見覚えのある町、そして想像の10倍の
光の玉を追いかけていると、すぐに町らしいものが見えてきた。
ただ、その町は初めて見るはずなのに何故か懐かしい感じがした。
町の入り口に着くと、そこには大勢の人が集まっていた。
もしかして、勇者である俺を歓迎してくれようとしているのだろうか。そう思っていたが、何だか皆不安そうな顔をしている。
(大勢の人に見られるだけでも緊張するのに…… なんとか勇者っぽい挨拶をしないと)
緊張で少し固まっていると1人の男性が声をかけてきた。
「あの…… こんな事を聞くのもどうかとは思いますが…… あなたは勇者様ということで合っていますでしょうか……? お供のカーバンクルも連れていないようですし……」
(勇者にカーバンクルがついているとは知らなかった…… でも女神様は特にカーバンクルの話なんてしてなかったよな……)
「勇者よ、落ち着いて下さい。あなたには残念ながら相棒となるカーバンクルがいませんが、勇者であることには間違いありません。前世と同じように、<ジョブ表示>のスキルで勇者であることを示した方が良いでしょう。職業神の加護により、表示内容を偽ることもできませんし、町人たちも信頼してくれるでしょう。」
そうだった、ジョブ表示をすれば良かった。女神様のアドバイスがなければ思い出せなかった。
転職所でジョブを初めて授かった際に、絶対に覚えられるスキルであるジョブ表示。
ギルドで登録する時や、パーティを組む時に使うものだったが、前世ではパーティを組んだことがなかったので、すっかり忘れてた。
(戦士の職業を授かった時は嬉しくて何回も表示してたりしたな…… とりあえず表示させてみよう)
スキル名を念じ、手のひらを上に向けると、"勇者 Lv.3"と書かれた板のようなものが空中に現れた。
恐らくアダマンスライムとの戦いでレベルが上がっていたのだろう。
「この通り、確かに俺は勇者です。」と言おうとした瞬間――
ワアアァッ!!――
勇者だ! 本物の勇者様だ!!――
今まで不安そうだった町人たちが一斉に喜び始めた。
信じてもらえてホッとした。そして、自分の到着で人々がここまで喜んでくれると、何だか自分も嬉しくなってきた。
興奮が少し収まってくると、最初に話しかけてきた男性が真剣な表情で話し始めた。
「先ほどまでは疑ってしまいすみませんでした。この世界には何故かずっと勇者が現れていなかったので、すぐに信じることが出来なかったのです」
「神官の言う通りであれば、女神様によって別世界から転移して来たのですね? わざわざ違う世界から来ていただきありがとうございます。」
(魔王を倒して、この人達が毎日笑って過ごせるようにしなければ……)
この人達の期待に応えられるよう頑張ることを改めて決意した。
「気にしないでください。 恥ずかしながらまだ勇者になったばかりですが、力をつけていずれは魔王を討伐します。」
俺の言葉を聞いてか、町人たちがまた歓喜の声を上げた。
「ありがとうございます! 勇者様にそう言っていただけると頼もしい限りです」
「改めまして、自然の町フローリアにようこそ! 宿については、教会横の家をお使い下さい。そうそう、この町には冒険者ギルドもありますし、討伐して頂いたモンスターの素材の買取もできますぞ!」
(フローリア! 前世で俺が住んでいた町だ!)
どうりで既視感があったはずだ。異常気象で雰囲気が変わっているが、近くに広い草原と森がある所は変わっていない。
改めて元の世界と似た世界だということを実感する。
「この近くの魔王は、10体のうち最も弱いとされる6番目の魔王です。勇者様なら必ずや討伐できると信じています。」
耳を疑った。有り得ない言葉が聞こえた。
(今、10体の魔王って言ったよな!? 普通1体のはずじゃ…… 勇者が現れなかったせいなのか!?)
聞き返したくなったが、今更そうするのもカッコがつかないと思ってしまった。
(聞きたいことはたくさんあるが…… 女神様に聞くのが手っ取り早いだろう。)
ひとまず宿に案内してもらうこととして、魔王については、女神様に改めて聞いてみることにした。