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アーチャーへのレクチャー

しばらく歩き続けると、空が徐々に枝葉で見えなくなって行き、道も徐々に険しくなっていったが、急に開けた場所にたどり着いた。

そこには森に馴染むような、落ち着いた雰囲気の建物がいくつか建っているのが見えた。


「着いた! ここがエルフの村よ! 空気が美味しいし、静かで落ち着く感じがするでしょ? この平穏を守るためにもあなたには一人前の弓使いになってもらうわ。そうそう、宿屋はあのオレンジの屋根の建物よ。あなたの部屋は事前に取ってあるから宿代の心配はせず、存分に練習してね!」


「は、はい…… ありがとうございます。」


彼女がかなりこの計画に真剣なのは分かっていたが、ここまで準備されているとありがたい反面怖い気がしてくる。


案内されるがままに歩いていくと、様々な的がある場所が見えてきた。

しっかりと固定された大きな的、小さな的、さらに魔法で動いているのか一定のルートをふわふわと巡回している的もあった。

足元には少し的から離れた場所から等間隔に線が引かれていた。

おそらく、このうちのどれかに立って射撃するのだろう。


「さぁ、ここが練習場よ! まずは動かない的から始めましょう! 今の実力を見たいから、一旦行けそうなサイズと距離を選んでやってみて。」


(一回使ったことはあるけど、そこまで自信はないな……)


とりあえず一番大きな的の一番近いラインに立ち、矢を放つ。

飛んで行った矢はど真ん中とは行かなかったものの、かなり中心に近い場所に刺さっていた。


「うん、ほぼ初めてっぽいけど、基本はできてる…… エルフの弓使いに匹敵する程の高い弓適正がありそうね! これはどんどん伸びるわ! この調子でどんどん行きましょ!」


そこからは彼女の熱烈なレクチャーが始まった。

適切な姿勢、矢の軌道と弓の射程、風の影響などを教わりながらより遠くからより小さい的を射れるようになるよう訓練は続いていった。


「本当にどんどん上達するわね! この村の子達でも一日でここまで行けるのは、なかなかいないわ。とはいえ、無理して頑張りすぎても逆効果だし、今日はここまでにしておきましょう。」

「そういえば、勇者って弓適正はあるみたいだけど、弓のスキルって何か持ってるの?」


「うーん、特にはなさそうなんですよね。でも、アイテムをスキルに変換するスキルはあるので、何かそれっぽい素材を手に入れられたらスキルは手に入ります。」


「それ、すごいじゃない! それなら明日は森に素材集めに行きましょう! 使えそうな雰囲気のモンスターにはいくつか心当たりがあるわ! ……そのためにもまずはしっかり休まないと! スキルでどれだけ変わるか今から楽しみだわ! それじゃあまた明日!」


彼女は興奮気味に走り去り、後には薄暗く静かな森だけが残された。

急にどっと疲れを感じた俺も宿屋に向かうことにした。


オレンジ色の屋根の建物に入ると、おっとりした雰囲気のエルフの女性がにこやかに出迎えてくれた。


「あら、いらっしゃい。あなたがフランちゃんを手伝ってくれてる冒険者さんね? 村の子達がすごい人間が来たって噂してたわよ~。 そんなに凄かったらあの子の指導も相当激しかったでしょ? ゆっくりしていってね。食事ができたら持っていくから~。」


「ありがとうございます!」


部屋でしばらくくつろいでいると、先ほどの女性が夕食を運んで来てくれた。

運ばれてきたスープとサラダとパンはどれも美味しそうだ。


礼を言って、とりあえずパンを食べる。

特にジャムなどはついていないが、それなりに美味しい。

次にスープを飲んでみたが、どうもおかしい。


(なんだこれ…… 味がしない?)


昼に美味しすぎる料理を食べたせいか、しかしそれにしても味が薄すぎる。

じっくりと味わってみて、ようやく涙で味付けしたかのような微かな塩味を感じることができた。


昼の料理と今の料理を比べたところで、ふとエルフとオークについて思い出した。

彼らはありとあらゆる特性も嗜好も真逆の種族で、大昔はかなり仲が悪かったらしい。


エルフの特徴といえば、弓や魔法など遠距離攻撃が得意で、森で自然と共に暮らすことを好み、慎重派で後回しにしがちな性格、争いを好まず力より知識が重要視される傾向がある。


反対にオークは、斧やハンマーなど近接武器が得意で、自然を開拓して住みやすい家を作ることを好み、豪快で行動的な性格、競争や勝負が好きで力が重視される傾向がある。


もちろんそれは料理にも現れており、食べることが大好きで味にもこだわりがあるオークに対して、食事は楽しむものではなく、栄養を取るものぐらいの認識であるエルフの料理は、調理方法がシンプルで味付けは薄い。


(オークの感覚から考えると薄いって意味だと考えてたけど、想像以上だったな…… )


サラダも改めて見てみると、ドレッシングは一切かかっていないようだった。

食べても食べてもただ新鮮な葉っぱの味だけが口の中に広がる。

今まで食べ物なんて食べられればとりあえずOKぐらいに考えていたが、流石に多少塩ぐらい振っていないと辛いということがようやく分かった。


食器を戻しにいくと、エルフの女性は少し驚いた顔をしていた。


「あら~、全部食べてくれたのね。最近は村の外の人達はうちの料理をあんまり食べてくれないのにすごいわ~。せっかくだし、正直な感想が聞きたいんだけど、どうだった?」


「うーん…… そうですね、全体的にもうちょっと味付けがあった方が嬉しいかもしれないですね。」


「あー、確かに前もそんなこと言われてた気がしてきたわ~。それで、フランちゃんに何かいいレシピがないか聞こうと思ってたけどすっかり忘れてた。また今度会った時聞いてみようかしら。」


あまりの回答に少し思考が止まっていた。

先ほどエルフの特徴を思い出していたが、流石にここまで後回し力が高いエルフは今まで見たことがない。

おそらくは、俺がフランにそれを伝えでもしなければ永遠に料理の内容は変わらないだろう。


しかし、これは逆にチャンスかもしれない。

この状況であればノイズバードを使ったレシピもきっと受け入れてくれるだろう。


小さな希望が見えてきたところで、一旦明日のために休むこととした。

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