最強! 料理開発
予定通り目覚められたことに安心して気づいていなかったが、いつの間にか手の中に何か握っていることに気が付いた。
手を開いてみると、小さな金属の板が出てきた。これを世界樹に持っていく必要があるのだろう。
ひとまず宿の外に出ると、昨日と同じようにフランが立っていた。
「来たわね! 早速ノイズバードを狩りに行くわよ! あなたならきっとできる!」
相変わらず元気なフランに連れられて森の奥に進む。
いくら適正があるからと言ってこんなに短期間の練習でうまくいくかはわからないが、やるだけやってみるしかない。
「いた。あの葉っぱの陰。毛玉みたいなやつよ」
言われた場所をよく見ると、人の頭ほどの大きさの毛玉のような生き物が複数固まっているのが見えた。
確かにあまり強そうではないが、弓で倒そうとすると的が小さくて大変そうだ。
幸い向こうはまだこちらに気づいていない。
一旦、深呼吸して心を落ち着ける。この森の澄んだ空気のおかげかだいぶリラックスできているような気がする。
そして、覚悟を決めてシャープシュートを放つ。
飛んで行った矢は見事に命中したようで、塊のうちの一羽が地面に落ちてきた。
それに驚いた他のノイズバード達が次々と飛び立っていく。
(このサイズじゃ一羽では足りないよな……)
飛び立った他のノイズバードにもシャープシュートを放つ。
先読みして撃ってみるものの、素早く不規則な動きのため追加で二羽仕留めるのみだった。
「すごい! 一箇所で一羽ずつって考えてたけど、これならもっと早く狩れそうね! それにしても、昨日よりさらに動きが良くなってる。夢の中で特訓でもした?」
「まぁ、そんなところですかね?」
「ともかく予想以上の成果よ! この調子で行きましょう!」
彼女にとってこの発言は冗談のはずだが、実態として夢の中の特訓という表現は間違いではない。
夢の中での戦いのせいかさらに弓が手に馴染んでいることが実感できる。
そうして、さらに二箇所のポイントを移動して合計10羽のノイズバードを仕留めることができた。
素早くて仕留めるのはやや難しいが、ここまで特に反撃を受けることはなかった。ランクが低いのも納得だ。
「これだけあれば十分ね! ありがとう! 今度は私が頑張る番よ! 最高の料理を作って見せるわ!」
丁度昼飯時ということもあり、フランの家で早速調理してくれることになった。
せっかくなので、ノイズバードの調理現場を見せてもらうことにした。
最初に羽を毟る工程から始まったが、この段階でもうかなり臭い。
急に大規模な獣の群れが突っ込んできて、すっかり踏みつぶされたような気分になった。
「ちょっときついけど、これぐらいなら消臭草を使えば何とかなりそうね。」
そう言って香炉のようなものを取り出し、点火するとすっかり臭いが消え去った。
これなら問題なく調理を続けられそうだ。
「消臭草は結構色んな所に生えてるから、モンスターを捌く機会があれば試してみてね」
実際にその機会があるかはわからないが、簡単に用意できるならレシピの普及についても問題なさそうだ。
臭いの問題も解決して、次々と羽のなくなったノイズバードが出来上がる。
改めてみると、羽毛のなくなったノイズバードは一回り小さくなっている。かなり羽毛のせいで大きく見えていたようだ。
「さて、まずは煮込み料理から試すわ! しっかり煮込めば柔らかくなるはずよ」
まずは、消臭草をはじめとしたこの森で取れる複数のハーブを混ぜた特性スパイスで味付けをしたスープが出来上がった。
元の臭みがすっかり消えて、複雑だが調和のとれたいいハーブの香りが漂ってくる。
実際に食べると、最初の臭みは一切感じさせず、柔らかくて食べやすい普通の鶏肉のようだった。
スープ本体の方も鶏肉の風味とマッチしていてとても美味しかった。
その後も肉を叩いたり、スライムゼリーをすり込んだりして柔らかさを確保しつつ、様々なハーブで臭みをカバーしてステーキ、サラダ、唐揚げを作り食べた。
いずれも手に入れやすい素材でできて、美味しいレシピだった。これで目標は達成のはずだったが……
