獣人の町へ
エルフの森を後にして、0号に言われた通り獣人の町へ向かう。
他の町から行くよりここから直接移動した方が速いため、このまま歩いて行くことにした。
獣人は人間に近い見た目だが、動物の耳や尻尾などが生えている種族だ。さらに、自由にその動物の姿に変身することもできる。
寿命の長さも人間と同じくらいで長い方ではないが種族の歴史自体は長く、町を治める王族は神の血を引いているとも言われている。
エルフの森を抜けて歩いて行くと、少ししてまた森が見えてくる。
獣人の町、アニマリアもまた森の中にあるため、再び森の奥に進む必要がある。
森に入ると、また同じ景色かというとそうでもない。
このあたりの木の葉っぱは全体的に分厚くてツヤツヤしている。
何故こんな風になっているんだろうと考えていたが、その答えはすぐに分かった。
急に少し離れた所がパッと明るくなった。それと同時にこちらに火球が飛んでくる。
その方向には炎でできた幽霊のようなものがゆらゆらと浮いていた。
咄嗟に躱したせいで森が火事にならないかと思い、後ろを振り返ったが、火はあっという間に消えてしまった。このあたりの木はかなり燃えにくい特徴を持っているようだ。
幽霊に向き直って、ウォーターアローを放つとまさに火に水をかけたように搔き消えてしまった。
倒すことはできたようだが、跡形もなく消えてしまったため、収穫がないのは少し辛い。
そうしていくらか幽霊を捌いていたが、ようやく別のモンスターが現れた。
その姿は大きなカマキリのようだった。じっとこちらを見据えており、こちらの様子を伺っている。
モンスターの名前は心眼カマキリ。攻撃を見切って反撃するのが得意らしい。
試しに剣で切りかかると、まるで少し先の未来を見ているかのような正確さで攻撃を弾き、その隙を狙って反撃してくる。アナライズした説明に偽りはないようだ。
一方で反撃が得意なせいか、しっかりと目を合わせていれば特に向こうから仕掛けて来ないようだ。
このまま逃げることもできそうだが、このモンスターのスキルは有用そうな気がする。
先ほど、剣技は防がれてしまったが、果たして魔法はどうだろうか。
慎重に後ろに下がり、ライトアローを放つと今度はそのまま直撃した。
どうやら近距離攻撃以外は感知するのが苦手なようで、攻撃に驚いたのか闇雲に両腕を振り回している。
暴走に巻き込まれないように距離を取り、ライトアローを当て続けることでなんとか討伐することができた。
取れるスキルは予想通りカウンター。体が勝手に動いて攻撃を跳ね返せるようだが、カマキリ同様近距離攻撃にしか反応できず、連続使用もできないため使いどころは考える必要がありそうだ。
次の魔王は恐らく遠距離主体のため使う機会はなさそうだが、どこかで役に立つだろう。
カマキリを倒してしばらく歩くと、ようやく森が終わりたくさんの建物が見えてきた。
周囲を森に囲まれた町、アニマリアにつくことができた。
ここの町もエストポルト同様に何か祭りをやっているようで、町の入り口にも花が飾られていた。
町の中に入ると、やはり人々は花を良く持ち歩いているようだった。
そういえば、この時期に川に花を流す風習があったのはこの町だったことを思い出した。
彼らは何を願って花を流しているのだろうか。
「わー、人間だ! おにーさん、こんな時期に来たってことはお祭り目当て? 初めてだからわかんない感じ? あたしが案内してあげる~」
どこに行こうかと考えているうちに元気な女の子が話しかけてきた。
尖った耳と太い尻尾から見るに狐の獣人だろうか。案内してもらえるのは確かにありがたい。
「ありがとう。それじゃあどこが会場か教えてくれる?」
「オッケー、お祭り会場はこっちだよ!」
教えてもらうだけに留めようとしたが、少女はこちらの手をグイグイ引っ張って会場の方に走り出す。
「このあたりの屋台の食べ物は全部美味しいからオススメ! あたしはここの飴が好き! それで、あっち側でね、川に花を流せるの! 平和で暮らせますようにってお祈りしながらね!」
止まることを知らない解説を受けながら歩いていると、急に少女が何か思い出したように走り出した。
「あっそうだ、紙芝居見に行かなきゃ! あたしたちは毎年見てるけど、おにーさん見たことないでしょ? せっかくだし一緒に行こ!」
