黄金都市
エストポルトから南に進むと、賑やかな都市に着く。
黄金都市ゴルディアス、クレイワークアイランドが自然の観光名所なら、こちらは娯楽に満ち溢れた観光都市だ。
オークが作った都市だけあって、多種多様なグルメや強者が日夜集まるコロシアムの試合観戦を楽しめる都市だった。
しかし、今はそれだけではない。
さらに人々が集まり繫栄していった結果、今や巨大なカジノが立ち並び、夜も都市は輝き続けている。
どれだけ金を持っていても、遊び足りることのない都市とは言われているが、今回の目的は魔王討伐だ。
道を歩いて行くと美しく着飾った人々や大きなカバンを持った人々が歩いているが、ちらほらと歴戦の戦士のような人々が歩いている。
彼らはコロシアムで戦っている人なのだろう。
「勇者よ! 見てくださいここの交換所の商品……」
いきなり女神様が声をかけてきた。
そばにあった店の商品の中にはなんと、石板が置いてあった。
光ってはいないため、2号以外の石板のようだった。
石板を見ると下には値段のようなものが書いてあったが、どうやら普通の硬貨とはデザインが違うようだった。
交換するには黄色いメダルと赤いメダルがそれぞれ1万枚必要なようだった。
おそらくカジノのゲームなどで稼ぐ必要があるのだろう。
近場のカジノに入ってメダル交換所に行くと、黄色のメダル1枚につき100Gが必要だと分かった。
単純に考えると100万G。これだけでもかなりの大金だ。
とりあえず100枚ほど買ってみて、近場にあったスロットマシンに挑戦してみることにした。
メダルを1枚入れてレバーを引くと、3つの絵がついたリールが回転し始める。
そのリールの下にあるボタンをそれぞれ押してみると、木の実のような絵が一列に並んだ。
そうすると、スロットマシンからメダルが1枚出てきた。
最初に1枚入れたため、差し引きは0だ。稼ぐなら別の絵を揃える必要がある。
やっていくうちに、だんだん絵柄を揃えるタイミングが分かってきて、メダルを稼げるようになってきた。
スライムが揃うと5枚、ゴーレムが揃うと10枚、ドラゴンが揃うと15枚、この辺りまではいくらか狙って揃えられるようだった。
しかし、揃うと100枚になる星マークはどうにもうまく揃えられなかった。
手持ちが1000枚ほどになったところでかなり疲れてきた。
体は動かしていないが、ボタンを押すタイミングは結構シビアなので、凄く神経を使う。
「お兄さん初めてっぽいけど、結構ずっとやってるね。ハマっちゃった?」
隣にいた女性が声をかけてきた。
赤い袖のないドレスを着て、高そうなブレスレットやネックレスを身につけている。
それでいて、かなりカジノ慣れしていそうな言葉、カジノ常連の人なのだろうか。
「どちらかというと、どうしても手に入れないといけない景品があって…… でもなかなか溜まっていかないですね。」
「そういうことね! 君は戦士系っぽいしスロットは目押しで結構行けてたって感じかな? それができる代わりにちょっと獲得量が渋いのよね。とはいえ、ほしい景品次第では全然足りないだろうけど…… 何を狙ってるの?」
「石板です。黄色のメダルと赤のメダルが1万枚ずつ必要なんですが、赤い方はまだどうやって手に入れるのかもわかってなくて……」
「あのつい最近入荷されたバカ高い石板!? あれただの古ぼけた石にしか見えなかったけど、そんなにすごいものなの?」
「はい、最近魔神が各地に現れているのは知っていますか? 実はあれと似た石板によって召喚されているんです。あれが邪竜教団の手に渡ってしまえば、また魔神が召喚されることになります。」
「そんなにヤバいものだったなんて…… っていうかそんなこと知ってる君は何者? まさか、勇者とか?」
「はい、そうです。」
「……ホントのホントに?」
「はい。」
確かに急にこんな話をされても信じられないだろう。
職業表示で勇者であることを証明した後、この話を信じたらしく、女性は一段と真剣な表情になった。
「それは何としてでも稼がないとまずいわね…… よし分かった、私も協力する! 黄色の方は私に任せて! 赤いメダルの方はコロシアムで勝たないと手に入らないから君に任せた!」
協力者になってくれるのは心強い。
さらに赤いメダルの入手法も知ることができた。
「自己紹介してなかったわね。私はロッティ、三度の飯よりギャンブル好きなサキュバスと言えば私のことよ。……それで、早速なんだけど、もしよかったらさっき稼いでた分、元手として貸しておいてくれない?」
「もちろんです。どうぞ!」
「あら、初対面なのに思ったより簡単に貸してくれるのね。」
「俺より間違いなく勝てそうだと思ってますし、最悪召喚されたら倒せばいい話ではありますから…… もちろん戦わなくて済むのには越したことはないですけどね。」
「いや、貸してもらったからには必ず増やして見せるわ! 君もコロシアム頑張って!」
「はい、必ず勝って戻ってきます!」
コロシアムに向かうと、まず選手登録の手続きが始まった。
ダミー人形相手に戦闘を行い、適正ランクを決める。
「アンタ、なかなかやるな。Sランクからスタートだ。」
「ありがとうございます。それで、1万枚メダルを稼ごうと思っているんですが、ちょうどよさそうな相手っていますか?」
コロシアムで戦う相手は大きく2つに分かれる。
1つは俺と同じように選手登録をした人、もう1つはここで用意されたモンスター。
選手同士の場合、試合前に互いに決まった数のメダルが引かれて、勝った方が全てもらう。
モンスターの場合、元手は必要ないが、戦闘訓練を受けた強力なモンスターと戦うことになる。
「それならちょうど1万枚のモンスターがいるぜ。だがこの枚数だ、勝ったものはほとんどいない。本当に挑むのか?」
「はい、それでお願いします。」
控室に向かい戦いの準備を進める。
ここでは自前の装備は使えない。ここで貸し出されている装備を選ぶ必要がある。
まずは鎧だ。いつものオリハルコン装備は置かれていない。
軽めのルニウム、重いが頑丈なアダマンタイト、それらを組み合わせたハイブリッドの装備が並んでいる。
ここは普段の使用感に近いハイブリッドのものを装備していく。
武器は、ハンマーについてはいつも通りアダマンタイトを装備する。
杖も無難に魔力が高いルニウム製のものを持っていく。
剣は少し迷ったが、威力が足りないよりましだと考えてアダマンタイト製のものにした。
(弓は…… なんか持っていくか……)
この戦いで少し弓に慣れるため適当に弓を選んでみる。
どれが強いかあまりよくわからなかったが、とりあえず使いやすかったマジックツリーのショートボウを持って行くことにした。
ついにバトルフィールドに足を踏み入れる時が来た。
冠や魔王の武器には頼れない真剣勝負が始まる。