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サイコロを振らない者

魔王との戦いを終えて宿屋に戻る。

普段なら翌日にでも次の魔王を討伐しに向かうところだが、今回はそうはいかない。

次の魔王討伐までしばらく間を空ける必要がある。


(ここまでこの世界に来てから魔王討伐の事ばかり考えてたからな…… いざ一旦休止とすると、何をしていいか思いつかないな)

何をしようかとぼんやり考えていると、リモレイドが発動した。

これからの事を考えるよりまずは魔神を倒す必要がありそうだ。


転移した先はまた見慣れない平原だった。

周囲を見回しても元居たゴルディアスは見えないが、ロッティは参加できたのだろうか。


(つい反射的にリモレイドで飛んできたけど、一回カジノとか探しに行くべきだったかな…… いや、わざわざ危険な戦いに参加させることもないか……)


「やっぱり君も来たんだ! まあ、例の魔法があればどこで始まっても絶対に来られるっぽかったしね」

色々考えていると、不意に後ろから肩を叩かれた。ロッティだ。


「あなたこそ! ゴルディアスからは遠そうなのに、よくここに来ましたね」

逆にこの広い世界からリモレイドなしでよくこれたものだ。


「アタシって結構顔広いから、魔神戦の告知が来たら教えてって友達にお願いしてたんだよね。そんで、結局適当に山張って移動してたら告知が聞こえたんだけど…… これも運命ってことよね!」

何という幸運だろうとも思ったが、一方で7号がわざと挑戦者を呼び込んだのではないかという気もした。

ともかく、仲間は多いことに越したことはない。


そうしていると、いつもの通り奇妙な声が聞こえてきた。


――――――――――――

何者にも囚われず回り続けるもの

この世に混乱をもたらすもの

その回転は全てを翻弄し、嘲笑う。

その神の名は『ネレ・ファトゥム』

全てを狂わせる止まらぬ運命

――――――――――――


声が止むと、急に空から巨大な何かが降ってきて、轟音を響かせる。

同時に激しい土煙が巻き起こり、思わず顔を覆う。


「ご機嫌いかがかな? 人類諸君。君たちの運命の分かれ道が今やってきたぞ。」


土煙が晴れると、スロットマシンを円柱状に並べたものの上にルーレットが乗った奇妙なオブジェがそこにあった。

その上には立ち上がったウサギのような姿の魔神、7号が立っていた。

カラスのような黒い翼、猫のような黒い前足、黄金の蹄を持った後ろ足、不思議な姿をしている。


「何あれ!? 魔神ってあんな妙なやつなの? あんま強そうに見えないけど……油断しちゃダメよね。」

黒い翼を広げ、不敵な笑みを浮かべているが、恐ろし気なパーツもないし、サイズもおそらく3メートルもないくらいだろう。

確かに見た目はかなり弱そうだが、油断はできない。


「さて、早速ルール説明に入ろうか。君たちの勝利条件は私が立っているコレ、運命の車輪を破壊することだ。簡単だろう? 制限時間は30分だ。それ以上はその人数でも持たないだろう? 下振れないように気をつけろよ。」