(毎年内容が同じということは、この祭りと何か関係があるのか? 急ぎの用事もないし、そのままついて行くか)
少女に連れられて建物に入ると、中にはたくさんの子供たちが座っていた。
さらに奥には少女が言った通り紙芝居を用意している男性がいた。
「おう、やっと来たか。もう始まるぞ。……おや?そっちにいるのは観光のお客さんかい? この子に振り回されて大変だったでしょう。もし良かったらこの紙芝居でも見て行ってください。お祭りの起源となった2人の王子の話です。」
ちょっと子供たちに混じるのは落ち着かない気もするが、せっかくなので紙芝居を見せてもらうことにした。
こういう場にいると少し孤児院時代を思い出す。
「それじゃあ、"二人の王子と花祭り"のはじまりはじまり」
「むかーしむかし、今でいう村ぐらいの小さな国がたくさんあったころの話。獣の国には一人の王子様がいました。今の獣王様のご先祖さまだね。」
出てきた絵には褐色の肌で真っ白な髪、牛のような角を持つ少年が描かれていた。
「とても優しくて利口な王子様でしたが、好奇心旺盛なところもあり、絵本で見た海を実際に見てみたいという気持ちが抑えられませんでした。そこで、お城をこっそり抜け出すと羚羊に変身して海に向かって走り出しました。獣王様の一族はどんな動物にも変身できるんだよ」
絵には全身真っ白な羚羊が元気よく駆け出していく姿が描かれていた。ここから子供一人で海に行くのは少し大変な気もするが、凄い行動力だ。
「しばらく走ってようやく海に着いた時、王子は初めて見る海の美しさに感動しました。そうして海を眺めていると、一人の少年が声をかけて来ました。驚いたことに彼は水龍の国の王子でした。2人の王子はすぐに打ち解けて、それから時々会うようになりました。」
描かれたもう一人の王子は長い黒髪に青白い顔が特徴的だった。奇妙なことに何故かこの姿に何か見覚えがあるような気がする。
「水龍の王子はとても賢く、いつも獣の王子の悩み事もすぐに見通して、良い助言を授けてくれました。しかし、水龍の王子はとても体が弱くあまり遠くに行けなかったため、獣の王子から森の話を聞いたり、好きな本について話し合うのが何よりも楽しみでした。」
「しかし、そうした日々も長くは続きませんでした。水龍の王子はついに重い病気かかり死んでしまいました。最後に水龍の王子は自分の分まで多くの人を救う立派な王様になって欲しい事、獣の国のそばの地面が割れて、川ができるので避難する必要があることを言い残しました。そして、助言に従って民を避難させたところ、誰も災害に巻き込まれずに済みました。」
「そうして、獣の王子は親友である水龍の王子が安らかに眠れるように、故郷の海へ届くよう川から花を流すことにしました。こうして、今でもこの国では世界の平和を祈り、花祭りを行う習慣が残ったのでした。おしまい。」
紙芝居が終わり、現実に引き戻される。
この祭りは海神祭とは違い、神様ではなく亡くなった水龍の王子のために行われていたようだ。
国の風習になるくらいだから相当獣王にとって大事な存在だったのだろう。
「ねぇねぇ、この話ってさー、なんか怖いバージョンのやつがあるんでしょ? いっつもの奴じゃなくってさーそっちも聞いてみたいなー」
一人のやんちゃそうな子供が突然そう言いだした。
「おいおい…… お前毎年毎年そういうけど、来年になったら教わるだろ…… それに聞いたらみんな眠れなくなるぞ」
「一年ぐらい変わらないじゃん! それにさ、そこのにーちゃんめっちゃ強そうじゃん? どんなお化けが出ても平気でしょ?」
急に話を振られたが、怖いとわかっている話を聞きたいとは思えない。
「何、いい感じの装備してる癖にビビってんの?」
「いや、そんな別にそれくらいではビビらないと思うけど……」
「ほら、この人も聞きたがってるし、いいじゃん、せっかくなんだから。頼むよー」
なんだか勝手に聞く流れに持って行かれた。
「……そこまで言うなら特別だ。こっちの紙芝居はせっかく作ったのに使う機会もなかったからな。見たいやつだけ残れよー。めちゃくちゃ怖いぞ」
そう言うとほとんどの子供たちがいなくなった。自分は今更立ち去ることもできない。
恐ろしい昔話を聞くことになってしまった。