「……美味しいけど、なんか物足りない。あなたもそう思う?」
「はい…… こんなに美味しいのに、何故か何かが足りない気がします」
以前の俺であれば間違いなくこれで満足できたはずなのに、何故か大事なピースが欠けているような違和感を感じる。
一体この違いは何なのだろうか。
「こんなこと言うのは変かもしれないけど…… 臭みが足りない?」
確かに、変な発言だ。あの恐ろしい臭いはない方が食べやすい。
そのはずだが、何故かこの言葉がしっくり来た。
「何故かは分かりませんが…… それが正しい気がします」
「私は臭いを消すことで食べやすくしようとしていた。それも確かに間違いではない。でも臭みのその先に更なる光があるはず! 臭みを生かすのよ!」
改めて元の臭い状態の肉に向き合う。
恐ろしい程の獣臭、しかし何故か癖になる。顔を背けたくなるはずなのに、どうしてもまた気になってしまうこの香り。
「やっぱり酷い臭い…… でも何か可能性を感じる。普通の食材ではこの臭いに負ける。つまり、同等かそれ以上の素材をぶつけるしかないわ!」
ノイズバードを解体して、肉と骨と内蔵を煮込み始めると部屋中に恐ろしい臭いが広がる。
そこにまた種類の違う臭いが漂ってきた。フランが鍋にキノコ、ニンニク、魚、脂の塊のようなものを追加していったのだった。
目まぐるしく香りは変わっていくが、その恐ろしさは変わらずさらに増し続けている。
最後に鍋に叩き込まれたマンドラゴラは臭いのあまりに叫ぶのを忘れてしまったのだろうか。
フランが見た光というのは本当に希望の星だろうか。いや、悪魔の眼光を見間違えたに違いない。
しかし、奇妙なことに先ほどまでの試食で膨れていたはずの腹が、胃袋が強烈にその臭いを欲しているのが分かる。
「さぁ、このスープを飲んでみて」
恐る恐るスープを飲んでみると、やはり恐ろしい臭いだ。しかし、それに釣り合う濃い味付けのおかげで恐ろしいバランスを保っている。
しかし、これほどの威容を持ちながら香りゆえに実体がないのがどうも気になる。
「仕上げにこれをつけて食べてみて!」
スープの中に複雑に波打った麵が投入された。
我慢できずに勢い良くすすると、しっかりと麵にスープが絡んでこの恐ろしい料理にしっかりとした実体が現れた。
実体のない恐ろしい悪魔がついに受肉して完全体になったのだ。こうなるともう誰も止められない。
もうすっかり限界のはずだが、どんどん食べたくなってしまう。
フランもただ黙々と麵をすすっていた。
しばらく二人で正気を失ったかのように麵をすすっていたが、流石に胃が限界になってようやく落ち着いた。
「これは…… とんでもない料理ね…… 間違いなく私史上最強の料理よ。これを宿屋で出せば間違いなく全ての冒険者を虜にできる…… 早速、試食させに行きましょう!」
思い返すとまだ全然正気ではなかったかもしれないが、俺達はこの最強の料理を急いで宿屋に持って行ってその場にいた人々に振舞った。
人々の反応は俺達とそう変わらなかった。皆、初めは拒否反応を示していたが、一度食べたらすっかり止まらなくなってしまった。
「……ふう、凄かったわ~。こんな料理が世の中にあるなんて…… さすがはフランちゃんね~。作るのも相当覚悟がいりそうだし、たまに作るくらいならやってみようかしら」
宿屋のエルフの言う通り、この料理を作るには相当覚悟がいる。
結局のところ、通常メニューには最初に作ったスープ、サラダ、唐揚げが採用されることになった。
そして、後から知った話だが例の料理は"エルフの最強悪魔麵"として不定期に提供され、コアなファンを獲得できたようだった。
また、これとは別に優しめの出汁で作った麵料理は"エルフの長寿麵"と呼ばれ、食べるとエルフみたいに長生きできると人気の料理になったようだ。
「色々あったけど、いい料理がたくさんできたわ! それもこれもあなたのおかげよ! ここで身につけた弓術を活かして魔王討伐も頑張ってね!」
こうして、弓の技術を身につけ、数々のノイズバード料理を堪能し、また次の目的地に向かうのであった。