「それでは、開始! グッドラック!」


激しい音と光を放ち、スロットマシンから人間の頭ほどもあるコインがとめどなく溢れてくる。

コインの両面には魔王戦のサイコロと同じような絵がついており、絵柄に合わせた魔法攻撃があちこちで発生していた。

一度見たことがあるとはいえ、サイコロとは比べ物にならない数が襲ってくるのは結構厳しい。


試しにコインを切りつけるとあっけなく割れる。

しかし、一回目は分裂して小さなコインになるようで、二回目で破壊できた。

この点はサイコロよりましだが、元の数が多いためかなり鬱陶しい。

周囲の人々も大量のコインに翻弄されているようだった。


そんな状況の中、魔神はルーレットの中心で玉乗りをしていた。

下の混乱をよそに軽快なステップで白い玉を乗りこなしている。

さらに、激しく飛び交う魔法や矢を踊るような動きで躱し続けている。


そこに、武闘家や忍者のような身軽な職業の人々が直接攻撃を仕掛けに行くのが見えた。

魔神を倒すのは勝利条件に含まれていないが、何をしてくるかわからない。

今のうちに妨害出来れば楽に倒せるかもしれない。


その考えが甘かったことはすぐに思い知らされた。

魔神が両腕を広げ、爪を素早く伸縮させると、ごろごろと抉り出された心臓が転がり落ちた。

さらに、その犠牲を無駄にしまいと飛び掛かった戦士を回し蹴りで鎧ごとぐにゃぐにゃにしてしまった。


何というパワーと正確性だろうか。

従来の魔神と同様に範囲攻撃持ちかつ、強力な単体攻撃まで持っている。

これは大人しく運命の車輪の破壊に専念した方がマシだろう。

勝利条件が魔神の討伐だったら、全滅の可能性もあったかもしれない。


さらに、魔神は乗っている玉をルーレット上に蹴りだすと素早く飛び立ち、ルーレットの周囲をぐるりと飛び回った。

そうするとルーレットも回りだし、楽し気な音を立てて玉が転がりだす。

そして、様々に色を変えながら転がっている玉が急に飛び跳ねて外に転がりだした。


外に飛び出した赤い球は少し転がると激しい爆発を引き起こし、燃え盛るエリアが発生した。

さらに追加で複数の玉が転がる音が聞こえてくる。

この調子だと他の属性の玉も次々転がって来るだろう。


「これとこれは残ってても良くて…… こっちのはくっつけちゃダメで…… あっ!今度はこの組み合わせになるからこれを壊さないとで……」

横ではロッティが必死にコインを破壊していた。

どうやらもうシナジーを理解しているようで、的確に魔法で危険なコインを破壊している。


そうしていると、丁度頭の上に黄色の玉が転がり出してきた。

単純に避けてもいいが、そのままでは徐々に逃げ場がなくなるだろう。


武器をハンマーに持ち替えて、玉を打ち返すと勢い良く運命の車輪にヒットした。

運命の車輪は少しぐらつき、大きな音を立てながらスロットマシンの一つが停止したようだった。


「ふむ、10分も持たないかと心配したが、それなりにやれるようだな。それでは次の段階に入ろうか。少し刺激が欲しくなった頃だろう。」


魔神が話し終えると同時にルーレットの側面部分が剝がれ落ちた。

その中には糸巻のように緑色に光る糸が巻きつけられていた。

糸は急速にほどけ始め、一定の長さずつに切れてあちこちに飛んで行くと、人々の体に吸収されていった。


特にダメージはなさそうだと考えていたが、突如混乱が起こり始めた。

次々に人々の装備が壊れたり、不自然に攻撃が当たりづらくなっているようだった。

この糸を浴びると何かしらの不運な事態が発生するということだろう。


「そろそろ私も楽しませてもらおうか。」


瞬きする間に魔神が地上に降り立っていた。

さらに、長い爪で舞うように首を刎ね、輝く蹄で鎧もろとも人を踏み砕いていた。


「やあ勇者。ついに君と直接戦う機会ができたな。どれだけやれるか見せてもらおうか!」

ついに魔神がこちら側にやって来た。

ここで時間を稼ぐことが出来れば、だいぶ人数の減少が抑えられるだろう。


激しいパンチの雨と、強烈な蹴りが襲い掛かってくる。

パンチは防御、蹴りは回避しないととてもじゃないが耐えられない。

実際のところパンチも体がしびれるような重さだが、これを回避しきるのは不可能だ。


立て直そうと切り返してみたが、片手で受け流され、鋭い蹴りで吹き飛ばされる。

今度こそ本当にまずい状態だ。


その時、突如として巨大な鉄の拳が魔神を吹き飛ばした。

何が起こったのかはわからないが立ち上がるチャンスができた。


「魔神! 直接殴りに来てやったわよ!」

そこには先ほどの拳と同じ見た目のガントレットを身につけたロッティが立っていた。


「なるほど、夢想家か。サキュバスにはかなり相性が良いジョブだ。これは少し楽しめそうだ。」

魔神は吹き飛んだものの、ほとんどダメージはなさそうだった。


夢想家は想像したことをなんでも魔力で再現出来る万能職業だ。

しかし、実際になんでもやるには想像を実体化するテクニックや魔力の制約が厳しく、器用貧乏になりがちなため、すぐやめてしまう人が後を絶たない職業と言われている希少な職業だ。


「チャームができない分こっちは結構頑張ったのよ! 伊達にサキュバスやってないわ!」


「助かりました! 二人ならまだ魔神を止められます!」


「いや、キミはあのルーレットの方をお願い! 時間も結構減って来たし、何より私には切り札がある!」


「あの魔神をなんとかできるんですか!?」


そう言っている間にロッティの両手足が変化して魔神のものと近い形態になった。


「これであいつと同じ能力になったから、2分ぐらい耐えられるはず! それまでに頑張って!」

直後、魔神とロッティの激しい攻防戦が始まった。

間に入る隙はないし、一秒も無駄にできない。


運命の車輪は半分ほど壊れているようだった。

ルーレットの攻撃は続いているが、コインの攻撃はかなり大人しくなっている。

これなら全力で攻撃できそうだ。


運命の車輪に向かって駆け出すと、突如何かが絡まり転びかける。

(これは、緑の糸! こんな時に限って発動するなんて……)


時間を浪費して少し焦る。

この程度の不運で済んだと思考を切り替え、攻撃に向かう。

急ぐ必要があるが、焦りは禁物だ。


とにかく集中し、最小限の動きで避け、最大火力を叩き込む。

多少のダメージは太陽の冠で打ち消せる。コイン単体の攻撃は気にしない。

ありったけ腕力強化、全身全霊全てをかけてハンマーを振るう。

動かない的にのみできるがむしゃらな攻撃。


腕の感覚も時間の感覚も分からなくなってきた。

何秒経ったか、何分経ったか、どれだけダメージを与えられたか。

どれも分からず祈るようにハンマーをふるい続けた。


振るったハンマーがどこにも当たらず、ただ地面に突き刺さる。


(おかしい…… ついにまともにハンマーも振れなくなって来たのか?)

体に鞭を打ちハンマーを持ち直し、再び狙いを定めようとする。

そうしていると、急に目の前が暗くなり始めた。


「危ない!」


突如として、横から何か飛び掛かって来て、されるがまま地面に押し倒される。

直後にガラガラと音を立てて、運命の車輪は崩れ落ちて行った。

そこでようやく魔神に勝利したことに気づいた。

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