と廃墟はこの物語に出てきた水龍の国のものだったのだろう。
「水龍の王子は怪物となって死んでしまいましたが、その魂は夢を通じて人々を見守っていおり、悪い子は悪夢の世界に連れ去られると言われています。そして、年に二回地獄から地上の様子を見に戻ってきます。この時に幸福な様子を見せて王子を安心させ、花を流して王子の魂を慰めるのが花祭りの始まりとなったのでした。おしまい」
周りを見てみると、子供たちは皆声も出せずに泣いていた。確かにこの内容は事前に止められるだけの恐ろしさがある。しかし、確かにしっかりと知っておくべき内容だと感じた。
「余談だけど、神の使いであるオレンジ色の流れ星はこの件を後で蒸し返されて粉々にされて地上にばらまかれたことになってる。それが外にいる炎の幽霊に変わったと言われているけど、まあ、あれは魔王の影響だというのが分かってるから恐ろしいことはないな!」
原因がわかっていても恐ろしいと思うが、魔王の起源を考えるとこの話もあながち間違いではないような気がする。
子供たちは家に帰るようだったので、ここからは一人で祭りを回ることになりそうだ。
先ほど少女に教えてもらった話を参考に一通り見て回ることにした。
紙芝居の建物を出て少し歩くと、急に誰かがぶつかってきた。
転んだようだったので、手を差し伸べたところ、フードを被った子供だということに気が付いた。
彼は何者なのだろうか。




