ドリームマッチ
「だーれだ?」
「えっ…… 誰……?」
先ほどまで女神様に呼びかけられていたはずが、今の声は全くの別人だった。
何処かで聞いたことがあるような男性の声だったが、咄嗟には思い出せなかった。
「まあ、一回しか会ったことないし、そうなるよね。」
視界がパッと明るくなると、正面には0号が立っていた。
うまく言い表せないが、以前より少し楽し気な雰囲気に見える。
「一体、何故ここにいるんですか? 本物の女神様はどこに?」
0号は夢を操ることができるため、夢に出てくるというのは可能だろう。
ただ、その動機が一切理解できなかった。
「君に倒されたから現実世界を歩けなくて暇だったんだ。理論上可能だけど、一応自分たちで作ったルールは守っておきたいからね。」
「女神の方は今寝てるよ。勇者召喚の反動がまだ全然抜けきってないからね。活動可能な時間は今もかなり少なさそうだね。」
「そうなると、暇だったから来たってことですか?」
「そう…… いや、違うかも。僕は凄く忘れっぽいんだ。でも今とりあえず何か君に話すことがあった気がすることを思い出し始めたよ。」
「それ、思い出すのにかかりそうですか?」
「どうだろう…… 少なくとも君の睡眠時間が過ぎたら諦めようとは思ってるよ。永遠に君を眠らせておくわけにはいかないからね。」
(最悪何時間コースとかになるんだろうか…… 面倒だな……)
とはいえ、上位存在から情報を得られる機会は貴重だ。重要な情報の可能性も十分にある。
「うーん全然わからない…… 何かヒントが欲しい…… 逆に質問してもらおうか。君に話したいことってことは君が聞きたいことのはず…… 何かない?」
顔の方は相変わらず笑顔(単なる基本の表情かもしれない)だが、声は少し困っているような雰囲気がある。
奇妙なことを言われている気がするが、真面目にサポートするしかなさそうだ。
「えー…… そうですね…… じゃあ邪竜の約束についてはどうでしょうか? 何の約束を守れば世界を滅ぼされずに済むんですか?」
「約束? あー、あれは気にしなくていいよ」
「えぇ…… そう言われても守れないと困るんですけど……」
あまりにも軽い返事。間違いなく外れだろう。
「実際、意識し過ぎると逆に守れないから内容は非公開にしたんだ。難しいね。それはそうとして、邪竜が出てくることは伝えないといけないからあんな感じになってるんだよね。」
「それはつまり、どの世界もいずれは必ず邪竜に滅ぼされるということですか?」
「何事にもいつか終わりは来る。もちろん世界も例外じゃない。永遠に何かを持続させるというのは難しいことだよ。」
「強いて言うなら…… 悔いなく全力で…… いや、無理せず程々? とにかく自分のペースで頑張っていけということくらいかな? これに関しては本当に特に言えることはないよ。それで世界が終わっても困るからね」
大した答えは得られなかったが、逆にどうしようもないことが分かったのは良かったのかもしれない。
「そうですか…… 分かりました。じゃあ、いなくなった神々を戻す方法とか?」
「あっ、それだ! 世界の外に逃げてた神々の回収には成功したよ。現在修復作業中だね」
「それはよかった…… いや、修復中ってどういうことですか?」
これはとても良い話題を引けたと思ったが何やら少し不穏だ。
「作られた世界の中の存在は、世界の外側では生きられず存在が崩壊してしまうんだ。崩れる前に運よく別の世界に転がり込めば何とかなるけど、滅多にないね」
「それで、みんなバラバラに?」
「回収も大変だったよ。細かくなった神々の欠片を一つ一つ拾って、いい感じに並べるだけでも苦労した。でも全部何とかなりそうだ。君が旅を終えるころにはこの世界に戻せるぐらいにはなると思ってるよ」
「この世界の外側で生きられるのは上位存在だけ…… いや、世界を放浪する存在"ドリフター"も一応耐えられるね。とにかく、いくら強くても創造物は簡単には世界の外側で生きられないんだ。間違えて飛び出す程世界は狭くないけど、覚えておいてね」
「わかりました。ひとまずありがとうございます。」
予想よりもすごいことになってはいたが、1つ難題がほぼ解決しているのはかなり嬉しい。
「とりあえず1つ思い出せてよかった。ありがとう。ついでに、あと2つくらい話すことがあったことを思い出したよ」
「まだ、あるんですか?」
「……うん。ああ、でもいいアイデアがある。口だけでなく体も動かせばもっと効率よく思い出せるはずだ。君も丁度退屈になってきたところなんじゃないかな? 一回バトルしよう」
「バトル!? 今ここで?」
確かに面倒だとは思い始めていたが、まさか戦うことになるとは考えていなかった。
「そう。夢だから何があっても特に現実には影響はないし、ちょっととっておきのバトルも考えてある。きっといい経験になると思うよ」
現実に影響が出ないと考えると、そこまで悪い提案でもないかもしれない。
それに、とっておきのバトルというのは少し興味深い。
「わかりました。バトルしましょう!」
「よし! それじゃあ早速、僕の数少ない特技を披露する時が来たね」
そう言うと、0号は急にその場に座り込んだ。
その状態で体が前後左右にグラグラと急に動き始める。
しばらく見守っていると、突如として背中を突き破って何かが立ち上がった。
そこには俺と瓜二つの人物が立っていた。
違う点と言えば、身につけている装備の色がオレンジ系ではなく青系であることだけだった。
座っていた0号はそのまま塵になって消えてしまった。
「この通り、僕はモノマネが得意なんだ。姿や声、そして強さをコピーすることができる。自分との戦いって結構人気の題材だと思うんだ。装備の色は見分けがつくように変えてるよ」
そう言う0号の声は自分が喋ったと錯覚するほど似ていた。
あの女神様の呼びかけも恐らくモノマネだったのだろう。
「それじゃあ始めようか。好きなタイミングで攻撃してもいいよ」
互いに一度距離を取り向かい合う。
夢にも思わなかった自分との戦いが始まろうとしていた。




