運試しの魔王
交換所はすっかりもぬけの殻だった。商品も受付の人も全て消え去っていた。
この交換所自体教団の罠だったのだろうか。
落とし穴の部屋に戻ると、部屋の隅に怪しげな札の貼られた石が置いてあった。
おそらくこれが魔力を封じている結界の要のようなものだろう。
何か体が重くなるようなオーラを放っている。
ハンマーで砕くと、部屋に満ちていたオーラが消え去り、体が少し軽くなった。
試しに手に魔力を集中してみると、魔力球を生成できた。
これで万が一のことがあっても魔法が使える。
「ロッティさ……」
そう言いかけた時にはもうロッティがこちらに飛びついて来ていた。
「あー! 怖かった~! もう誰も助けに来なかったらどうしようかと思った! 本当にありがとう~!」
確かにここで誰にも見つけられず死を待つだけというのは相当つらいだろう。
「そういえば、あの石版結局あいつらが持って行っちゃったってことよね? ってことはまた魔神が出てくるってこと?」
「そういうことになりますね。」
簡単に魔王と魔神の関係性を伝えた。
「結局メダルも取られたし、魔神は出てきちゃうし、ホント頭にきた! 私決めた、次の魔神絶対に直接ぶん殴ってやる! 運ゲーの魔神なら得意分野よ。サキュバスの意地ってのを見せてやるわ!」
正直なところ、サキュバスの強みは魅了とエナジードレインと夢を操る魔法だが、とても魔神に有効とは思えない。
ただ、それ抜きでも魔法が得意な種族ではあるため、参戦してくれるのはありがたい。
「そういうわけだから、魔神戦の時は絶対呼んでね! というか呼ばれなくても絶対に行ってやるわ!」
「……わかりました。絶対に勝ちましょう!」
今日のところは一旦解散して、明日7番目の魔王を討伐することにした。
運を操る魔王の攻撃は全く想像もつかないが、とにかく戦ってみるしかない。
翌日、都市から少し離れたところの魔王門をくぐる。
門の先の魔王は自分の身長の倍ほどある緑色の箱でそれぞれの面には何か絵が描かれており、サイコロのような姿をしていた。
運を操るイメージにはピッタリ合っている姿だが、いったいどのように攻撃をしてくるかはやはりわからなかった。
アナライズで確認したが、特殊な耐性などは持っていないようだ。
一歩前に出たとたん、魔王は激しく部屋中を回転しだした。
剣でなんとか突進を防ごうとするが、その巨大さに見合った重量で弾き飛ばされてしまう。
ひとしきり転がった後、急に魔王が止まると面の絵が全て雷マークになり、スロットが当たった時のような楽しげな効果音と光を放つ。
直後、面の一部が開き雷の玉が四方八方に放たれる。
玉は壁や他の玉に当たると跳ね返り、不規則なスピードで部屋を飛び回っていた。
背中から激しい電撃が体中に走る。
しかし、最初の印象ほどのダメージはなさそうだった。
奇妙に思い、アナライズで雷の弾を調べると、追加効果として50%の確率で麻痺状態になると書かれていた。
特殊な追加効果を持つ技は威力が低くなる傾向があるので、それで思ったよりダメージがなかったのだろう。
しかし、麻痺無効があるからただの弱い攻撃になっているが、多数の雷球のどれか1つでも触れてしまえば動けなくなる可能性があると考えるとなかなか恐ろしい技だ。
雷球とは対照的に魔王は一切動かなくなっていた。
この攻撃パターンは受けるダメージのことも合わせてかなりのチャンスだろう。
すかさずハンマーで打撃を加える。
電撃の痛みに耐えながら何度か叩くと、魔王にひびが入り縦半分に割れてしまった。
「えっ、もう終わりなのか?」
あまりの決着の早さに驚いてつい呟いてしまった。
しかし、これが間違いであることがすぐにわかってしまった。
割れた魔王にさらに横切るようなひびが入ると、魔王は4つのサイコロに分裂していった。
そして、最初の時同様に激しく転がり始めた。
数が増えて躱しづらくはなったが、重量は減っているので受け流すことはできた。
ただ、問題は止まった後だ。
次々と魔王たちが動きを止めて、激しい音と光を放つ。
1つは先ほど同様雷だったが、残りは炎、氷、爆弾のマークが輝いていた。
突如、炎のマークの魔王が全ての面から火を噴きだしながら、先ほどより遅めのスピードで部屋の中を転がり始めた。
回避はしやすいが、炎に包まれているため攻撃は少し難しそうだ。
氷マークの魔王が不規則に回転しながら氷柱を周囲にばらまいている。
ただ、その一部は炎の魔王によって溶かされて水になっていた。
これは運がいい組み合わせだったかもしれない。
爆弾マークの魔王は火が付いた爆弾を次々と床に転がしていた。
炎によって即時爆発するものもあれば、床の水たまりで鎮火してそのまま消えてしまうものもあった。
足元に転がって来たものをやさしめに足で転がし返すと、魔王に直撃してダメージを与えられたようだった。
この形態も攻撃のチャンスがありそうだ。
突如足元に痺れる痛みが走る。
気づけば足が水たまりに入っており、そこに雷球が飛んできて感電したようだ。
これはちょっと面倒だ。
爆弾を転がして爆弾の魔王を倒し、そのまま雷の魔王をハンマーで砕く。
そうすると、ハンマーで砕いた魔王はまた4つに分かれていた。
爆弾の魔王の方を見ると、やはりそちらも4つに分かれていた。
大小合わせて10体の魔王が転がりまわっている。なんとややこしい光景だろう。
小さい魔王はかなりのスピードで転がっている。
これはもうハンマーで追える速度ではない。
意を決して小さくなった魔王を剣で勢い良くたたき切ると、ついに魔王は粉々になった。
つまりこれが最後の形態だ。終わりが見えてきた。
回転している間に小さい魔王を4体破壊することができた。
これで大きい魔王が2体、小さい魔王が4体の状態になった。
大きい魔王は氷と爆弾になり、小さな魔王は全てカードのマークになった。
他のマークと違って何が起こるか全く予想できない。
小さい魔王たちはカードをまき散らしながら転がり始めた。
そのカードには魔王に付いていたマークと同じものが付いていた。
そのカードが光りだすと、氷柱や火柱、爆弾、雷球、毒ガスなどが発生し始めた。
中にはカードマークが付いたカードもあり、そこからはさらに2枚のカードが飛び出してきた。
(これは放っておくと収拾がつかなくなるな……)
コロシアムのキメラがやったように、毒ガスと火がぶつかると強い爆発も起こっていた。
カードは一度効果を発揮すると消えるようだが、それより速いペースでまき散らされていた。
なんとか小さな魔王に狙いを定めてライトアローを放つ。
攻撃を避けながらのため何発か外してしまったが、小さな魔王を全て砕くことができた。
爆弾の扱いにも慣れてきて、素早く蹴り返して残る2体の魔王も撃破する。
そして、分裂直後にライトアローを連射して素早く小さな魔王を砕く。
ただ、1体撃ち漏らしてしまったようで、爆風の中から転がりだしてきた。
すかさず追撃しようとすると、手が青い光に包まれる。
これはブレイブエッジの時と同じ光だ。
ブレイブエッジの代わりにブレイブライトアローを放つと、ついに最後の魔王も消え去った。
そしてまた白い光に包まれていった。