おいしい話?
エルフの森へ弓でしか倒せないモンスターを倒しに行くことになったが、まだまだ疑問は尽きない。
森へ向かいながらも、依頼の詳細について色々聞くことにした。
「これから倒すモンスターは、弓でしか倒せなくてCランク相当と言ってましたが、逆に考えると、弓さえ使えれば割と勝てるってことですよね? それならエルフの森の誰かにも頼めると思ったのですが、何か事情があるんですか?」
「察しがいいわね。あなたの言う通り奴を倒すのはそこまで難しくない。でも、誰も倒したがらないの。」
「倒したがらない?」
確かに強くなっていくと、ランクが低いモンスターは素材も討伐報酬も物足りなくなっていく。
とはいえ、新人冒険者が全くいないというのも考えづらい。
「それじゃあ改めて討伐対象、"ノイズバード"について説明していくわ。なぜ誰も倒したがらないか、その答えは…… 色々な意味で美味しくないからね。まずは事前に説明した通り、弓……厳密には遠距離物理攻撃でしか倒せないから、これだけでもちょっと面倒でしょ?」
「さらに、いざ弓で倒したところで、肉は硬くて臭みが強いし、他の素材も同ランクのモンスターに一歩及ばない性能…… 矢を消費するのがちょっと勿体ないくらいよ。」
「なるほど、それはいくら弱くても進んで倒したくはないですね…… じゃあ、それをわざわざ倒したい理由って一体?」
「それはね…… あまりにもうるさすぎるの! ……『えっ、それだけ?』って思ってるかも知れないけど、結構深刻よ。奴ら、数がどんどん増えてて、どんどん生息域が村の方に近づいて来てるの。」
「さらに厄介なことに、あいつらは特に夜活発になる。みんな大げさだって言うけど、このままだとみんな不眠症になるわ! そこまで増えた時には手遅れよ!」
「確かに眠れないのは困りますね。でも、大抵弱いモンスターであれば何か捕食者がいるはずですよね? ノイズバードを食べるモンスターはいないんですか?」
「いるわよ。ジャベリンホーンとダートゲッコーね。どっちも優秀な遠距離武器の素材よ。」
「つまり、彼らはノイズバードを狩るどころか冒険者に狩られているというわけですか……」
「そう、それに森の奥はダンジョンが湧きやすいから、割と冒険者が来るのよね。狩るなとは言わないけど、ついでに鳥も狩って行って欲しいんだけど……」
ダンジョンは世界各地にランダムで発生するが、比較的発生しやすい土地もいくつかある。
中は完全に異空間となっていて、元の生息地と関係なくモンスターが住み着いているため、対応しきれず命を落とす冒険者も多い。
ただ、ダンジョン限定のモンスター素材、宝箱から出るレアアイテムに惹きつけられ、討伐依頼を受けずダンジョンに潜り続ける冒険者もいるほどの恐るべき魔境だ。
「そうなると、俺達でなんとか狩るしかなさそうですね……」
「そうね。でも、もちろんあなたにちょうどいい数になるまで狩り続けてもらうのは厳しすぎるし、時間が経てば同じ状況に逆戻りするでしょうね。だから秘策を用意したの。」
大きな投資をしておいて無策というわけはないと思っていたが、それを聞けて少しほっとした。いくら弱いモンスターであっても大量に倒すのは時間も気力も必要だ。
「おお! それは心強いですね! それで、その秘策とは?」
「それはね……」
そう言いかけた途端、鋭い鳴き声とともに2体のモンスターが目の前に降り立った。
大型犬ほどの大きさのドラゴン、"レッサードラゴン"だ。
「邪魔が入ったわね。丁度2体だし、1体は任せたわ!」
そう言いながら、彼女は身の丈ほどもある大きな斧をインベントリから取り出して構えた。
俺も剣を構えて、レッサードラゴンと向かい合う。
アナライズで確認した所、Cランク後半のモンスターらしいが、今さらこれぐらいのモンスターに苦戦していられない。
吐き出される火球を剣で切り払い、飛び掛かって来たところに剣を合わせて、そのまま真っ二つにする。
フランの方を見ると、大きな斧で火球を防ぎ、噛みつきをはじき返し怯んだ隙にそのまま真っ二つにしていた。
重装備を感じさせないような無駄のない動きは、彼女がそれなりに腕の立つ冒険者であることの証だろう。
「さすがは勇者、これくらい朝飯前って感じね! 秘策の説明だけど、丁度ここにいい食材があるし、昼ご飯ついでに説明するわ! 調理するからちょっと待ってて!」
言われるがままに適当な石に腰掛けていると、彼女は目にも止まらぬスピードでドラゴンを捌いた。
そして、鉄板と複数の小瓶を取り出し、肉に何かを塗ったり振りかけたりしながら手際よく焼いていった。
その手際の良さにも感動させられたが、調理中に漂う香ばしい香りは、それが間違いなく美味しいものであるということを直感でわからせて来ていた。
そうしてついに料理が目の前に姿を現した。
それは、スライスされた肉が並べられただけのシンプルなものだが、圧倒的存在感を感じる。
「最初にこの肉を食べて、その後他の肉を食べてみて!」
「はい、ありがとうございます。いただきます。」
まずは勧められた通りに肉を食べてみる。
シンプルに塩だけで味付けされているが、絶妙な焼き加減のおかげか程よい柔らかさになっており、あふれ出た肉汁の旨みが際立っている気がした。
鶏肉とも牛肉ともつかない不思議な味だったが、間違いなく人生で一番美味しい肉だった。
次に緑の粉末が振りかけられた肉を食べてみる。
口にした瞬間、今まで体験したことのない不思議な風味が広がった。
なんと表現して良いかはわからないが、さっきよりもさらに美味いのは確かだ。
ソースのかかった肉、スパイスのかかった肉、どれも同じ肉なのに味わいは全く違い、どれが一番か決められないほどだった。
(美味すぎる…… 人生最高がどんどん更新されていく)
「ふふ、そこまで夢中になってくれると作った側としても嬉しいわ! 食べて分かったと思うけど、ベースの素材は同じでも味付けによって全然印象が変わるでしょ?」
「はい、うまく表現できないけど、全部違った味でとても美味しかったです!」
「それは良かった! そして、これがさっき説明しようとしていた秘策なのよ!」
「オークの言い伝えに『この世に不味い食べ物はない』って言葉があるけど、その言葉通りノイズバードにも美味しい調理方法が必ずあるはず! 今までの修行の成果を発揮して、調理方法を見つけ出せば、あの固い肉も手ごろに手に入る良い食材に早変わりよ!」
「なるほど! 倒す価値を見つければ、倒してくれる人が増えるってことですね!」
「そういうこと! だからあなたに倒して貰うのは、レシピ開発に必要な分だけ。それが終わったら自由よ。」
「最初は村の練習場で弓の基本から始めましょ! そうと決まったら出発よ!」
こうして、目標を確認した俺たちはエルフの森に向けてまた歩き出した。